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2024年11月

なんということでしょ〜🤨


ゲットだぜ
#日記
20241113181202-admin.jpeg
2024/11/13 18:12:02

新刊


今6割であとはセリフ調整ではあるんですけどここから長いんだよな
早く脱稿しておきたいよ〜
2024/11/10 10:04:36

うぉ〜ウルフくん


急に寒くなったのでマフラーに埋もれてるウルフくんだ!!うぉ〜あったかくしろ!!
こたつでみかん一口で食べろ!
#ウィッチウォッチ
2024/11/08 18:27:41

2024年10月

🎃


「トリックオアトリート」
って猫耳メイド服きてがおーってするねむちゃんVS
「なんももってねえな」
って両手広げて「どーぞ?」って首を傾げくるんですが
この後イチャイチャするんだよな
#ウィッチウォッチ
2024/10/31 23:35:04

うぉ〜ウルフくん


護衛エッチベルトウルフくんが「おいあんまりはしゃぐなよお嬢様」って言われて
「はしゃいでない」って返すネムちゃん
#ウィッチウォッチ
2024/10/30 13:03:00

ウルフくん!!


夜の街に佇み闇に溶けるウルフくん!!
繁華街でチンピラボコボコにしたのにスッキリしなくてあーつまんねぇって目が死んでる犬雨時期ウルフくんじゃないか!!ここにいたのか

と言うかアニメ化したらここが盛られる可能性あるんですか?(むしろ巻きそうだからなさそう)
2024/10/29 21:49:41

🚬


ウルフくんはタバコ吸わないが似合う
ケイゴはカンシと電子タバコを試しやってなんか思ったのと違うなってなるか、そもそもやんない
ていうかみんなやんないだろ!!
でも見たいんだもん……
#ウィッチウォッチ
2024/10/29 21:45:20

ウルフくんのメモ


手書きメモがめちゃくちゃギャル文字で読めない真神氏という回
「辛斤ι<τ″、キナニ馬尺前@ヶ─≠ノヾィ≠・/勹″美ロ未カゝっナニξ″」
「な、なん、何?なんて?」
#ウルフ
2024/10/25 08:39:23

うぉ〜適当いうウルフくんみたい


敵がネムに化けてて見破るんですけど
「お前……ネムじゃないな」
「そんな、私が偽物っていうの?酷いよウルフくん」
「ネムは二人きりの時オレのことをダーリンと呼ぶ」
「はっ!ふざけやがって!ばれたなら実力行使だ」
「アホか。嘘に決まってるだろ」(ボコボコにする)
※普通に匂いでわかった
2024/10/25 01:19:05

小説更新


pixivにもあるものを置きました。
ウルネムとにゃんちょぎが多め。
2024/10/24 20:10:50

黄泉戸喫


「それはまだ食べるべきじゃない」
とモモに手を伸ばしたネムの手を止めるウルフくん
黄泉で待っている狼は、黒猫を送り返すし、最後に光に目を細めて満足そうに笑う
#ウルネム 
2024/10/22 16:39:51

また祠壊したんか!!


祠壊したネム見たすぎるっていうか、「祠壊したのか、お前」っていうのが似合いすぎでは?ウルフくんはさぁ。
「別に今更だ、前から壊れてんだよこれ」
とかいうよね
#ウルネム 
2024/10/15 15:50:53

2024.10.24 サイト運営開始しました


適宜改修して最強のサイトを作ります。
2024/10/13 02:04:46

夜明けを知らない


#モイランSS #ウィッチウォッチSS
1
長く生きすぎたのかもしれない。いくあてもなく彷徨い、時を消費してきた。
ただ、強さに縋り鬼の末裔という噂があれば道場破りじみた事をして、得るものがなければまた放浪。それの繰り返しだった。

しかし、ここは違う。乙木家の2人は違う。もはや祈りに近い感情を抱きながら仮の宿木として、ここに降りた。

「ラン!さっき技思いついたんだ!見てよ!」

庭で肩慣らししていると朝食を終えたばかりのモリヒトがやってきた。
この子は純粋無垢で、汚れを知らず、そして、ひたむきで。……この子といるとまだ自分が引き返せるのではないかという錯覚を抱きそうになる。
呪いに塗れた世界で、薄汚れた世界でモリヒトは、ただ、そこにあるだけで俺の心を、何も知らなかったあの時まで引き戻す。

「見ててね?ちょっとそこに立ってて?」
「あァ、やってみな、まずどうすんだ?」

「うん、ええっとね、まず、屋根から飛ぶでしょ」
「却下だな」
「なんでーっ?」
「知らんのか、屋根から落ちると怪我をする」
「ランはしないじゃん!この前屋根の上いたよね?」
「気のせいだ。受け身の練習をしろ受身の」
「えぇ〜?やってみないとわからないでしょ?」

「……モリヒト」
「わかったって、ね、つぎはさ、ランの技おしえてよ!」

「あァ、いいぜ」
「やった!」
「けど、そろそろ、学校の時間じゃねえのかい?」
「うわ、ほんとだ!!じゃあ帰ったらね!帰ったら。約束ね?」
「いいから。早く支度しな」

お前と出会うには俺はもう遅すぎたのかもしれない。未来の約束なんて、するべきではない。
モリヒトが父に引きずられて学校に送り出されるのを横目に見る。

「悪いね。」
「いえ」
「はしゃいでるんですよ。私たち以外の鬼には会った事ないですから。……自分がもう少し強ければ相手もできるでしょうけど。あの子の力は日に日に強く育っていきますから……。加減なしで遊んでやれません」
「…………そう、ですか」
「また、手合わせしてやってくださいね。うちならいつだって歓迎ですよ」
「はは」

それだけ言うと仕事があるのでと、出掛けて行った。それを遠く見送る。

あぁ。違うのだ。わかっている。今の社会に溶け込めもしない自分と、あの子は。この家は。あまりにも遠い。なにが違ってこうなったのだろうか。鬼と、鬼。俺と、モリヒト。

「今更、宿木を得たところで」

俺の渇きは癒せんのだ、もうそんな簡単な問題ではない。ただ、そう、ほんの、ほんの少しだけ、この輝きに触れて、俺もお前と同じになれたんじゃないかと。

「……そんなはずもないのに」

遅すぎた。何もかもが遅すぎた。そんなふうに言い訳をして、俺は逃げ出すように、乙木家を出た。

「……さよならだ、守仁」

お前はいつか俺を倒すほど強くなるのだろうか。

─────────────────────

2
「クソっ!なんて強さだ化け物か?」
「おい、こいつまさか……流浪の……?」
「……難癖をつけてきたのはそちらだろう。殴り返されて今更泣き言いうのかい?そいつは筋が通らねえよなぁ」
「……っ、クソっ、おい、引き上げろ、勝てるわけねえよ」

久々に人里に降りてきたらこれだ。……全くこういう輩はいつの時代も一定数存在しやがる。

「はぁ、手合わせにも、なりゃしねえ」
人間との時間感覚が違うのは時折不便だが、しかし、それも長く付き合いをすればという話でしかなく。独りを選んだ自分には凡そ関係しないことだった。
路地裏で座り込んでいると後ろから声をかけられた。

「…………失礼。……君が流浪の鬼か」
「……。はっ。……その名を知っていてお話しってことは碌なことじゃねぇわな。……何かようかい?」
「……まどろっこしいことは抜きだ。流浪の鬼、大嶽嵐」
「……………驚いた。その名を呼ばれるとはな」
「何も殴ることないだろう。」
「何の用だ」
「私の名はシキミ。私も魔女だ。……君にしか頼めない話がある」
「…………聞く義理がない」
「……君と同じ鬼の……乙木守仁の事も関係している話だ。聞くくらいはしても損はないと思うが」

「どうだろうか」

目の前の魔女を名乗る男の話を聞き流しながら深く息を吐く。

「乙木は守るべきものを見つけ、平穏無事に暮らしている。しかしお前はどうだ。未だ死に場所も得られず、彷徨い、しかも1人きりだ」

「シキミ、とか言ったな。お前に俺のなにがわかる?」

「何が、か。何も。人間とは根本的に分かり合えない。そんなことは無意味ですらある。非合理的で虫唾が走る。……それに、お前ほど長く生きるものの、苦しみを誰が理解できる。それができるのは同じく「永遠を生きるもの」だけだろう」

「…………帰りな。くだらない話を長々されても、こっちは何も出せやしねえよ。」

「……また来るとしよう。今度はお茶でも入れて話さないか」

「……するかっての」

「それは、どうだろうか」

「気が変わったらこの植木鉢に水をやるといい。どうせ今日は挨拶程度のつもりだったから」

薄ら笑いを浮かべるそいつが癪に触った。俺の苛立ちを汲み取ったのか「乙木は相変わらずあの家に住んでいる」とだけ告げて俺の元から消えた。

「何の花だよ」

雑草にしか見えないそれを俺は睨みつけた。

────────

モリヒトに会いに行くつもりはなかった。しかし、いつぶりかに聞いた名前を懐かしくも思ったのは確かだ。
あの頃、モリヒトと出会えたこと、過ごした時間は特別だった。死体の山を踏みつけて、生きるような己の人生の中で、ほんの一瞬の、安寧だった。

「……けれど、お前に、とって俺は……。」

人の家の屋根の上に立つなんてのはあんまりお上品とは言えないが。しかし、遠目でその姿を確認するのにはそれなりの立地だった。
結局乙木家の方に足が向いた理由を考えたくもなくて、やはり、来るべきではなかったのだと引き返そうとした。

「モリヒトぉ」

モリヒトが、同級生たちと談笑しながら、学校からの帰り道を歩いているのを見た。

「らしくねぇことだな」

モリヒトが鬼だから、こうも気になるのか?そうでないのか。考えないようにしていた問いかけが再び始まる。
「お前と俺の何が違ったんだ」
腹の奥に眠らせた黒い感情が、静かに、けれど確かに湧いて、心を蝕んでいく。
モリヒトの背はもう俺と変わらない。
モリヒトはこれから成長してゆく。
俺よりもずっと早く。
俺よりも、ずっと、ずっと早く。

「あぁ」

頭を掻きむしっても痛みは消えない。どこも傷ついてもないのに。握りしめた手に食い込んだ爪痕すらも直ぐに消えると言うのに。この痛みだけは消えない。

既に通り過ぎたはずの、慣れてもう何も感じなかったはずの、その感情は。

「…………おまえは、陽の当たる道を行くべきなのだろうな」

俺のことなぞ忘れて、忘れたままで。忘れるように。俺は二度とお前と会うべきではない。

モリヒト達が家に入っていくのを見る前に俺はその場を離れた。

「……そうしたら俺は。」

俺のこの人生は一体、なんのためにあるというのだ。もういっそ終わらせてくれ。こんな、死に損ないの人生なんて。

─────────────────────

3

「思ったより早かったな」

一月後、俺は結局あの植木鉢に水をやり、シキミと話をすることにした。日に日に浮かぶ自分の感情をこれ以上抑えることはできないと思ったからだった。

「ウズを生き返らせれば、継承される。晴れて君の望みは、叶うというわけだ。私からすればジュラを生き返らせるのは君だろうが、君の母親だろうがどちらだって構わない。」

「そうかィ」

「どちらにしろ、乙木守仁は大きな障害だ。しかし君の実力を持ってすれば、容易い事だろう。まさに赤子の手をひねるが如しだ。」
「どうかね。彼奴はそう簡単にゆく男じゃない、だから俺を見つけ出してまで呼びつけたんだろう?シキミ」
「……ふ、まぁ、そうだがな」

シキミの計画のあらましを聞いても今更引く気にもならなかった。この男が自分を騙していようといまいとどうだって良かった。
死ぬ方法があるとするなら。それを利用するだけのことだ。


「……」

「なんだよ、その顔は」

「いや、君は案外子供なんだな」

出されたお茶に砂糖を望んだのがそんなに不服か?と問う。しかしシキミは答えなかった。

「やはり君は我々とは違う生き物なのだな」
「そりゃあそうだろうさ」

今更?そんなことはわかりきったことだ。俺の目線にシキミは露骨に話を逸らした。

「……乙木は他の子達では止められない。君頼りになって悪いね」

「まぁ単純なこったろう鬼には鬼ってわけだ」
「……あぁ」

悪いとも思っていないくせに。俺がこれ以上話す気がないとわかるとシキミは「他の子達は追って紹介するよ」とだけ言って消えて行った。

「……はぁ」

これは、復讐なのだ。
この世界、いや、己の母親への。

「……そうに、きまってる」

けれど、此の命は苦しみばかりだったか?ほんとうに?少しだって喜びも感じなかったか……?

「……お前との、時間は、たしかに」

だから、何だというのだ。その光に触れるのは自分の内側の闇を濃くするだけではないか。

むしろ、お前に触れたから。お前が居たから俺は、この命の終着点を求めた。あんなものを知ってこの先生きていくのは不可能だ。

問題ない。躊躇なくやれる。

その、思い出すらも砕く。
他に方法を知らないから、ほかに、生き方を知りようもないから。そう産まれたのただから。

己の目的の前に立ち塞がるものが、他ならぬお前であったとしても。
お前であるからこそ、そうしなければ進めない。
お前を倒した先でしか、死ぬことは叶わない。

「モリヒト」

お前とていつまでも子供ではないんだろう?

一人きりでいたこどもはもういない。
なのに、俺は未だあの頃と変わらず彷徨い続けている。真に愚かなのは俺だ。

しかし今更、己の感情を口に出す意味もなければ、必要もない。
ただ、ただ、愛おしい過去と決別し、よるべにしていたその輝きを俺は砕く。砕かなければ、ならない。

お前が俺を否定しても、俺はこの先をゆく。
お前の全てを砕いて、この先へ。

「倒さなきゃなんねぇんだ。お前を」

許せとは言わない。許してほしいとも思わない。
この先が、地獄と分かっていても、俺は進むと決めた。
2024/10/13 01:53:28

ブレーキは壊すな


#カンミハ #ウィッチウォッチSS
「わーすみませんどうしてもクロワッサンの気分だったので。しまったな。いない時に食べようと思ってたのに」

「はは。いいじゃねえかもっと食えよお前。」

帰った瞬間この騒がしさなんやねん。ミハルはミハルで「もー食べたら眠いんで寝ます」と自由すぎる。お前のせいでウルフなっとるんやがな。

「あ!カンシさん。おかえりなさい。フフ、今日ははやいですねー。さっきボクお風呂入ったんでそれなりにぬくぬくですよー?カンシさんも入ったらどーです?」

「いや、ワシはまだええわ……ウン」

ご機嫌やん、わけわからんし。つかほんまに寝にいきよったぞあいつ。

「………」

き、気まずない?なんなん。なんで二人きりならなあかんの?めっちゃこっち見るやんこの狼。暇なんかお前。

「…………。アイツ、露骨にお前に懐いてんな」

「は?」

「違ったか?つーか、なついてる範疇に収まるかも怪しいくれえだ。」

コイツの言い分も、わからんでもない。ンなもんワシかておもとるわ。なんなんミハル。さっきのなんかお風呂にする?それともボク?みたいにしか聞こえんワシがおかしいんか?頭おかしなる。

「ヘタレ?」

「しばく」

ケラケラ笑うと「まーたまには餌やらねえとしっぺ返し食らうぞ」と、ありがたい言葉をくれやがる。うるさいわ……ワシは毎秒我慢しとるねんぞ!?

─────────────────────

その頃のミハルきゅん

「はぁー」

中学生に手を出すのはいかに天狗といえども倫理観が邪魔をするのだろうか。けど、おかしいな天狗ってショタコンって聞いたんだけどな(諸説あります)
「今日もダメか、もうちょっとせめてもいいですよねこれ」

今日もお昼寝タイムに入るのだった

─────────────────────


今日は休日。先日のウルフからの忠告のせいで変な意識してもうでまじ最悪や。

「カンシさーん。チャンネル変えていいです?」

「んぁ、?あぁー。ええよ」

なんでわざわざ隣に座るんやお前はリビングでしかもソファの空きスペースこんなにあるのに????バグっとるぞ距離感。
ピタッやないねん。
なんのつもりやねんその肩くっつける奴。彼女か!??付き合っとらんねんけど!?

もうええか?付き合ってることにして。

ええわけないやろ、中学生やぞ。ガキやん。こんなえっちなガキがおってええんか?情緒おかしなるわ。

「何にもやってないですねー。つまんない。」

く、く、首をこてんとすな!!ワシの肩に乗せるな!なんなん???なに???コイツ誰にでもこんなんなん??

「お前、」

「なんですかー」

「いや、ええ、なんもない」

言えるかアホーーーッ!!自意識過剰クソ野郎やと思われるやろが!カッコつけたいねん。年上やねんワシ。年下に振り回されとるの透けて見えたらダサいやん!

「ミハルッテマツゲナガナイ?」

「なんて?なんですか?ネアンデルタール人?」

「ちっともあっとらん」

「急に早口だから……」

目をうるうるさすなお前は。アカンアカンアカン!!!そんな顔してもワシは!!ワシは、!!めっっっっっちゃぐっとくるけど!?!?

そもそも何と戦ってんのワシ!?己の性欲!?そんなもん、勝てるわけあらへんやろが!

「………喉乾いたわお茶入れよ」

とりあえず距離を置かなあかん。マジで、カンシくんのカンシくんがクラウチングスタート決めそう。勘弁してくれや。ほんまに。ここリビングやねん。

「えい」

「ほぁ!?!?」

いっった!?なんでコイツ足かけたん!?ワシのこと嫌いなん?泣くぞ!?!?高校生のマジ泣き見たいんかお前!!

「………な、なに?」

あかんやろこれ。ワシが押し倒したみたいになっとるやん。え?カワイイ顔しすぎやろなんなん?ワシよう耐えとるやろ。全人類から絶賛されて然るべきやん。誰かワシを褒めて。

「……ヘタレ」

「はぁーーーっ、?おま、お前!?!?」

「なぁんですか?こうこうせーのくせに、えっちな展開の持って行き方も知らないんですかぁ?」

「いや、お前全部わざとか!?」

「ふふ、なんのことです?」

「魔性すぎやろ、他の奴にやんなよ」

「カンシさんだから、なんですけど?」

「え?」

「全然取り合ってくれないじゃないですか。ボク結構頑張ってアピールしたんですけど?」

「じゃれとるだけやと思うやんそんなもん」 

つかアピールの仕方がなんか昼ドラくさいねん!!なんでなん??

「おかしいな……お母さんの見てたドラマ的には結構正攻法なんですけど」

「やっぱり参考文献昼ドラやんけ!?!?」

「?」

「お前が本気でとぼけてるんかわからんくなってきたわ」

「むぅ」

「ええか、ミハル。そう言うの好きあってからにせえよ」

「え?でもカンシさんボクの事好きでしょ」

「ほぉあ!?!?」

バレとる!!!クソダサい死ぬほど我慢してたのもバレとるんか!?嘘やろ泣きそうもうちょっと泣いとるかもしらん。

「なのでとりあえず身体から落として逃さないようにしとこうかなって」

「お前もうバレたら開き直って好き放題言うやん!?!?てか何!?!?ワシそんなお前のこと好きに見えんの?なんで!?!?」

「えっ、嫌いなんですか?」

「好きやけど!?!?好きでもないやつにベタベタされたらとっくに切れとるやろが!」

「好きじゃないですか。なんだ焦りましたよ」  

しれーーっとした顔して何言うねんお前押し倒されとる奴の顔と違うんやけど??

「お前全然焦っとらんやん。つか、今ワシ、史上最悪の告白しとらん?こんなんありえんのやけど?最悪の告白の新記録樹立やん。レコード取れるやん」

「はじめて♡もらっちゃったってことですか?ついでに身体の初めて♡もどうですか?」

「そんなセットでお得みたいな誘い方すな。リビングやねんここ。」

「つまりリビングじゃなきゃいい、と。ボクの部屋に行きましょう。安心してください優しくします」

「どう言う情緒しとんのお前」

「いいから、抱いてくださいよ!」

思いっきり首に手を回されたあかんあかん!そんなえっちな体勢してええと思っとんのか!?ええわけないやろ!

「お前やばいてぇっ!!」


がたん、と物音がしてそっちを向くとハワハワした顔のケイゴがいた。ていうか、死ぬほど顔が赤い。なんでお前が1番赤面しとんねん。

「あ、えと、あの。オレ、カイモノあったンだァ!2時間くらい?帰らないから。えと、モリヒトたちも死ぬ気でうまいかんじに、食い止めるから、ええと、それでいい?オレあってるかな?」

「ナイスアシストですよケイゴさん」

「いや、せんから!!!気を使うな!ヤらんから!!」

「なんでですか!」

「お前まだ中学生やろ!ワシの倫理観が許さん」

「カンシにも倫理観とかあったんだ」

「ケイゴお前失礼やぞ!?!?」

「もうちょっとだったのにー。ケイゴさーん作戦会議したいんですけどぉ!」

とてとてケイゴの方に駆け寄っていくミハル。あかんちょっと残念とかおもてる時点でもうワシ負けとるやん。

「え?オレに飛び火する感じ??」

「カンシさんの好きなえっちな女優教えてくださいよー研究するので!」

「言うなよケイゴッ!」

言うなほんまに!!頼む!

「教えてくださいケイゴさん!ダッツを献上します」

「ダッツでワシを売らんよなぁ!?!?ケイゴッ!」

「普通に可愛くてキュルルンってしたミハルと同じタイプのヤツ好きだったよね?」

「ケイゴーーッ!!黙れケイゴーーーッ!!!」

この後カンシとミハルはめちゃくちゃ付き合ったけど、全ての顛末が管理人に漏れて「えっちなお誘いは節度を守ってするように」と伝達された。禁止じゃないんだ……。

────────
2024/10/13 01:52:10

触れてよゼロ距離


#ケイネムSS #ウルネムSS #ウィッチウォッチSS

どのタイミングが適切なの

何回目のデートでキスするのが適切かとか教科書に書いといてくれないかな。
初めて見る映画。変身しないとは思うけど、映像作品だから念の為乙木家の彼の部屋。何回目のデートかは忘れたけど、毎回初めての時と同じくらいドキドキするの。普通慣れるものじゃないの?何でこんなになれないのよ。

ちら、と彼の顔を見る。……真面目に映画見てるんじゃないわよ。……ちょっとムッとしたのでとりあえず手を伸ばしてみる。……なぁんだ。繋ぎ返してくれるじゃない。

ねぇ、これ、もういいの?て言うかこれわたしからするの?私から????正解がわからないのよ。
私がめちゃくちゃキスしたくて仕方ない女みたいにならない?なってるわよねこれ。完全にそう。完璧にそう。どうしたらいいの?ここから。

……仕方なく映画を見ようと思って顔を上げる。ダメだわ全然内容が入ってこない。映画どころじゃないのだけど。ていうかあれ?いつの間に恋人繋ぎになってる?

「……ねぇ、オレって試されてる?」

「へ?」

「あんまり可愛いことされると、オレも我慢できない、っていうか……」

そもそも。年頃の男女が2人で密室にいるのに何も起きてなかったのがおかしいのでは?とか、よかったわねネム!狙い通りじゃない!とかそう言う感情が恥ずかしさで全部爆発しそうになる。え、近い。うそ、こんな至近距離に顔が?

「ち、近い」

「嫌?」

「その聞き方は、ずるくない?」

「ね、ダメ?」

そんな顔で見つめられて断れるわけないじゃない。もう無理。どうにでもなっちゃえ。

「嫌なら、そんな頻繁に遊びになんてこないわよ」

私の言葉を聞いて、ケイゴくんはちょっと嬉しそうに目を細める。やめて、その顔。これ以上好きにさせてどうする気なの?
はやくしちゃって!もう楽してよ!ぎゅっと目を瞑る。ふわふわした感覚。馬鹿みたいに上がる体温。どうしよ。しちゃった。きす。

「………キスしちゃったね」

「うぅ、はずかしい」

撃沈してると、もう映画のエンドロールが流れてる。嘘でしょ。何にも見てない。

「…………ねぇ、わたし、映画の内容、全然覚えてないんだけど。」

「……オレも全然おぼえてない」

耳まで赤いじゃない。なんだ、君もなの?……ふふ。そっかー。君も覚えてないかぁ。

「ね、また見よっか。今度ね」

「……そうだね」

そうしたらまた、君に会いに来れるもの。


─────────────────────
いつだろうが、構わねえ
─────────────────────
ケイゴくんとキスをしたことはウルフに筒抜け。私はそれに気がついて、めっっちゃくちゃにはずかしい。だから絶妙に2人じゃない時にウルフを呼び出した。
けど。前の映画を見直そうって。まじめにみちゃったものだから。

「それで?もう観念したか」

「うぅ、失敗だったわこの映画ちゃんと見たらクロワッサンがっ!なんで朝ご飯の描写でクロワッサンなのよ!食パンでしょうせめて」

「んだよ、言い訳はそれだけか?」

「な、いいわけ、ってわけじゃ」

じりじり、と追い詰められる。床に座ってたものだから、すぐにベットの淵と、ウルフの手で囲まれて逃げ場はない。

「でも逃げてたよな?」

「逃げてない」

「あー?じゃあこの前出た時ニコの後ろに隠れてたのも、逃げてねえ、と?」

「だって恥ずかしいんだもの!貴方、覗いていたんでしょう!?」

キスしたところ!見てたに決まってる。

「そうだが。」

「開き直ってるっ!」

「んだよ、うるせぇなぁもう。映画まだ見るのか?どうせアイツ覚えてねえから見直しになるぞ」

「……そうね、そうだけど」

「だからオレに構え」

ぶち、と無情に電源を落とされて。もう目の前の彼に集中するしかない。というか、そもそもいつだって私は映画なんか半分くらいしか頭に入ってないわよ。

「横暴すぎない?最近悪化してると思うのだけど?」

「……お前がオレに構わねえからだろ。」

むす、とそっぽを向かれる。え?アレ?犬耳が幻覚が見えるわ……なに、なにそれ!可愛い〜っ!

「………………。え?もしかして拗ねているの?」

「あ?」

「へぇ〜そうなの?拗ねてるんだぁ……ふーん、そっか……」

あーだめ、にやけちゃう……だってアレだけ俺様?何様?って態度なのに。なのに。むくれてるのよ?可愛すぎるでしょそんなの。

「……ネム」

「ひゃ、なによ、そんな怒ることじゃないでしょ?」

むぎゅーっと正面から抱きつかれる。しょうじき、めちゃくちゃ恥ずかしい。心臓の音聞こえるでしょこんなの。

「…………オレに付き合うってことでいいな?」

「え?えぇ、いいわよ?ケイゴくんにはまた今度埋め合わせするし」

耳元の声とか、本当勘弁して。そういうのなれてないの。
というかそもそも、ねぇ、顔も近いんだけど。さらに。アレ?なんか、さっきまでの意地らしい仔犬は?夢?夢だったのアレ。やっぱり狼じゃない?知ってたわよそんなの。

「…………ねぇ、何する気?」

「戯れてるだけだ。可愛いもんだろ?」

ウルフの顔を手で遠ざけてるとおもいっきり舐められた。やばいやばいやばい、なんかスイッチを押してしまったの?あ、あれ?これ押し倒されてないかしら?て、手が早すぎるなんて奴なの??嘘どうやったの?なんで天井が見えるの??

「ま、待って待って待って、私そこまで心の準備してないのだけどっ」

「…………わかってるよンなこと。大体、ンなもったいねーことするかよ。」

「ッ、ねぇ?な、なに?」

「マーキング、ってことにしとくかな」

「ちょっと、なに、噛まないでよ」

首筋に口が触れた。ちょっと痛い。というか、なんか、えっちなことになってない?だいじょうなのこれ?

「ばーか。キスマークも知らねえのか」

「し、ってる、けどぉ!そんなの、誤魔化せないとこにつけないでよっ」

「………お前はオレって印、つけとくか」

「、は、はずかしいひとね、ほんと、はずかしい」

顔があつい。なにそれ。印?噛み跡じゃなくて印?そんなの、だめでしょ、バレたらみんなになんて誤魔化すのよ。

「満更でもねえ顔しといてよくいうぜ」

「そんな顔してないわよ」

「してる。オレが言うんだからしてる」

「どこからくるのよ、その自信っ、ちょ、ちょっと、どこさわってるの?」

いつのまにか、ウルフの手が結構な範囲に触れている。まって?今どこ触ってるの?何されてるの私?

「は?尻だが」

「へんたいっ、ばか、エロ狼っ!!もう知らない!!ニコに言いつけるから!」

手元にあったクッションを投げつけると簡単にキャッチされた。取るんじゃないわよ、バカ!

「いや、それお前が恥ずかしいだけだぞ」

「うぅーっ」

「はぁ、お子ちゃまだなぁお前は。」

ちょっとため息をつかれる。そりゃあ、そうよ。貴方みたいに女の子なら誰でも寄ってきて、それでよりどりみどりで、慣れてるやつとは違うのよ。友達だって少ないし、恋人だって貴方たちが初めてなのよ。

「…………あきれた?」

「呆れてねぇーよ。だいたい食いごたえある方がいいし。」

「言い方が親父くさいのよ」

「うるせぇー」

「無理強いしねぇよ、そういうの趣味じゃねぇ。他の女と比べる気もない。言っとくがお前は特別だ。だいたいな、オレたちと付き合う物好きお前くらいしか知らねえよ。……まあ、たまには味見くらいするが」

「っ、な、手ぐせ悪い!」

「そうだな。」

かぷ。噛み付くみたいな口づけ。あっけに取られてると鼻をつままれる。は、はぁ?不意打ちしないで?心臓に悪いのよそれ!

「油断するなよ、ネム。あと、オレは可愛いんじゃなくてかっこいい、な?」

「それで揶揄ったの??」

「まぁ、今日は勘弁してやるか。」

にたぁっ、と悪いこと考えた子供みたいな、笑い方して。ウルフは私に抱きついた状態で、変身を解いた。はあっ!?!?正気??

「えっ!?ネムちゃん??どう、どう言う状況っ??」

「ま、まって、まってまって!!」

私から抱きついたみたいになってるじゃない!!



─────────────────────
2024/10/13 01:50:40

望郷の魔女


#ウルネムSS #ケイネムSS #ウィッチウォッチSS

「マガミくんって狼男なんだあ」
クラスメイトのふわふわとした声に応えることができなかった。なんなら少しむせてしまう。隠しているわけでもないけど、わざわざ言うつもりもなかった。それなりの問題行動をしたのは事実だし、それもオレが望んだことなのだから。

「……誰から聞いたの?」

「ん?うわさだよ。今更だよねー魔女もいるんだしさー」

「そ、そう」

まぁオレはモリヒトたちみたいに生まれつき力があったわけじゃないし、なんだったら今でもオレ自身は大して変わってない。ちょっと三日月がないか気をつけるくらいで。

「どーなんの?狼ってやっぱ犬系?」

「は、はは。まぁその、そんな感じ?」

なんとなく言えなかった。理由を考える間も無く、その子は飽きたのか「じゃ、数学の課題、よろしく〜」といってしまう。もしかしてオレ、押し付けられてる?(そういや、数学係だったな、オレ)

「……………。」

アイツが、教室にいたらどんな感じなんだろう。そんなことを考えて、少し、センチな気持ちになってた。そんな場合じゃあなかったわけだけど。

異変に気がついたのはそのすぐ後だった。まず、学校の空気が違う。具体的に言えば、あまりに声が少ない。廊下から聞こえる同級生たちの騒ぎ声とか。グラウンドから聞こえる野球部の声とか。あるいは、吹奏楽部が吹く楽器の音。そう言うものが全てごっそり抜け落ちている。

それに気が付かなかったのがおかしい。

放課後にしたって。ちょっと陽が傾いているけれどそれにしたって。廊下のロッカーの上にノートを置く。数学のノートなんて気にしてる場合かよ。スマホを見たら圏外だった。

「……これ、ヤバいヤツ?」

メッセージが入る。

[これ、どうなってんだ]

メモ帳用のオレしかいないメッセージグループの通知の意味を、オレは知っている。お前どうやってんだこれ。

[なんで考えたことが打ち出されんだ?気色悪いな]

こっちのセリフだよ?……いや、今はちょっと安心したけど。

「なぁウルフ、これどう思う?」

口に出す意味があるのかはわからない。けど黙ってても仕方ないし。誰もいない教室に入ってグラウンドを見る。やっぱり誰もいない。

[知るかよ。さっさと家に帰るなりして、お友達に頼れば?]

「嫌な言い方をするなって。……みんなが無事ならいいんだけど……どうかな」

[……とりあえずここに居るのはやべえ気がする]

「野生の感?」

大人しく従っとくか。鞄を持って、廊下を歩き始めた。

「…魔女の結界とかかな。だとしたらオレだけ閉じ込める意味あるのかな」

[さぁ。タイマンしてえんじゃねえの?]

なんだそれ。と笑いそうになる。

「………あれ」

階段を降りようとしたけど、上の階にに人影が見える。

「どう思う?」

[こんな結界作ったヤツなんだとしたら顔くらい見てもいいんじゃねえの?つかそのつもりだろお前]

「まあ、そうだけどね」

階段を登る。屋上につながる踊り場は埃が積もっててもちろん施錠されていたのだけど。

「……空いてる、ね」

[……リストバンドは?]

「あるよ。別に頼る気はないけど」

[そうかよ、……気絶する前に変われよ]

「気合いでなんとかしてよ」

[できるならしてるだろ]

「確かに」

扉を開ける。ぐにゃ、と視界が歪んだ。足元が崩れ落ちる。

「うわっ!?」

嫌な浮遊感、落ちる時ってむしろ浮いてるみたいだなぁとか呑気なことを考えてた。

気絶する前に変身とか、できるの?リストバンドに手をかける。悪いけど着地なんとかして。


─────────────────────

「ハッ、余裕に決まってんだろ」

若干足が痺れてる気がするが折れてない。つーか折れねえわけ?いよいよおかしな空間だぜ。

「……匂いは、残ってねえな。誰かいたはずだが。……大体、どこだぁ?ここ」

暗い。なんでこんなに暗い?目が利かねえって。なんでだ。

心拍数が上がる。いいや。見えなくたってよくわかるはずだ。オレは知ってる。よく見てたろ。真っ暗になる感覚、感覚だけだ。そんなことになる場所ひとつしかねーっての。

「狙いはニコじゃあねえらしいなァ!オイ」

アイツが望み、そして夢破れた景色だ。

「悪趣味だぜ、最高にな」

スポットライトが当たる。幕が上がる。アイツが1番自由にいた世界がここにはある。オレが立つはずのない場所に、引き摺り出されるみてえで不愉快だ。

「よぉ、魔女様、いるんだろう?ぶん殴ってやるから出てこいよ」

勘に障るヤツだ。足の感覚がスケートシューズに変わる。誰かの声がする。うるさい、好きにやらせろ。
顔の見えない観客が好き勝手にオレを見た。


「腰抜けが、出てこれねえか?」

「それなら探してやる」

地面を蹴る。滑り方を知らないとでも思ってるのか。そんなのわかってる。わかりきってる。だからなんだよ。

「できるんじゃない」

くすくす、と、その女は笑う。猫の仮面をつけた黒い髪の女。いいや。違う、違う、違う。お前はーー

「踊りましょうよ、オオカミさん」

「いい度胸だな。黒猫」

手を取る。猫のようなしなやかな動き。美しい滑り。しなやかさの内側にどうしようもないくらいの色気がある。目を細めて、こちらを誘う。

「いい度胸だな」

「そうね」

ばち、と手が触れ合う。電撃が流れるみたいに、意識が飛びかける。言い知れない痛みが胸に走った。

「あら、今の魔法はかなり本気だったのよ?」

「何を、した?」

「すぐにわかるわよ」

くすくす、と笑う、透き通る声が、思考を鈍らせてゆく。

「……あるべき形にしてあげるだけよ」

─────────────────────

「いってえ!」

「クソ、なんだと?」

隣に立っている奴が敵かと思って睨んじゃったけど。よく考えたらこいつウルフじゃん。

なんでスケートコート?何?その子は?あれ?ネムちゃん?

「なに、どういうこと?」

「分裂させられた」

「大丈夫なのお前」

「それはてめえの方だろ。あの女何するかわかんねえぞ」

「そんなに怒らないでよ、オオカミさん」

「…………ネムちゃん……?」

くすくす、くすくす。楽しそうに笑う。目元に変な猫の仮面をした彼女を見た。……。


「貴方が外に出たがるから分けてあげたのよ?」

楽しそうだった。とても。

「……誰だ、お前」

人の顔を借りて、何してる。

「あはは!あら、そんなに似てないの?貴方の好きな人の顔に見えるようにしたのに」

「もっと動揺するかと思ったのにつまらない。じゃあもういいかぁ」

ばき、ばき。音が聞こえて下を見る。リンクがひび割れてる!?

「クソっケイゴ、行くぞ。距離を取る」

「へっ!?ウルフ!?!?おいやめろ!担ぐな!!」

「てめえが遅えからだろうが!」

くそーっだせえ!なんだってこんな!担ぐな最悪だ!つかなんでそんな早く動けるの?馬鹿力すぎる。

「オレだって滑れば速いんだけどな!?」

「お前はこんなとこで滑るな」

「はぁ?それどう言うーー」

そこかしこから音がする。歓声は全部幻聴なのか。つーかなんつー魔法だよ。

スケートリンクの端までくると、女は未だ動かずにこっちを見ていた。世界が崩れるのを見る。

「…………ムカつく野郎だ」

「それは同意する」

よりにもよってどうしてあの子なのか。理解する前にまた、足元が崩れ落ちる感覚がした。


────────────────────

[魔法は確かに便利よ。けれどなんだってできるわけじゃない。必ず何か条件があるもの。大きな魔法であればそれだけ大掛かりな仕掛けが必要なものよ。ニコがいれば、その辺省けるのかしらね。ちょっとワクワクしちゃった]

あの子はもっと可愛く笑うんだよな。とかそんなことを思う。

「お前余計なこと考えてねえでオレから退け」

「あ!?ごめん!」

「今度はどこだ。」

「…………オレの家だね」
玄関の前にいた。なんでだよ。とかもうどうだっていい。

「アイツ何が目的なんだ。さっさと戻らねえとな」

「………」

「なんだよ。ケイゴ」

「戻りたいの?」

「は?」

ドアノブに手をかけたところで止まる。ずっと聴いてみたかった。

「……………オレは神様なんか信じない。お前もそうだろ。」

「……………あぁ」

あの子にそう告げたのはお前だろ?と言うみたいにウルフはニヤついていた。

「ほら、行くぞ」

多分、俺たちがこうして並ぶことなんてあり得ないんだろう。

現実では。

「行こう」

それでいいんだオレたちは。

─────────────────────

その魔女の使命はたしかに監視だったはずだ。魔法があればそれは容易だった。なのにどうしてだろう。触れてみたくなったのだ。同胞の隣にあるその不安定な生き物に。

「……ねぇそんな形をして息苦しくないの?」

私はいつだって苦しかった。

「……ねぇどうして平気でいられるの?」

私はいつだって狂ってしまいそうだった。

「だから。助けてあげる」

誰も貴方を助けないのだから。


「余計なお世話だ」

二人のオオカミの影が重なる。


「オレは助けも救いも求めてねンだよ。」


仮面が落ちる。床に落ちる。せかいが、私だけの世界が壊れていく。

「幻だけで構成された、寂しい世界だよ、ここは」

「なんで、なんで?私の魔法、そんなに気に食わないの?ここでなら好き勝手していいのに?」

「ンなの自由とは言わねえだろ」

「……君がした事をオレは許せない。けど、オレだってよく迷うし、悩むし。バカな間違いしてばっかだ。だから」

「ーーーー」

きっと、誰にもいってもらえなくて、何より私に必要だった言葉を君は吐いた。

私が助けたかったのはいつだって私自身だったのだ。

「ーーーーそう、なのね。そう。あなたはとっくに、何もかも得ていたのね」

口を開いて、いっそ全て吐き出してしまいたかった。それすら私には許されていない。何かが砕ける音を聞く。
こんな魔法を使ったのだから、力を使い切ってしまったんだろう。

「さよなら、やさしいオオカミさん。」

きみのこと、少しだけ好きだったのは、本当なんだよ。

こんな私にも手を伸ばしてくれた君に。少しだけお返しをしたかったな。

「私もこれでやっと帰れるのかな」



─────────────────────

「おーい!ケイゴくん!ねむちゃん遊びにくるって!どうしよ!お菓子あったかな!」

「へっ」

騒がしい日常だ。ほんの少しだけ。夢かとも思った。ニコの明るい声が響く。

「なにこれ、忘れ物?美術の授業ってこんなの作るのかなー?」

黒い猫の仮面が、ロッカーの上に置き去りにされているのをみつけて、違うのだろうと理解した。

「……けいごくん?あ、数学のノート持つの手伝うよ。大変だよねー数学係一人だしさー」

「いや、いいよ。軽いし」

「ほんとー?無理してない?」

「してないよ。軽いって。一冊分くらい」

「全然変わらないじゃん!」

例えば君も。ただ、普通の日常が欲しかったのなら。オレと何が違うんだろう。

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2024/10/13 01:47:43

アイツ危なっかしいから、見張っとけ


#ウルネムSS #ウィッチウォッチSS
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1、狼の意地

ケイゴとネムが付き合うときに、何故だかオレの話が出てきた時は流石に驚いた。
「貴方が好きなの。今目の前でこうして対話している貴方が。三日月と会いにくる貴方が。不誠実だって怒っていいわ。会いたくないならそうする。」

「……そんなこと、ない。オレは、君といたいし、全部分かった上で一緒にいてくれるならそれは特別なことだと思うよ」

静かに穏やかに。ソイツはオレに決定権を委ねた。リストバンドの三日月が映る。オレの答えは決まっていた。それこそ、ケイゴがネムを好きだと気がついた時に。

「ねぇ、ずっと聞いていたんでしょう。貴方はどう思うの?貴方たちと付き合いたいの。」

「……アイツとは好きにすりゃあいいだろ。オレはお前とは付き合わねえ」

「……!そ、そう。」

「嫌いだってわけじゃねえ。これはオレの問題だ」

「貴方の?理由は?」

「…………。言いたくねえ」

「…そう」

─────────────────────

「……どうしろってんだよぉっ」

ネムとは付き合うことになった。正直ウルフが断るとか、そんな考えがなかったオレもオレなのだけど。

だってネムちゃんだぞ……?断る理由がわからない。どこにあるって言うんだよ。ホント。

「……そういや、メモなにか書いてないかな」
前は、それこそあの一件では結構ウルフからのメモがスマホにあったりしたけど。最近は特に音沙汰がない。

[アイツがへこんでたらなんとかしとけよ]

やっぱり書いてたから。つーか、そんなの、書くのは簡単だけどさぁ!なんとかしとけって……

「お前のせいなのに?」

いや、諸々俺の言えたことじゃあないのはわかってるんだけど。

─────────────────

「よし、ウルフを問いただすか」

「えぇ……」

乙木家、リビング。勘弁してよ、って感じの俺の態度をみんな無視した。当然のごとくクソでかい横断幕で「おめでとう」とかハートマークとか相合傘とかさ。恥ずかしいくらいのお祝いムードにも関わらずだ。

「やってなんか腑に落ちんやろ。こーゆーのは初めが肝心や」

「本音は?」

「ネムに告白されといて断るのスカしとるムカつく」

「いっそ清々しいなカンシ。オレも正直そう思ってたけどね!」

「つーわけで変身するんや。」

「はー。知らないよ、暴れても。」

あとは任せるよ。悪いけどさ、お前だからって適当に流す気ないから。ちゃんとネムちゃんに説明してよ。好きな子にあんな顔させないでくれる?

────────────────

「あー。んだよ。そんな睨むな」

今にも泣きそうなネムが視界にうつる。タイミング悪りぃーんだよなぁ。……言ったろうが。「オレの問題だって」

「まぁでも、彼女が納得するくらいの答えは出した方が良くないですか?」

ミハルの言葉にどいつもコイツもうんうん頷く。

「どうしてもか?」

「……」

「まだ、ダメだ。オレが納得できない」

「何に?」

「…………勝ってない」

しーんと、する部屋。くそ、言う気なんざなかったってのに!

「まだ、モリヒトに勝ってねえだろうが!」

「はぁ!?」

聞いたことねえ声でネムが叫ぶ。モリヒトが頭を抱えてるのが見えた。知るか。言ってんだろ、オレの問題だ。オレだけの問題だ。オレが納得できねえって言ってんだ!!きっちり勝ってスッキリしなきゃダメなんだよ。でなきゃお前の隣に立った時になんか喉元に詰まった小骨みてえに気持ちわりーだろうが!

「わかった。わかったわ。よーくわかったわ。モリヒトくん。私が勝ったら彼との交際を認めて」  

はぁ!?お前何言ってんの!?!?

「おい、ネム?」

「あなたは黙ってて。いい、モリヒトくん。勝負は一週間後にしましょう。……チェス、と言いたいところだけど、あなた将棋の方が強そうだからそっちでいいわ」

「おい待て、オレは何も……!というか勝手に付き合ってくれ!オレ別に止めてないんだから巻き込むな!つきあえばいいだろ!?なぁ!?」

「ダメよ。あなたも当事者よ。ウルフが勝たなきゃダメっていうなら私があなたに勝つわ」

「おいネム!?正気かお前。そう言う問題じゃないんだ」

「うるさいわね!ウルフが悪いんだからね!私の方がモリヒトくんより強ければいいんでしょ!」

「どうなっとんねんこの子の頭」

「面白くなってきましたねぇ」

「大丈夫なの!?これ!ニコもうわけわかんなくなっちゃったのよ」

わあわあ言ってる間にも、ネムはオレを睨んでいた。いや、コイツ本気で言ってるな?マジでやる気だ。どうなってんだよその思考回路。マジで飽きねー女だよお前は。
─────────────────────
2、猫の純情
突如始まるネムの暴走、なぜか勝負を挑まれるモリヒト、そしてまたしても何も知らないケイゴ。と言うわけでなんやかんや戻ったケイゴと颯爽と帰っちゃったネム。

「どう言うこと!?!?」

「だから、ウルフはモリヒトに勝たんとネムと付き合いたないから、ネムとモリヒトが勝負すんねん。やからネムは帰った」

「いや一ミリもわからない。なに?なんで?エッ!?!?帰っちゃったの!?嘘でしょ??」

「いやこっちが聞きたいんやがな??オタクの彼女とんでもない女やぞ」

「彼女……」

「噛みしめんでええねん。」

いやだって付き合いたてなので……。

「実際どうなんですか?モリヒトさん将棋強いんですか?」

「モリヒトの趣味ほぼお爺やぞ。将棋なんか強いに決まっとるやろ」

「偏見だな。別に普通だぞ。」 

「ニコ勝てたことないのよ」

「それはまぁ、ニコさんがクッソ雑魚なのでは?」

「ミハルくん!?!?」

「まぁ、オレも前にやっとき負けたし……というかネムちゃん将棋とかできるんだね……」 

意外だ……。ネムちゃん賢いしな……。

「さあ、なんも考えてないんちゃうあの子」

「そんなわけないだろ、ネムちゃんだぞ」

「コイツもう恋は盲目モードなん?」

─────────────────────

一方宮尾家。

「…………私って本当インキャ!!!将棋!?!?やったことないのだけど!!?ねぇ!?今からやめにできないかしら!?!?私どうかしてたのよ、だって、だって!」

なんでモリヒトくんに勝つ必要があるのよ!むかつくのよ。なんなの!それなら私が勝つわよ!勝てばいいんでしょう!?!?

「一週間で藤井◯太になれる本とか売ってないの?」※そんなものはありません

「いいわ、私は宮尾家の魔女。勤勉さに自信アリなのよ。やってやるわよ」※ネムが言い始めた話です

─────────────────────

「えーでは。第一回、ウルフ争奪戦始めます。司会ジャッジ、あとあれ進行のカンシです。ではモリヒトくんから一言どうぞ」

「オレは一回も付き合うのとかダメって言ってないのだけはわかってくれ。本当に。今からでも遅くないと思う」

「ダメよ」

「ダメです。はい。次、ネムさんからどうぞ」

「どうしてもウルフが付き合わないっていうのでモリヒトくんと戦って勝ちます」

「イカれとるでマジ」

「これほぼ八つ当たりでは?」

「いまさらなのよ」

「ほな、ええっと、すまんけど将棋なんもわからん。」

「わかんないのに司会進行ジャッジなのカンシ」

「うるさいねんケイゴお前の片割れのせいやろコレ」

「え?変身した方がいい?」

「ややこしくなるから勝ってからでいいわ」

「マジで勝つ気やん」

「言っておくけど、モリヒトくん。手を抜いたら許さないからね」

「あ、あぁ、やるからには真面目にする」

「後でモリヒトにアイスあげよ……」

────────────────

そもそも、将棋、って地味じゃねえ?と、正直思った。でも案外白熱してしまったのもまた事実。というか、ある程度わからないとどうなってるか理解するのも無理だろこれ。

みろよ、ミハルもう寝てるじゃん。飽きてるじゃん。ニコもちょっと飽きてるじゃん。
二人で折り紙始めちゃったよ。ニコなんなのそれ。鶴?ほぼ紙屑なんだけど……?
そりゃあ関係ないもん。なんの勝負なのこれ。

「王手」

「…………ネム、本当に強いな。いや、ひさびさに楽しかった。……オレの負けだよ」

「………え?なんか終わってる?」
「終わったぽいですね」

「………ネムちゃん?」

「……。どうせ、適当な言い訳だったんでしょう?」

「え?」

「私が嫌ならそう言えばいいのに。適当に誤魔化すから、むかついて、だから、こんな。……ごめん、私って」

「いや、強かったし、本当に。」

「…………ダメならちゃんとそう言って欲しいの。わたしが無茶を言ってるのはわかってるから」

「…………。」

「だから私と付き合わなくたっていいの。せめて、本当のことを教えて」

なぁ、お前。自分のこだわりのためにこの子泣かせていいのかよ?ダメだよなそんなんじゃ。
それこそ、一生モリヒトに敵わないぞ。大切な子を守れないようじゃ、ダメなんだ。

───────────────────


「………負けだ。オレの負け。」

いつのまにか、ウルフに変身していた彼が罰の悪そうな顔で私の涙を拭いた。

「お前は、強い使い魔が欲しいって言ってたの、覚えてるか?モリヒトを誘おうとしてたな」

「、え?それは、その、そうだけど。そんなの随分前のことじゃない?正直その、強い使い魔なら誰でもよかったって言うか」

確かに言ったわ。黙り込まないでよ、なんなのその薄目は。

「…………。」

「それで、モリヒトくんより強くないとダメって思ったの?」

ガシガシ頭をかいてめんどくさそうに言う。そんなことで?私がそう言ったから????

「…………オレもアイツと結局変わらねえ。惚れた女にカッコつけようとして、失敗してばっかだな」

「…………バカじゃないの?」

「バカって…お前が言ったんだろ」

「あなたは十分すぎるくらいに、私を助けてくれたでしょ。ケイゴくんだっていつだって私の手を引いてくれる。だから、私はあなたがいいの。かっこよくても。カッコ悪くても。あなたがいい」

「……。熱烈なことで」

「照れてるの?いつも首を触るものねケイゴくんだってそう。ねえ、私勝ったのよ?返事、ちゃんと教えてよ」

「…………お前がどこにいても、オレたちが守ってやる。お前無鉄砲で危なっかしいし」

「うん」

「続きは二人の時な」

「あっ、」

そこで思い出した。ここ乙木家のリビングだった。

「熱烈やなぁネム。」

「ラブラブなのよ」

「流石にモリヒトさん可哀想ですねこれ当て馬じゃないですか」

「そこまで言うなミハル。オレも普通に傷つく」

「ご、ごめんなさいほんと!」

「ま、そう言うことだ。悪かったな」

相変わらずヘラヘラ笑ってわるびれもしないウルフ。にた、っと笑った顔と目があった。瞬間ほっぺに感触が当たる。は?

「え!?!?」

ぽふん、とケイゴくんに戻った。顔が近い、え?いま、ほっぺにチューされなかった私!?

「きゃーーっ!チューなのよ!?」

「え?待って何!?!?アイツネムちゃんにキスしたの!?!?オレもまだなのに!?」

「したな」

「残念だったなケイゴ。」

「嘘でしょアイツあんだけ騒がしていいとこ持ってくの??」

「ケイゴさんもしたらいいじゃないですか。」

「へっ!?今!?!?」

「人前でいちゃこくな!!」


─────────────────────

[アイツ危なっかしいから、見張っとけ]

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2024/10/13 01:46:36

たぶん、きみはしっている


#ウルネムSS #ウィッチウォッチSS

1クッキー
「これは、私が作ったクッキーです。あなたに分けます」

新倉さんのくれたそれは、所謂手作りクッキーだった。彼氏にあげる分を取っても余るくらいにつくりすぎたらしい。タッパーに詰め込んでいたから、クラスのみんなに配っているのだろう。
断るのも申し訳ないので、私も一つ口に放り込む。甘くて美味しい、彼女はお菓子作りが上手らしかった。

「おまじないがかかってるんだって。ふふ、新倉ちゃんも可愛いとこあるよね〜」

他のクラスメイトたちも集まってきてキャアキャアと会話を始める。やはり、他校に恋人がいるってなると、女子は興味津々だったりするんだろう。

「おまじない?」

「はい。それは、クラスメイトの多くが知っている、恋の、おまじないです」

「へぇ。そんなのあるのね。」

想いはこもってるだろう。けれどそれが本当に効くのだろうか?それは魔法ではなくて本人の努力だろうしね。

「好きな人と仲良くなれるってこと!?」

「きゃーーっ」

女子たちの声を聞きながらぼんやりと新倉さんのキラキラした目を見た。

「すきな、ひと、ね」

恋とは人を変えうる魔法だろうか。たぶん、それは私には扱えないだろうけど。


─────────────────────
2、猫はワガママ

放課後、乙木家のリビングには、なんとも様子がおかしい客人がいた。

「にゃおん」

宮尾ネムはオレの記憶が正しければこんな阿呆な声で話しかけてくる女ではなかったと思うのだが。

しかし、なんの偶然か、たまたま三日月製薬キマッていたところに来たのは運がいい。
というかこれは明らかに魔法案件だろうけど、平気なのだろうか?

こういう時に限ってニコもモリヒトも誰も彼も出払っている。

なぜケイゴは家にって?
そりゃあその、あの動画作りをしてたからだろ。
暇なんだよ、アイツ。

「にゃあん」

「なんだよ、話せ。なんで猫耳ついてて人型なんだよ、お前は」

「にゃお?」

首を傾げられた、あ…いや思ったよりグッとくるなこれは。

「まぁ、害はなし、か?…ニコはそのうち帰ってくるしその時に聞けばいいだろ。」

「とりあえず部屋に来るか?」

「にゃ」

「煮干しは?」

「にゃおっ!」

「食うのか…お前ほんと戻るのかよ」

「にゃおっ」

「なに言ってるかまるでわかんねぇ」

てちてちついてくるのはいつもとそう変わらないと思うのだが妙に無防備だ。部屋に連れてきたのは良くなかったか?

ネムは躊躇なくベットにダイブした。恥じらいは死んだらしい。

「にゃおん!」

てし!と尻尾が揺れた
……ついてたのか、尻尾。

「それどうやって生えてるんだ?」

「みゃあ」

何気なく腰の辺りに触れるとへなへなと力を失う。あ?なんだ?弱点?

「にゃ」

「もっと触れって?お前後でオレにキレるなよ?」

「にゃあ〜っ」

隣に座って他のに段々とちかついてくるし、甘えたなんだな。とか呑気なことを考えていた。

「にゃーん」

凛々とした目がこっちを向いている。テンションが上がって押し倒しやがった。……。普段ならそうそうない角度だが、美人なのに変わりはなかった。しかし、だ。


「ご機嫌だなぁ。けど、ちとやりすぎかもな」

くる、と形勢逆転。ベットに押し倒したが、こいつやはりいまいち危機感がない。まん丸の目をこちらに向けるだけだ。
中身まで骨抜きだとちと、張り合いがなくていけねえよなぁ。どうしたものか。

「別にオレはいつお前を食ったって構わねえんだけどさ。お前後で怒るだろ?」

クルクルと喉が鳴っている。甘えた音だ。

「味見くらいは、いいだろ?」

「に、にゃっ、あ、?」

首元を舐めると切なそうにシーツを掴む手が見える。

「でも、お前はもっと喰いごたえがある時じゃねえと、つまんねぇよ」

仕方ねえから抱き込んで、抱き枕にでもして寝るか。こいつのことだねたら治るだろうし。

「にゃ、にゃっ、にゃ!」

「暴れるな。逃げるなよ」

「にゃあーっ」

「こーら」

がぶ、とふざけてうなじに噛みついてみた。あぁ、やっぱ食べちまうか?……それも悪くはねぇんだけどさ。


─────────────────────
3狼は気まぐれ

あったかい。ふかふかする。あんしんする。ゆっくりと目を開ける。そうこれは、これは……


大胸筋!?

「にゃっ!?」

「あ?起きたか?戻ってねぇーのかよ。たく、寝たら戻るだろうと思ったのによ。どうすんだよお前…」


「にゃっ、にゃんでベットで!?」
「……ん?なんだよ、話せるんじゃねえか」

「じゃ、にゃくて、説明を!してっ!!」

そうしてる間にもこんな至近距離に、顔が!ていうかなんで向き合って寝てるの!?!?私が抱きついたっていうのかしら!?

「っ、近い!」

離してよ!というと「ンだよ、起きた途端これだ」と、少し拗ねた声を出す。耳元に息がかかるくらい近い!良くない、良くないわよこんなの!

「ふっふふ」

「何笑ってるのっ!」

「だ、だってお前、にゃあにゃあ言ってて、まるで締まらねえよ」

「こっちは本気でっ!」

「まぁ落ち着けよ、なぁ?」


「にゃあっ!?」

私が怒ってるのを無視して、するっと何かを撫でられる。背中を駆け上がる感覚、ゾワゾワして、身体が震える。……ってなに?今何を撫でたの?混乱、そして焦り。大きな手が私の頭を撫でる。

その感覚。……猫耳が生えてる!?ってことはさっきのは尻尾ってことね?

まだ頭が追いついていない私に彼は更なる爆弾を投下した。

「お前が、誘ったんだろうが、なんだ忘れたならもっかいしてやろうか?」

「にゃにをいってるの!?!?」

「また話せなくなってやがる」

「はなるわけにゃーーいっ!!」


ケラケラと笑う声が。耳に残る。何倍聞こえるのかしらこれ、とか、そんな現実逃避をしてると狼はいつもみたいにからっと笑って私を見た。

「可愛いヤツ」

私が真っ赤になったのを見て、また愉快そうにする。それがかなりむかついた。

─────────────────────

4恋のおまじない

いい加減離してやるか。仕方ねえから。と、さっさと布団から出てやると、ネムは露骨に安心したみたいな顔をする。いや、ほんの少し期待もしてる顔だなアレは。なんでわかるかって?そりゃあ食べ頃くらいはわかるだろ。もっとも、アイツには無理かもしれねぇけどさ?

「…………」

「ンだよ、そんな拗ねるな。真面目に戻る方法考えてやるから」

不機嫌そうにそっぽを向くの、ほんと猫そのものじゃねえかよ。

「余計なこと考えてるでしょ」

「考えてねーよ。……しっかし、どうなってんだよその耳」

ぴこぴこ勝手に動いてるし。神経も通ってるし。

「……いっそ変身しちまってリセットできねーのか?」

「……失敗して戻れなくなったらどうするのよ」

「まぁそれは確かにあぶねぇ、か」

「…………どうしよう」

ちょっと泣きが入ってきてるので流石に真面目に考えてやるか。……いや、初めから適当ってわけでもねえが。

「大体心当たりねぇのかよ。なんか変なモンひろって食ったんじゃねえの?」

「あなたと違ってそんなの食べないわよ。」

「いや別にオレも食わねえけど」

「うるさいわね、私は真剣に…………。あ」

「なんだよ、やっぱなんか食ってんじゃねえか。何食ったんだよ。」

「…………おまじないの、かかったクッキー」

「まじない?それで猫耳?」

「…………。どうかしらね、けどそれくらいしか……。下手に魔法が使えるから何か反応してしまったのかも……」

「どんな呪いだ?」

「えっ?」

「だから、どんなまじないだって聞いてんだよ。」

「あ、あーええっと、それは、ぃ、のぉ……」

「……?」

何を言い淀むことがあるんだ?おまじないなら、忘れるってことはねえだろ。眉唾っぽいのを本物の魔女が使ってるとしたらそれはまぁ、少しばかり恥ずかしいかも知れねえけど。

「だから、恋のおまじないよ!私がかけたんだじゃないわよ?だってそんなの必要ないし。関係ないし。クラスの子がその、彼氏と仲良くできるようにっておまじないかけたクッキーが、その余ったからって配っててたのよ!私もそれを食べたってだけ!」

「…………ふーん?」

「なによぉ、もう!また揶揄うつもり?」

「いや。…………まじないならなんとか解けねえのかよ?魔法使えんなら少しはわかることあるんじゃねえの?

「わからないわよ、そんなこと」

「…………」

むす、と顔を逸らす。まじない。おまじない。何かの願いをそこにかけたのだろう。それも、恋のおまじないだ。……まじないなんかに頼らずにオレにいえばいいのに。


「なに?そんなにじっと見られても、困るんだけど……?」

「…………まじないってのは、願掛けみたいなもんだろ?」

「ど、どうかしらね?少し違う気もするのだけど」

「……願ったこと叶えちまえばいいんじゃねえの」
 

「は、はぁ?」

「だから、私は、ねがったとか、そんなのなくて」

「……でもお前の「魔法」は「おまじない」に反応したわけだ。なんか引っ掛かりがあるって思うのは自然じゃねえか?」

「そ、それは、わからないわよそんなの!」

「なぁ、「恋のおまじない」だったんだろ?お前は誰を思い浮かべたんだよ、ネム」

「な、っ、……!それ、はっ」

「…………オレには言えねえヤツ、か?」

赤くなって、狼狽えて。誰との恋の成就を願ったのか。そりゃあ気になるだろう。じゃなきゃ、進めないんじゃねえか?……いや、もっともっと、単純な理由だよな。取り繕うつもりも、もうない。

「っ、あ、だっ、だって、そんなの」

「べつに、言いふらしたりしねえぞ、オレは」

「っそんなのわかってるわよ」

目を逸らされて、逃げられそうになる。なぁ、今更だ、逃してやるには遅すぎた。

「…………。はは、なんだ、まさかオレを思い浮かべてたから、恥ずかしくて言えねえのか?」

どうせ、真っ赤になって「そんなわけない」って否定するんだろうと思っていた。

「………!」

だまりこくって、目が見開かれる。顔が赤いのは予想通りだけど、ほんと、か細い声で、「だったら、どうだっていうのよ」とヤケクソ気味にこぼす。

「……やっぱりお前、可愛いな」

まだ赤くなるのかよ、というオレの言葉が聞こえてねえのか、なんなのか。

「おまじないなんて、必要ねぇよ。お前が願うならオレは叶えるぜ。なぁ、ネム。」

ばち、と目が合う。ぱくぱく、なにかいいたげに、けど言えなくてそいつの言葉が散っていく。仕方ねえなぁ。

どうせなら、お前の口から聞かせろよ。可愛いお願い事をさ。
2024/10/13 01:45:41

ひとりふたつの恋心


#ウルネムSS  #ケイネムSS #ウィッチウォッチSS
1、狼の不在

いつも通りの日常。ニコへの脅威は去り、なんだかんだで乙木家に同居し続けているオレたち。クラスにも狼男であることは知られてしまったりもしたけど、それでも結局上手くやっている。

休日撮り溜めていたお笑い番組をグダグダ見ながら「コレ面白い」とか「あのネタも好きなんだよね」とかくだらない話をするくらいには平和だ。

「………三日月製薬!」

ぼんやり画面を見ていた。………。だからほんの少しその違和感に気が付かなかった。

「…………。あ?」

「アレ?ケイゴ?平気なんか?」

「…………何が?」

「何がって、三日月ーー」

どく、冷や汗がまわる。月。月だよ。わかってる?
オレは手元のリストバンドを見た。ゆっくりと裏返す。

「へんしん、し、ない」


冷や汗が止まらない。片割れが、応答しない。オレは目の前が真っ暗になって、それで、意識が飛んだ。

─────────────────────

『あぁ、お前には話しとくか。いや、保険だ保険。アイツらにいうと変にうるせえし。あぁ?なんだきょうあすにどうこうって話じゃあねえよ。』

『……古き血の覚醒ってのか。俺の場合。お前の方が詳しいんだろうが。まぁともかく。俺は本能のまま、やりてえようにしてるが。コレもいつまで続くんだかな。だってそうだろ?突然に産み落とされたんだったら、いつ消えたっておかしくねぇさ』

『んだよ、お前。案外、俺が好きなのか?ンな顔をすんなよ。……まぁでも俺も理由あってボイコットすることくらい、あるかも、なぁ?』

『だからまぁその時はお前が、俺を呼びに来いよ。そしたら、お前のその泣き顔拝みに出てきてやるかもな。んだよ、だから今そんなぴぃぴぃいうなっての。』

─────────────────────

マガミケイゴに関する秘密は未だ増え続けるばかりで、その多くを私は開示してない。まぁ、私が猫に変身することそして、ウルフを解放するために会いに行っていたことは紆余曲折あってバレてそれなりに揉めたけれども。

今となっては、彼とは友人…?友人か。おそらくそうだ。……ちょっと嫌われてるだろうけど。

「………へ、変身といえばねむちゃんだから。どどうかな」

ニコもかなり慌ててるし、そして何より本人が倒れてるし。

「……………。どうしたいか、じゃないの?」

「ど、どう?」

「このまま、1人として生きてゆく方がきっと「簡単」よ、考えたことはない?魔法がなければ。この血筋でなければって。ないとは言わせないわよ」

「けど、それは」

「ありえない、それだけは」

私の腕を掴む手が震えていた。マガミケイゴは青白い顔で私を見上げた。殺人予告だろうがとでも言いたげに。

「そうね。けどそういう選択もこの先考えなければならないということよ。わかってる?それくらいまずい状態なの。貴方は特に……。」

「きみ、なにか、知らないの?」

「あいにくだけれど、狼男の文献はそう多くないのよ。それに私の家で探すにも少し時間が欲しいわね。」

「オレも調べたいんだけど」

「その体調で?貴方自身が倒れてるんじゃ元も子もないのよ?」

「……そうだけどさ」

「………明日また来る時にちゃんと本を見繕ってくるわ。だからその時、みんなで考えましょう、ね?貴方の顔色ほんと、最悪なのわかってる?少し部屋で休んできた方がいいと思うの。モリヒトくんもそう思うわよね?」

「あぁ、肩を貸してやるから、2階で寝てこい。ちょっと頭を冷やすべきだ」

「、え、?あ!?ちょっと!?!?」

抗議するケイゴを無視して肩かすとか言いつつ担ぎ上げて強制連行されて行った。やっぱりつよいつかいまってすごいワー。

─────────────────────


2、クレバーな黒猫の冴えたやり方


「さて、本題に入ったらどうです?ケイゴさんには言いにくい話があるんでしょう?」

「ミハルお前ズバズバいくな」

「……そうね、いえ、勿体ぶる気はなかったのよ?はい、これ文献」

ドサッと手持ちカバンに入れていた本をテーブルに置いた。

「あるやんけ!?!?」

「手ぶらでくるなら私来なくていいでしょ。」

「そんなことないよ!?」

「とにかく。その、ええーっと、私はたまたま読んだことあったから、なんとなくわかったのだけど」

「あぁ、ネムさんケイゴさんに惚れてますもんね」

「ミハル!言うなや確かにバレバレやったが」

「そうだよ!あからさまだったけど!」

みんなそんなこと言うの!?なんで!?嘘嘘!そんなわけないもん!!

「えっ!?あからさまだったの私!うそ、今日ずっと真面目な顔してたのにバレてるの?」

「え?さっきだって死ぬほど心配だから早く休めって顔に書いてありましたよね?」

「へっ!?」

「書いてたね」

「ええっ!?」

「と、ととと、とにかく、この本!このほんよもう、ね!」

パラパラとページをめくる。感覚的に「どこに狼男の記述があるか」は記憶していた。

「ていうか普通に好きな人のこと知りたくて文献読んでたとしたら相当惚れてないですか?」

「たまたまなの!ほんとに!」

わぁーーもう嫌!泣きそうになっているとケイゴを運んでいたモリヒトくんが戻ってきた。

「おい、お前ら上でメンタル死にかけ狼がいるのに元気すぎるぞ」

「モリヒト、いやネムがケイゴに惚れてるって話してるだけや」

「そうなのか全くわからん」

目が黒い!貴方は貴方で怖いのよ!なんの興味もないわけ!?!?どう言う感情の顔!?!?

「ほらぁー私分かりやすくないじゃない!」

「いやモリヒトは朴念仁やし。僧侶やし」

「うぇーーん!!わかりやすくない!わかりやすくないんだからぁ!!」

「それでネムが惚れてるのと関係あるのか?」

「な、ないけれど!?ねぇ私無意味に辱められていない?」

そんなストレートに言わないでくれるかしら??

「いや無意味にエロい言い方してはいますけど」

「話が逸れてるが結局なんでウルフは出てこないか、わかりそうか?」

「し、シンプルな話、何かしら「ボイコット」してるのよ…まぁ普通はありえないのよ?狼男って勝手に変身した側が好き勝手やる話の方が多いから変身しなくて困るなんて事ないのよね…」

「まぁそうやろなぁ…」

「何かしら「ケイゴ」自身に抗議してるんじゃないかと思うのだけど、なにも、思いつかないのよね。だって変身してウルフがどうにかする方がアプローチとしては、彼らしいじゃない?」

「あ〜〜あかんワシわかったかもしれん」

「えっカンちゃんわかったの?天才なの?」

「……念のため確認やがネムはウルフとも付き合っとらんのか?」

「えっ、あ、え、つ、つき、つきあうとか、その、だって、つきあうなら、ふたりとつきあわないとだめでしょ?だからその、かれとも、はなしをしないと、無理だと思うって、このまえ、話だけして、ええっと、だから」

「おう、原因それやろ」

「ええっ!?」

「つまり、ネムがケイゴと付き合ったらウルフとも付き合うと言うことか?」

「わぁ〜お!」

「ちなみにそれ二股とかではないんですか?」

「まあ1人やし体は。ええんちゃう?」

「まっ、え、あの、ええと」

「あれ、ネムちゃんケイゴくんのことは好きじゃない?」

それなら困っちゃうよね〜?とか呑気なこと言うニコちがうの、その、それは。

「あ、あ、うぅ、ええっと、その、す、きだけど、でも、」

「おし、ネム、ケイゴを落とそう」

「ええっーー?!?」

そんなの、できるならとっくにやってるわよ〜っ!!!!

─────────────────────
回想 狼男
たしかに、確かに言われたけど。

『お前、いい加減オレの女になればいいのに』

ちょっと拗ねたみたいに、いわれたとき、頭が爆発するかと思ったけれど。だいたい、そう言うことに困ってませんって顔つきのくせしてどうして私に?とか、言いたいことはあった。けれどそれよりも前に。

「はぁ、だから、貴方と付き合うなら彼に話をとおすべきで、その、だから」

『……あ〜?別に前もあったぞ俺と付き合ってたおんな。あっちに戻って別れたがな』


「そうなったら、彼にめいわくかかるのよ、わかる!?!?その、貴方が私を、そのすきなのは、おいとくとしても!好きでもない女と勝手に手を繋いであまつさえデート!?されてるなんて、そんなっ!これ以上嫌われたくないのよ私は!」
  
そう、既に嫌われてる。これ以上嫌われたくない。それに、嘘をついて彼にあってたのは私で、隠し事をしてたのは私。嫌われても仕方ない。

『………ん?』

「な、なによ」

『つまりアレか。そうかそうか。なるほどなぁ。』

「な、なによぉっ!」

『覚悟しとけよ、宮尾ネム。』

「、な、何を!?」

相変わらず、いけすかないかお。かぶ、と齧られたらきっと丸呑みされてしまう。今ならほんの少し赤ずきんの気持ちがわかる気がした。

─────────────────────
3、鬼の居ぬ間に
─────────────────────
現在メンタルが全盛期(乙木家加入前)くらいに荒れている男つまりマガミケイゴ。おそらく色恋とかそんなレベルでない今、この状態で「彼を落とす」と言われてできます!と言えるわけがない。そもそも私は既に、嫌われているのだ。ーー月に一度、かれではなく、ウルフに会いにきていたと言うことが、バレた時の、あの、怒った顔を見ているんだから。

「それ、その、だからええと、脈なしというか」

「そうかぁ?ネムのこと美人って言うとったけどな」

「へっ!?」

「自信持ってねむちゃんかわいいよ!」

「ま、まって、まって、まってくれる?ほんとに?あんな状態なのに!それどころじゃないでしょ、私、そんな時に好きだって言われても信じられないし!そう言うのは良くないと思うの!」

「真面目なとこあるよな」

「まぁ確かに今いきなりアプローチをかけるのは誠実さに欠けるか…?」

真面目に言ってるのよこっちは!

「落としたらいいでしょ、卵が先か鶏が先かってだけですよ」

「というか!この中に恋愛経験ある人いるの!?」

「ワシはない」

「僕ですか?まだないです」

「オレは…」

「モリヒトとニコは参考にならん」

「ええっ!?」

「お前らは、参考に、ならん」

「なんで2回も言うのカンちゃん!?」

「参考にはならないわね」

「ネムちゃんまで!?」

だって元々ラブラブじゃない?まるで参考にならないわ!

「……はぁ〜めんどくさいことなってもうたなぁ」

─────────────────────

モリヒトは悩んでいた。さっきケイゴを二階に連れて行った後のことを思い出す。

「ふん、いい薬になりそうだなぁ」

部屋に着くなりニタァ、といつもみたいな笑い方でウルフに代わっていた。

「あ!?お前、変身できないんじゃ」

「ンなのちょっとくしゃみ我慢してたようなもんだ」

「そう言う感じなのか、まぁそれなら安心だなケイゴにも言って…」

「ダメだ。」

「はぁ?」

「いったろ?アイツをちょっと甘やかしすぎなんだよ、お前らは」

「甘やかす、って、いや全然そんなことはないが…」

「…………まぁお前はそうかも知れねえけど、とにかく、だ。ちょっとばかり、ちゃーんと考えてもらわねえと俺もいつまでも待てねえんだよ」

「なんの話だ?」

「答え言ったらつまんねえじゃねえか。大体「譲歩」してやってんのはこの俺だからな?とにかくアイツには言うなよ。モリヒト」

「………お前なりの考えがあるってことか?嫌がらせなんかじゃなく?」

「そんな怒るなよ。まぁ、確かに?俺はお前らからすると前科アリって感じかも知れねぇーが」

「違う、お前が困ってないかって聞いてる」

3秒ほどの沈黙。目を見開いたあとウルフはケラケラと笑う。まぁ、その反応を見れば流石に困ってるってことではなさそうだが。

「俺がぁ?…………ほんと、底抜けのお人好しだな、反吐が出る。安心しろ本当に変身できないわけじゃない「マガミケイゴ」はいたって健康体だぜ?……いつまでも後ろ向きな所を見せられてると俺もうざってえから、ちょっとした荒療治だよ。」

「……そうか、けどそれで、生活に支障出かけてるんだが?」

「俺もアイツがあんなへこむと思ってないっつーの。まぁせいぜい自分の行いを省みることだな…。」

「自分と喧嘩とか器用な話だ」

「お前にもあるだろ?100%己の行動を肯定できるか?」

「それは、たしかに、間違うことも、あるか」

「まぁ、そういうこったな。」

「そう言うわけだ、あと他の奴らに言うなよどうせ、嘘もつけねえ正直もんばっかだろ。あとあの黒猫にもな」

「ネム?なんでネムにも…彼女なら器用だし…ー」

「ふん、ばあか、教えねえよ」

「おいウルフ、今回の件本当に嫌がらせじゃないだろうな!」

問いただそうとするとするりとケイゴにもどってしまった。しかも寝ている。

「はぁ〜、たく、世話の焼ける…」

………。

「後ろ向き、なぁ」

まだ、いえない傷もきっとあるだろう。誰にでもあるものだし。

─────────────────────
4、天狗的超絶最適解!

「つまり、や、看病しよう」

ドストレートの作戦だった。と言うかもはや作戦と呼べるかも怪しい。

「確かめるんや、「本当に脈なし」なんか」

「それ本当にそうだと私へのダメージとんでもないのだけど」

「まぁその時は、泣け。ここで慰めパーティしたる」

「雑すぎるアフターケアですねカンシさん」

「ここだとケイゴくんもいるのよ…?」

「ええやろ細かいことは」

「えぇっ」

「とにかく突撃や!ええなネム!」

「よしいこうー!すぐ行こう!ね!ネムちゃん」

「行動力の塊すぎるのよ!」

─────────────────────

ぼんやりとした視界が開ける。飛び起きるみたいに、意識が覚醒した。あれ、いつから洗面所にいたっけ?そう、顔洗ってーそれで、頭を冷やせって。あの子に謝らなくちゃ。

「今更?何を謝る」

鏡に向かって「そいつ」は言った。

「オレはー」

悲鳴が聞こえる。心が軋む音がする。

「すきなんて、いえない」

たとえ、みんなが受け入れてくれたとしても。オレのしたことは消えてなくなったりしない。

あの子に手を伸ばすことを許されるはずがない。
あのひ、それを痛感したはずで。

「君がオレに会いに来てたわけじゃないのは、どこかでわかってた」

『ごめん、わたし、わたしはー』

あの時の、あの子の顔をちゃんと見ていただろうか?いや、とてもじゃないが見れなかった。

「気にしなくていい」

前にもあったろ?なら、どうして心がこんなにも痛い。
確かにアイツならば、オレよりよほど上手くやってるだろう?なぁそれも良くあることだったろう?ならばどうしてこんなに、苦しい。

「また会いに来たらいいじゃん、「アイツに」」

それでも、きみと、会えるなら。

「オレは、きにしないよ」

そうか、オレはーきみが、好きだったのか

─────────────────────

「っ、は」

「うなされていたわよ」

目が覚めると、なぜか彼女が俺の部屋にいた。ほんの少し気だるげに目を伏せている。

「ごめん、さっきは」

「……私に謝る必要ないのよ。家族が急にいなくなったようなものでしょ。私も言い方が悪かったわ。ごめんなさい。」

「そんな」

「そうでしょう。何か違うの」

「………君に、迷惑をかけてるから」

「私に?」

「だって、ウルフとその、付き合ってるんだろ?」

沈黙。そしてみるみると赤くなる顔。やはりそうなのか、と妙に納得すると彼女は床にあったクッションをオレに投げつけた。

「…………。はぁ!?っ!なに、な、誰から聞いて、いえ、違うのほんとに付き合ってないし、」

「隠さなくても…前にもあったし」

「ちが、ちょっとこっち向いて。ちゃんと私の目を見て。「本当に違うの」」

泣きそうな顔でそう言われる。彼女はそんな嘘をつく子でもないだろう、けどだったら…

「えっ、?」

だったら、どうしてー?

「つ、きあってない、し、だから、その貴方がいやがるような、そんなことは起きてないし」

「俺が?なんで嫌がるの」

「だ、だって、貴方って私が、嫌いじゃない?」

頭の中を駆け巡る3文字。彼女は今なんと?きらい、嫌い、嫌い!?オレが君を!?!?

「嫌い!?!?いつオレがそんなこと!」

「ち、ちがうの?だって、あのとき、怒ってた」

「あ、あの、とき?いつ?」

「私の秘密を知った時よ!」

「………え?いや、怒っては、なかった、けど?」

たしかに、その多少、いやかなりショックは受けたけど、怒ってたつもりはない。彼女がオレではなく、オレに三日月を見せるため会いに来てたことは、それなりにこたえたけれども。怒ってたわけでは決してない、ただ、かなしくて、そして、そんなことを考える自分が嫌だった。

「じゃあ、やっぱり軽蔑したんじゃないの!?!?」

いつも凛としている彼女の顔が、ゆがんでいく。そんな顔をさせたいわけじゃない、ほんとに。

「な、泣かないでよ、」

「わ、わたし、わたしだって、あなたに、ひどいことをしていたと思ってるわよ!嘘ついて!会いに来て!そのくせ、会うのが楽しみだったし!つまんない映画見て、くだらない、はなししてっ、そんなこと、誰ともやったことなかったんだから!」

「それは、あいつ、と」

アイツとそうしたかったんだろ、と言いかけて彼女はそれを遮る。

「どっちもでしょうそんなの!どっちも貴方なんでしょ!!どうせ、わたしはっ!二股女よ!だって、どっちも、好きになっちゃったんだもん!」

「え、ええっ」

いま、とんでもないことを言われてるんじゃないか?一気に顔が熱くなる、え、つまり?どう言うことだ、「オレにも、会いに来てくれていた」と?そういうことなのか?オレの妄想ではなく?

「ばかぁっ!」

「キャパを超えている……」

「さっさと何か言ってよ!振るんでしょどうせ!」

ほんとうに、手を伸ばさなくていいのか?
本当に後悔しないのか?たとえ許されない人間だとして、だからって目の前で、俺をすきだといってくれてるこの子に、俺の気持ちに、向き合わなくてもいいのか?

それは、不誠実なんじゃないのか?

君が、勇気を出して、きっと嫌われていると思ってたオレに、教えてくれたことを無碍にして、それでいいのか?

「ーーーだまってないでー」

「その、月に一度じゃ少ないかも」

「は?」

「デートなら毎週でもいいし、放課後も、暇なら話したいし」

「あ、え?」

「だからその、俺が、君に会いに行きたい、ってこと」

「ちょ、っ、」

君の手に触れる。そう、ずっとそうしたかった。そしてそれがゆされないと思っていた。けれど、オレは、オレは。

「きみが、許してくれるなら、いつだって、オレはそうしたいって思ってた。……オレだけ?」

「そんなの、もっと、早く言ってよ」

最悪にカッコ悪い泣き顔で、オレは君に告白した。



─────────────────────
5、狼男の帰還

「案外、奥手だなぁと思って」

紆余曲折、なんだかんだ。かくかくしかじか。
そう言うわけでネムと「マガミケイゴ」はお付き合いを始めた。

泣きながらネムとケイゴが手を繋いで部屋から出てきた時は面食らったし「まぁウルフもさっき変身でてきてたし」とオレが告げたらみんなにボコボコに殴られた。明らかにオレの殴られ損では?


「奥手?ケイゴがか?」

相変わらず食い意地の割に綺麗に完食したウルフに俺は問いかける。

「お前だ。なんだかんだで探してたってことだろ」

「はぁ?」

「じぶんの「全て」を受け入れてくれる相手」

「……………オレがか?」

「だって今までならすんなり諦めてたんじゃないのか?執着しないってのも「本気じゃなかった」からだろ。……お前はケイゴに自覚させてその上で彼女を手に入れようとした。……意外なことだ」

「お前がそう言う機敏がわかるやつだとは思わなかったぜ。しかし、ざんねんだがやっぱり朴念仁だな」

「む、違ったのか」

「先に本気で手に入れたがったのは俺じゃない」

「は?」

「ふん、まぁそういうこった。お前には、やらん」

「はぁ?」

オレは関係ないだろ、とこぼすと、「うるせえ、朴念仁」と罵られた。あっかんべーとか小学生か。いやこいつほぼ3歳児か。


「どこ行くんだ?チンピラ殴りに行くのはやめろよ?」

「ふん、ネムとデートするんだよ。「会いたい時に会いに行くことにした」みたいだから俺もそうするだけだ」

「……結局、ネムとケイゴに話し合いをさせたかったのかお前。だったら結構自分に甘いぞ、ウルフ」

「うるせぇ〜!」

話も聞かずにずかずか外へ向かう。まぁ、結局日常はほとんど変わらない。女の子ナンパしに行くのが、ネムに会いに行くのに置き換わっただけだし。

「いってらっしゃい」

「いってくるぜ!くはは!」

「まぁ、いいか」

なんだかんだ楽しそうだから。


─────────────────────
2024/10/13 01:44:38

抹茶餡蜜パフェDX白玉増量


#にゃんちょぎSS #審神者緊急連絡所 3 #刀剣乱舞SS


主と政府施設ではぐれた俺はあたりを見回していた。どこもかしこも、外套を被った奴が多い。刀だけでなく、役人にもそういう格好の奴がいるとは。知らなかった。

音がしてそちらを向くと、よく見慣れた刀が書類をたくさん落としていた。

「おい、大丈夫かよ」

「あ、ね………。…。いや、気にするな」

俺の知るそいつとは違う。少し低い声。
そそくさと紙を集めて拾う仕草。見惚れそうになって頭を振った。慌てて俺も紙を拾う。

「ほら。」

「悪いね。……ところで君はこんなところで何を?見たところ政府の刀ではないようだが」

「あぁ、主が俺とはぐれてにゃ」

「主をひとりにしたのか?」

「いや?短刀が一振り一緒だけど」

俺の言葉にそいつは微妙な顔をした。懐をゴソゴソと探るとべし、と俺の額に札を貼る。

「にゃ?!?」

「迷子は君だよ猫殺しくん」

くす、と小さく微笑んだ顔を最後に俺の体は俗に言う迷子刀剣センターというやつに転送されたのだった。

────────────────────
1ねこごろしくんの恋
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「なぁ、山姥切。お前何か好きなものはねえのか」

跳ねるような声色。キラキラ輝いた瞳。ああ一眼見てわかる。この刀は恋をしている。
人のような感情を抱いている。


「お前の同位体に、渡したいんだ」

そしてそれはこの俺ではなかった。

────────────────────

南泉一文字は俺よりも後にこの本丸にきた刀である。南泉一文字は俺の旧知、昔馴染みの腐れ縁である。そしてこの刀は事もあろうに俺でない俺に、その心を傾けた。

確かに俺は素直とは言えないだろう。なんたって、自分の心をここまで隠し通したのだ。なんという演技力だろう。

「へ、へぇ?君どこの俺にそんなものを渡すのかな」

止まらない冷や汗、震える手を隠して俺は彼にいつもどおり問いかけた。確かにここは俺の部屋のはずなのにまるで別の世界のように音が遠い。聞きたくはない。聞きたいはずがあるか。どうせ惚れるのならどうして目の前の俺にしない。


「この間主について行ったろ?その時にあった。あれは監査官ってやつなんだろう、にゃ?」

監査官!そうか、君はそっちの方が好みか!見たことなかったからそっちになびいたのか!!あぁー!!惜しいな!!俺の監査官姿を見れば間違い無く俺に惚れただろうに。いや、待てよ。

「それいつ?」

「だから、一週間くらい前だにゃ。…書類を落としたみたいで…おれがひろったんだ。そしたら、道案内してくれて、にゃ」

「一週間、前?」

今度は違う汗が出る。待て待て待て。待ってくれ南泉一文字。お前という刀は!お前。お前!!お前な、それは、この俺だ!!いや広い意味ではない。今お前の目の前で与えまくっているこの、俺だ!間違い無く、少しのズレも狂いもなく!!この!!ここにいて君の目に映る山姥切長義が!その監査官だってことだ!

「そ、それなんだが」

真実を伝えるべく口を開いたのに南泉の食い気味な態度にモニャモニャと言葉を濁す。だって仕方ないだろう!こんな顔されてはい俺でーすとか言えるか?冗談やめろと言われるだけだ。

「なんだ!お前知り合いなのか!?なぁ、政府の監査官ってどうやったら会える、にゃ!?」

「お、落ち着け、落ち着くんだ。監査官というと、どこの本丸に配属されるかもわからない。それにうちはもう俺がいるから、ここには来ない」

というかお前が惚れたのも俺だから俺でいいだろ!!俺で妥協しろ!いや妥協で俺を選ぶなんでふざけてるな?喜んで俺にしておけ?

「そうか、そうなのか、にゃ」

そういうとあろうことかこの猫殺しくんは見たことのないほど落ち込んだ顔をする。お前俺に失礼だとは思わないのか。謝って。そして俺と付き合って?

しかし、惚れた弱み。俺は彼のこのショボショボ顔に弱い。なんとかしたくなる。持てるものこそ与えなくてはという気持ちが湧き上がる。

「……だが、まぁ、今はそんなに特命調査の多い時期でもないし…、個体によっては長く留まる奴もいる、ような…気がしなくもない」

「にゃ!じゃあまだ政府の建物に!?」

「わからないけれど、可能性はあるんじゃないかな?うん。わからないけど」

「そうか!わりいにゃ!」

猫殺しくんはバタバタと走って俺の部屋を出た。

「クソ…何か策を練らなければ…」

この時俺の中ではすでに猫殺しくんの目の前に監査官としてもう一度会うことは決めていた。そうして、何食わぬ顔で君気がついてなかったのかと言えば全てカタがつくはずだったんだ。


────────────────────
二、嘘ではない。
────────────────────


政府施設には一振り刀剣が歩いていました。いいえ、一振りではなくたくさん歩いてはいるのですが。さて、この刀剣。名前を南泉一文字と申します。彼はただ、この政府施設をうろついているわけではございません。もちろんもくてきあってのことです。

スタスタ、スタスタと華麗なステップ(?)まさに舞踏会に行くような軽やかさ。その目的は!

そう!政府施設にいるはずの監査官を探しているのです!それはまさに!一目惚れ!!美しい所作!低く落ち着いた声色。そして悪戯っぽい笑み!その全てがこの南泉一文字の心を掌握しておりました。

この監査官!いったいどのような素性なのか。わかったものではありません。彼にとってはまったくの未知!すなわち知ることのできない相手!ともすれば尚のこと傾倒するのも不思議ではございません!

「おい、そこまでにしておけよ」

監視カメラの映像を見つめながら長々とした実況を履き連ねるハイテンションくだ狐の首根っこを掴んで肩に乗せる。このくろのすけはバグでも起こしているのか。昔からそうだ。一回メンテナンスをした方がいい。

「失礼。昨日講談師殿と丸一日一緒に監視しておりましたらこのように」

「どんな状況だよそれは」

「そうは言いますが庚の…いえ、もう本丸配属の刀でしたね。…私は貴方という相棒を失い新たな相棒を探して西へ東へ」

「狸鍋があるなら狐鍋ってどうだろう」

「庚殿!?!?」

「庚の番号を振られてる俺は他にもいるだろう。」


政府の刀剣に振られた番号で呼ばれるのは久しぶりだった。まあこのクダ狐とは付き合いも長いし。

 「はぁ。とにかく。南泉一文字にあって自然に俺が彼と同じ本丸の俺だと明かすんだ。君には手伝ってもらうよくろのすけ」

「ええ!私と貴方、最後の仕事ですね!」

「きみ、昨日刑事ものでも見たの?」

「はい!」

「元気でいいね君は…。クールで売ってるんじゃないのかな」

「クールですが?」

「この話はここでやめよう。不毛だ」

「私はふさふさです」

「君ほんとはこんのすけが墨被っただけなんじゃないのか?」

「はぐ!?」

さっさと政府施設を歩き出す。この曲がり角でぶつかる確率80%!恋が始まる確率は90%ですよ!とくろのすけがいう。残念だがあっちの恋はすでに回り始めている。

「にゃっ!?」

「おっと。なんだ君か」

至って冷静に。静かに。そう。落ち着いて。初めは匂わせる程度で。あくまであちらから気をつかせる。そうすることで相手の傷を浅くそして俺への好感度を高く!わかるな!

「にゃっ!にゃんさかん!奇遇だにゃ!」

あわあわほわほわと慌てる猫殺しくんは死ぬほどかわいい。なんだこの生き物は。政府で保護しなくていいのか?いやむしろ俺が保護してもいいか?

「あぁ、にゃんさかんだよ」

だめだ頭が働かない。にゃんさかん?にゃんさかんってなんだ。可愛いがすぎるもはや暴力と言えるレベルではないか。

「にゃっ……。いい天気だにゃ!」

こいつ何話すかまで考えてなかったな。ここから外見えないし今日は台風で警報が出てるぞ。

「あぁ。まぁ、見ようによってはそうかもしれない。猫は室内にしまっておくことだね。飛ばされるよ」

「台風!あっ、あー!!ええと、今度お茶でもどう、だ?」

脈絡がなさすぎるが断れるはずもない。

「お茶?構わないけど。」

キラキラした目を向けられた。あぁ、なんて綺麗で、可愛くって。


「じゃ、またにゃ!!かんさかん!」


俺を見てない瞳だろう。

────────────────────

管狐はものすごく気まずそうな声を出した。

「あの、あれ?ネタバラシをするのでは?デート約束してませんでしたか?」

「君あの目を見て言えるか…?一目惚れしたのがいつも隣にいる腐れ縁なんて言えるか!?俺は言えないよ。あんな目で俺を見たことがないんだから」

「……あの、もしかしてなのですが」

「言うな」

「山姥切長義殿はあの刀をお好きでらっしゃる?」

「言うな」

「胸を張って仰ればいいでしょう。貴方が惚れたのは己なのだと」

「……それで距離ができてみろ現状からより酷い関係になる」

「しかし、嘘を重ねればその分お互い傷つくのでは?」

「わかってるよ、そんなこと。」

「早くお話になった方がよろしいかと思いますが」

「そうだろうね。もちろん」

「……あの方をがっかりさせたくない、と?」

「わかってるなら言うな」

「しかし、どうでしょう。貴方も山姥切長義なのです。彼だって監査官は貴方の同位体だと言うことくらい理解しているのでしょう?」

「……そう簡単に割り切れるなら俺は…」

「失礼差し出がましい真似を。しかし、統計上これ以上長引くと今後の関係を悪化させかねません」

「そこで感情じゃなく数字を持ってくるあたりお前は本当に俺の元相棒だよ」

「褒められました」

「褒めてないけどね。次はいう。必ず言う。と言うか気がつかないのはおかしくないか!?」

俺がため息をつくと管狐があ!!!と大きな声を出す。うるさい。鼓膜が破れたらお前の訳のわからない模様を歌舞伎みたいにゴツくするからね。

「……あの、私たち大事なことを忘れていたようです。庚の山姥切長義殿」

「あぁ?何を」

「あなたその外套、政府貸し出しの強力な認識阻害の術式が組み込まれております」

「あ……。」

そう言えばそうだった。

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三、真実でもない
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「それで君、随分と面白いことをしているそうじゃないか」

本当は必要なんてない雑用の書類を山姥切長義ばかりの部署に届けるとそいつは言う。胸元には区別するために割り振られた番号が名札みたいにぶら下がっていた。

「甲159か。お前まだここにいるの?」

「あぁ。一振りくらい送り出す刀がいてもいいだろう?こうして旧知が訪ねてくるのも悪くないしね」

大抵の俺の同位体は本丸配属になる際に政府での記憶を抹消される。というか、改変されるのだ。まぁそりゃ他の刀は政府で働いてから本丸に行くことは少ないしそこの齟齬を減らすためだからまあ当然かもしれない。

「…それはそうだけど」

「それで?君のところの猫殺しくん随分と面白いことになってるじゃないか。すまないな試作品の出来が良すぎた」

俺の外套を見ていやー力作だなぁと嬉しそうにする。

「全くだよどれだけ認識阻害が効いてるんだ」

「まあまあ。しかし、聞くところによるとかなりややこしいんじゃないか?俺が手を貸そうか」

「何でそんなに詳しいんだよ」

「それはそこのくだ狐くんが俺の部下になる予定だからさ。この子一回メンテナンスしていいかな。バグの可能性あるよ」

「好きにしたらいい。お喋りさんすぎるのもどうかと思うからね。」

「庚殿ぉ!!そんなぁ!」

首根っこ掴んでやるとバタバタ暴れるくだ狐。甲159は「冗談だよ。それで?どうする?」と俺に問いかけた。もちろんくだ狐のことではない。

「………それは、つまり」

「俺が君の代わりにあの南泉に会いに行って、きちんと振ってあげるって言ってるんだけど。そうしたら君の恋敵は消滅するわけだろう?」

「…騙すのか?」

「今更だろう。君次会ってもまた同じことを繰り返すんじゃないか?」

「し、しない」

「そう?俺はどっちだっていいんだ。確実な方を選ぶのが利口な選択だとは思うよ。どうせ認識阻害で君と監査官の同一性はバレてないんだから」

「……長引かせない、ためか」

「ん?乗り気になったのかな?あぁ、それと君が心配しなくたって、俺にはちゃんと待ってる相手がいるからね。その辺りは気にしなくていい。俺が君のところの南泉に傾くことは決してないよ」

「…そんな心配はしてないけどね?」

「それにしては不安そうに見えたけどね」

「そう思ったなら君の目は節穴だったってだけだろう?」

はぁ、とため息をついた。あぁそうだね。わかってる。俺が行くよりも彼が行く方が、確実だってことくらいは。


「頼む」

「あぁ、いいよ。君ならそういうと思った」

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四、だからこそ手を伸ばす
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心臓がおかしくなるかと思った。跳ね回る。こんな感覚どれくらいぶりだろうか。見慣れた茶屋が別世界のように思えてくる。俺はたまたまそこにいたことにするためにわざわざ他の刀剣と1日この茶屋で南泉を待つことにした。

「顔色が悪いが日を改めるか?だいたい俺に用事なんてどういう風の吹き回しだ」

むす、と無愛想にメニューを見る長谷部に相談がなんて言いにくい。

「おい、こんなところに連れてきたんだ。それなりの用事があると思ったんだが。……違うのか?俺はてっきり何か折り合いが悪いことでもあるのかと」

「特にはない。いや、無くなる」

「はぁ?貴様はたまに訳のわからないことを言うな」

「君もその貴様って言うのやめた方がいいよ。ヤンキーみたいで怖いからね」

「怯えてもないくせに怖いと言うお前はヤンキーじゃないのか?話を逸らすな」

「……仕方ない。巻き込むんだから話しておこう」

「主命でもない面倒ごとに巻き込むなよ。」

「しかし君、本丸の調和を乱さぬよう主に申し付けられてはいなかったかな?」

「お前が調和を乱してるなら叩き切ることもやぶさかではないが…?」

「どうしてそう物理的解決に持ち込むかな」

「焼き討ちした方が早い」

真顔で言わないでくれるかな。君のそれは冗談に聞こえないからさ。

「すぐに焼くのやめた方がいいよ。焼き芋くらいにしておくんだね?」

「それは秋田の方が上手いから俺はしないが」

心底面倒くさそうにそう言うと帰りに焼き芋買って帰るか…とぶつぶつ呟いた。食べたくなってるじゃないか焼き芋。

「……君そんなに俺の話聞きたくない?」

「どうせ南泉一文字がらみだろう。最近様子がおかしかったが、何か知っているのか?」

「君から見ても様子がおかしかったのか猫殺しくん」

「あぁ。やたらと主に政府に持っていく仕事ないのかときくから護衛でもして近侍になろうと画策しているのかと思ったが、蓋を開けてみれば施設につくなりすぐ迷子だ。親切な監査官に助けてもらったらしいが…」

「……あぁ」

「……おい、まさか」

片眉を釣り上げて嘘だろうお前といいたげな長谷部に苦笑いで返す。

「理解が早くて助かるよ。それはたまたま政府の手伝いをしていた俺だ。そして猫殺しくんはそのことに気がつかなかないまま…」

「……まさか、最近浮かれてたのはそのせいか!?何でそんなややこしいことになっているんだ!!さっさと名乗ればいいものを!」

「うん、それもう何回も聞いたから…」

「開き直るな…で?それだけ話すために俺をここに?」

「すまないがそれだけじゃない」

「だろうなぁ!」

長谷部はキレ気味にすみませんこの抹茶餡蜜パフェDXください白玉増量でと店員に頼む。あ、ここ俺が会計持つやつなんだね。そうだね。

「今からこの店に猫殺しくんと、俺のふりをした別の監査官がくる。監査課にはとにかく、振ってもらう算段になっている。」

「………それでいいのか?」

「え」

「てっきり…」

長谷部が何かいいかけたが入り口の方を見て言うのをやめる。

「おい静かにしろ、ぐだぐだやってるうちに来てしまったじゃないか」

「あ、猫殺しくん」

店に入ってきた猫殺しくんは1人だった。現地集合だったしこのみせってそう大きくない。俺たちは目立たない席にいたのでバレていないようだ。

「おい、ここからじゃ声が聞こえないどうするんだ!」

「それは問題ない。あっちの俺が電話を繋いだままにしておいてくれる手筈になっている。インカムをつけているから軽い指示ならできる。フードは外さないから見えない。」

通信機器を机に置いて小さめにスピーカー設定をしておく。

猫殺しくんが席でソワソワしていると監査官甲159が茶屋に入ってきた。彼はスタスタと猫殺しくんの席に向かう。

「やあ。待たせてしまったようだね」

「?あ、あぁ。おう」

「猫殺しくん、何頼む?冷たいお茶にしておく?」

「猫舌じゃねえ、にゃ」

「ふぅん。そう。適当に頼むかな」

スラスラと俺のように話す甲159、こいつは俺のことをよく知っていたのでその辺りは抜かりないようだった。長谷部は俺にばれないのか?と問いかける。確かにそうだが、あの外套は特性の認識阻害術式がある。

「はなしが、あったんだ」

猫殺しくんの絞り出すような声に、心臓が握り潰されそうになる。

「けど、アイツは、聞きたくなかったんだな」

俺は凍りつくように動けなくなった。心臓が嫌な響き方をした。


「あいたく、なかった。お前とは」

彼はすぐに見抜いてみせたのだ。目の前のその「山姥切長義」が自分が恋する「監査官」ではないと。

それを聞かされて俺は「だったら、俺のことだって見抜いて見せろよ」と身勝手なことを考えてしまった。

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五、恋をしている
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南泉一文字は叶わぬ恋をしていた。それは己の心だけに秘めた恋だった。たとえ誰に指摘されようとも認めない思いだった。だってあいつは俺を見ない。俺の目を見ない。いいや見ているけれど俺の奥を見ない。俺の想いを見ない。

溢れ出した想いが毒のように腹の底に渦巻いたとき、俺は決めたのだ。この想いはやはりこのまま、俺の腹に留めておこうと。出なければあいつに、俺は噛み付いてしまうだろう。

諦めよう。

そう思ったのはもう随分と前のことだったのだ。

だから俺はやっと、やっと見つけられたと思ったんだ。あいつ以外に、俺の心を掴むものを。なのに。どうしてうまくいかない。

あいつはここには来なかった。それだけが真実だ。もしかしたら気がつかれたのか。未だ消えない、俺の思いに。噛み付きたいと言う衝動に。

目の前の監査官は、俺の求めた山姥切長義ではない。そいつはゆっくりと座り直すと、そう、でもせっかくだ俺と話をしようか。と微笑むとフードを外して見せた。

くっきりとした顔立ちはやはり同位体とはいえ俺の探していたあの監査官とは違うと思った。

「……この外套には認識阻害の術式がかけられている。彼に騙すつもりはなかった。本当にね。このまで強いものにする予定じゃなかったしさ。でも、それでも君は気がついた。相当に凄いことだと、俺は思うんだ」

どうしてあの監査官に心を引き寄せられたのか。答えを見せられたような気がした。そうか。「アイツじゃないのにこんなに好きになれた」んじゃない。

結局のところ「アイツしか俺は好きになれない」ってことなのだろう。そう言えば俺はあの山姥切が監査官の格好をしたのを見たことがなかった。だから別人だと思って、好きになって。


「君は、逃げたいのかな。責めている訳じゃないんだ。だけど聞いておかなくちゃいけないから。」


よくわからないままに俺は眉を潜める。

「…あいつから?それは違う。ただ、そうしないと、俺は。」

ぎゅう、と握り締めた拳に力が入る。そうしないと、俺はあいつに、噛み付いて、しまうから。

「君は、随分とおぼこい刀のようだね」

「はぁっ!?」

バッと顔を上げるとクスクスとその監査官は楽しげにする。

「君、勘違いしているようだから教えてあげよう。君が抱えているのは決して暴力衝動ではないよ。勘違いをしている。君はね、決して思いを募らせて、俺を傷つけたりしない」

「は、ぁ!?」

喉に詰まるような声が出た。いや、なんで、それを。誰にも言わなかった衝動を!よりにもよって同位体のお前が!


「そんなの、お前にはわからねぇ、にゃ!」

「いいや、わかるよ。だって俺は君のことをよく知ってるからね。いや、君自身ではないか」

「お前にはわかんねぇよ!俺はいつだって、あいつに噛み付きたいって思ってたんだ、にゃ」

「君のそれはね噛み付きたいんじゃない。キスをしたいだけなんだよ。」

「にゃぁぁぁあっ!?!?!?にゃっ!?!?にゃあ????」

かぁぁぁぁっと体温が上がる。思わず立ち上がってしまったくらいに衝撃だ。きす?キスって言ったかこいつ!!キス!!!?!

「うるさいよ、座りなさい」

「にゃあ……」

とにかく落ち着くために座って水を飲む。

「頭がパンクしてないかな?」

「してるにゃ」

「はははっ、君やっぱり面白いな」

「う、うるせぇーにゃ!つーか、きすって、きすっておまえ、これがそんな」

「可愛いものじゃないって?いいや可愛いものだよ?君のその衝動はね。俺を噛み砕きたいんじゃない。俺にキスしたいだけだ。君がわかるまで何度だって言うさ」

「は、いや、おまえ、おまえではないにゃ。おまえだけど」

「ふはっ、そうだね?…君もさぁ、いじけてないでちゃんと言わないとね。他の子を味見されたって文句言えないよ」

「にゃっ!?なんの話だよ」

「こっちの話。さ、俺はもう行くけど、君はもう少し自分の思いに向き合ってよおーく考えることだね。子猫くん」

「にゃっ、だれが!子猫だ!にゃぁっ!!」

「そんなに怒ったって、可愛いだけだよ?」

楽しげに笑うとその監査官はさっさと茶屋を出てしまった。あんのやろう。俺が立ち上がって追いかけようとすると、がたん、と大きな音がして誰かがグラスを落としたようだった。思わず音に反応してそちらを向く。

「あ」

そこにはそれはもう赤い顔をして、動揺した刀がいた。俺が噛み付きたくて仕方ない山姥切長義が。

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六、抹茶餡蜜パフェDX白玉増量
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「まずい長谷部目があったぞ」

「そうか。俺は帰る」

「長谷部!??俺を見捨てるのか!?」

「あぁ。見捨てる。」

「おい冗談だろ!」

「何せ俺は本丸の調和を任されてるんだからなぁ?お前たちは仲直りするまでうちの敷居を跨げると思うなよ。帰ってくるとき仲良く手を繋いでなかったら入れないと思え」

すたすたと茶屋を出ていく長谷部を見つめながら俺たちは唖然としていた。

凍りついた空気。真っ赤に茹で上がった顔で目が合う猫殺しくんと俺。

「抹茶餡蜜パフェDXのお客様〜?」

そして運ばれてくるクソでかいパフェ。俺たちはとにかく席につき、パフェを食べるしかなくなった。

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4人席なのに隣に座るのはなぜってパフェが食べにくいからだ。それいがいに理由はない。ないから。

あむ。一口進むごとに気まずさが増す。間接に言えば俺は今好きな相手が「猫殺しくんはキスしたいんだね〜!」と自覚させられる場面を丸々聞いてしまった訳だ。

嘘だろ。キスしたいの?俺に?全然気がつかなかった。え?君俺のことそんな目で見てたの?あれがそんな目だったの?

監査官に懐くみたいにフワフワしてなかったじゃないか。え、あ、其れっつまりはもう「恋」打ち抜いて「捕食」…?

「あの監査官おまえだったのかよ」

「うん。」

「そうかよ、にゃ」

「ごめんね?」

「…いい。きにすんな」

猫殺しくんは怒ってはいなかった。けれどもそれ以上なにも言わなかった。

かちゃ、とパフェを口に運ぶだけの時間が過ぎてゆく。


ついに無言に耐えかねた俺は腹を括る。

「白玉食べる?」

スプーンにすくったそれを差し出すと猫殺しくんの目が激しく泳ぐ。ばっちゃばちゃに泳ぐ。

「好きじゃなかった?」

「好きだにゃ」

好き!?!?!好きなのか!??!?白玉が!!うんそう!!白玉がね!!白玉が好きなんだね!!
プルプルと震える手で猫殺しくんに白玉を差し出す。あっこれあーんじゃない??猫殺しくんの顔を見るとめちゃくちゃに赤い。無防備にあーんしている。

間接キス…



キス!?!?!?


「俺のことも食べるつもりなんだ…白玉みたいに…」

「げほっ、がはっ、にゃっやべ、喉に詰まっ、死ぬ」

「猫殺しくん!?!大丈夫!?!?人工呼吸する!?」

「にゃあ!?!?!?」

なんとか白玉を飲み込んだ猫殺しくんがお前そんなことだれにでも言うなよと涙目で睨んでくる。

「君にしか言わないだろこんなの」

「おまえ…おまえなぁ」

「ねぇ、きみ、俺に噛み付きたいの?キスしたいの?結局どっちなの」

「っは、そこも聞いてたの、か、おまえ」

今しか言えないと思ったから俺は正直に言葉にした。

「俺は、ずっと、君にキスがしたかった」

「にゃ、おまえわかりにくい」

「君に言われたくないけど」

「で、でもいましたら、抹茶味になっちまう…」

「なに、君初めてはレモン味だと思ってるタイプ?」

きょと、と言う顔をしてこちらを見る。あ、本気でそう思ってたの?それ。


「本当かどうか、確かめてみようぜ、にゃ」

下手くそだけどそれがいい。だって可愛くて仕方ない。あぁ、わかってたよ。俺は君には勝てやしないって。だから責任くらいちゃんと取ってくれ。

真っ赤に染まった顔で猫殺しくんは俺の顎をすくって、ぎゅうっと目を瞑った。俺はそうしないのかって?なんで目を瞑るんだもったいない。

むぐ、ぶつかった唇はやっぱりお互い抹茶味だった。

「ねぇ、俺たち、つきあおうか」

そう言うと君は俺が言おうとしたのに!と馬鹿みたいに抱きしめてくれた。

「なぁ、手、繋いで帰ろうぜ、にゃ」

そうして、かっこつかない俺たちの恋が始まる。
2024/10/13 01:40:46

エラーメッセージ158


#にゃんちょぎSS  #審神者緊急連絡所 2 #刀剣乱舞SS

政府には審神者緊急連絡所という部署がある。此処には多数の「山姥切長義」が政府の役人の仕事を補佐し、本丸に配属される日までを過ごしていた。例に漏れず俺もそのうちの1人である。

政府の一区画に割り当てられたその場所は他の刀剣であっても容易には近づくことの許されない特別区画だが、仕事内容は電話番のようなものだ。机の上にあるのはモニターと、小さな端末、そしてペンに貢ぎ物の菓子類程度のもので整頓されている。

鳴り響く電子音が聞こえて目の前にあった電話を取った。

「こちら政府所属山姥切長義丙167個体。要件をどうぞ」

「こ、こんにちは」

ぼそぼそと小さな声がきこてくる声紋にかけると謙信景光だとわかった。

「どうかしたのかな?」

「あめ、がふって、そとがぴかぴかしてる、んだぞ。うっ、ううっ、これ、だいじょうぶ、なのか?」

そういえば電話口がやけにうるさい。

「………あぁ、雷だね。今どこにいるのかな」

「そとがみえるろうかだ」

「そう。うんうん、みんな建物の中にいるなら大丈夫だよ。」

「ほんとうに?」

「もちろん。雷だって平気だよ。怖いかな」

「こわくないぞ、がまんできる」

どうやら納得してくれたらしい。

「君はどうして連絡を?ほかの刀は?」

「このまえ、できたばかりだから、すくない。あるじはねてるんだ。」

「そう。本丸番号ってわかるかな?」

「うん、もちろんだ。じゃあ言うぞーーー」

ガチャと電話が切れる。はぁ、とため息をついて仮面をつける。隣にいた甲159がどこに行くんだと声をあげた。

「何、ちょっとした確認だよ」

本丸番号を書いた紙を持って役人の元へと向かった。この分であれば簡単に許可は取れるだろう。
____________

転送された場所は少し整備が行き届いていない、まさにできて間も無くと言った本丸だった。外の天気は荒れて雨と雷が聞こえてくる。

「審神者が落ち着くまでは雨の景趣まではあるが雷が鳴るはずはない。本丸内の天気はコントロールされているはずだ。新規の本丸は特に」

コンコン、玄関をノックして開けてみる。あまりにも人の気配が少ない。いや刀か。

「謙信…?」

「かんさかんさん?」

目を赤く腫らした彼が驚いてこちらを見た。廊下を走ってくる。雨に濡れた俺をみてこっちだと手を引いた。

「たおる、たおる、ええっと」

「謙信……。主と話があるのだけれどね」

「主、は、ねている」

「ねているんだ」
 
ふるふると首を振る。部屋に案内され、扉を開ける。ぐっすりと眠っている審神者の少年と近くに座っている初期刀がいた。

「………こ、れは」

「……あぁ、遅かったね。もう少し早くくると思ってたよ」

「歌仙兼定、説明してくれないか。」

歌仙は正座をし直すと俺に向き直る。

「主人は霊力が不足していてね、今は刀を顕現できそうもない。少し眠っているだけだよ。だからここにいるのは初期刀の僕と初鍛刀の謙信だけだ。」

審神者に目を移すとたしかに顔色が優れない。いやだが、それだけなのか。

「そうか。……少し寝て休めば回復することもある。今日はこちらに世話になっても良いかな」

「あぁ、構わないけれど?何もないよ。本当に昨日できたばかりでね」

「へぇ。綺麗な本丸だものね」

「そうだろう?主は本丸の建物は引き継ぎだと言っていたけれどそうは見えないよね」

歌仙はそう言うと会いていた客間に通してくれた。

______

夜。轟々と風が吹き雨がざあざあと降っていた。依然として雷はうるさい。

本丸の庭に出るとひときわ大きな池が見える。雨を気にせずに進んで行くとなんとなくいやな空気がして顔を歪めた。

「初期の本丸にはなかなか厳しいね。身体が慣れるまでは周りに気を配る前に主へ配慮するのは当然のあり方だ。」

ぴち、と鯉が跳ねる。水面が揺れた。

「そう言う本丸を嘲笑いながら潰すのはさぞ楽しいだろうね。」

ざく、池に刀を差し込んだいやな霊力が流れ込むのがわかる。思ったよりも厄介なものらしい。

「鯉に呪具を仕込んでおくとはなかなか趣味の悪いことをするね。」

はらはら、と解けるように消えるその魚に似た偽物に眉間にしわを寄せた。雨は少しずつ止んで行く。

「さて。こんなものかな」

池を後にすると外套を脱いでかけておく。本丸へと戻り客間へ向かう途中謙信が「ねむれないのか!ほっとみるくつくれるぞ!」と言って作ってくれたのでありがたくそれをもらうことにした。

「おいしいね」

「ふふ」

謙信は穏やかに微笑んだ。
____________
その本丸は呪具が使用され、解体された経歴を持っていた。完全と思われた浄化もまさか生物に仕込まれてるとは思わなかったなんて言い訳も経つわけもないがとにかく謝罪。審神者は回復して無事鍛刀ができたと聞く。ホッと一息ついて自分のデスクに戻る。

「お、落ち着いたとこ悪いけれど君、呼び出しのようだよ」

同位体にそう告げられてため息をつく。俺は外套をひったくって部屋を後にした。

________
呼び出されたその場所はやけに静かだった。転送にも使われる部屋だったし。仕方ないのかもしれない。たくさん並んだその認識阻害の布が明らかにこの部屋が通常使われているわけではないというか半ば物置なことを語っていた。

「少し先だが。罪人の護送だ。書類を渡しておこう」


「これは?」

「ルートおよび当日の流れ極秘書類につき紙だ。セキュリティを甘さを嘆く前に強化するべきだが仕方ない。読み終わったら覚えて燃やしてくれ」

「えらく原始的なんだね」

「結局のところそれが1番確実という話にすぎない。」

「次は紙でないことを祈りたいものだが。」

「さてね。頼んだよ」

役人にそう言われてフードをより深くかぶる。大量にある資料をまとめて持った。今度ある護送についてのルート確認と任命の書類だ。役人から受け取ったは良いものの流石に多い。

「っと」

人が多いこの政府の廊下でぶつかってしまった。ひらひらと落ちる紙を相手は拾ってくれた。

「わりぃ、ぼうっとしてた」

さっと、紙を渡すとパリパリと頭をかいてなぁ、受付ってどっちだ?と聞かれる。目があって少し胸が締め付けられた。南泉一文字だ。初めて見たわけじゃないがこんなに近くで見たのことはなかった。

「おい、どうかしたか?」

そうだったこの外套もマスクも認識阻害の術式が組み込まれてるんだった。流石に話せばわかるが。

スッ。と上を指差した。看板が出ている。すぐあっちだと。

「お、便利だにゃあ。ありがとにゃ、仕事頑張れよ役人さん」

ぽんっと肩を叩かれて黙り込む。とたとた走っていくのを見送った。ぼんやり立ちすくんでいる場合じゃなかった。いかないと。

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自分で入れたホットミルクはどうしてかあまり美味しくないのだけど。それはそれ。

ここ審神者緊急連絡所では山のように積まれた資料を入力してデータベース化するのも仕事の一環である。

目が疲れてきたな、と目薬をさして一息ついた。後ろの席の山姥切長義甲159がコーヒーを飲み込んでため息を吐いている。

「何か?」

「ん、いや。少し寂しいなと思ってね。ほら隣、本丸配属になってもう2月経つから」

会いた席を見つめながら彼はそう言った。

「……そうらしいね、俺は結構外に出ていたからあまり知らないけれど。そういえば前に一度インカムで話したな。ほら蜂須賀が初期刀の審神者が呪具を─」

話の途中だったが電話が鳴った。首をすくめた彼を尻目に俺は電話を取る。

「こちら政府所属山姥切長義丙167個体。要件をどうぞ」

「かっかっか!!あぁ!繋がらないかと思ってヒヤヒヤとしたぞ!」

特徴的な笑い声ですぐに判断できた。声紋を調べるまでもなくだ。

「山伏国広、か。どうかしたのか?」

「あぁ!今修行で山籠りをしているのだがな!どうもおかしな場所に迷い込んだらしく」

「…おや珍しいね。君は結構自力で帰ってくることが多いのだが。わかったよ端末番号から場所を割り出そうー」

モニターを見て山伏国広が読み上げた端末番号を入力し位置を検索する。少し時間がかかるようだった。

「いやな、拙僧だけであれば問題なく帰れるのだが。念のためと持たされた端末が幸いしたなぁ?こちらに顕現済みの刀剣男士が倒れているのだがーこの刀を一旦我が本丸に迎え入れても構わないか?…断られてもそうするつもりだ主の許可はもう取ったが念のためだな!」

手元のメモ帳に概要を書いて甲159に渡すと黙って頷いて退出した。流石に異常事態だな。

「…君たちがそうしてくれるならばこちらとしてもありがたい限りだが…大丈夫なのかその刀は…?誰なのか教えて欲しいな」

「…堀川国広だ。兄弟を捨て置けんだろう。」

地点を割り出したものの合戦場というわけでもないぽっかり開いた狭間のような、としか言えない場所だった。逸れたのか?それとも。

「…彼は…主のいる刀かな?どう思う?」

「……うむ、恐らくは既に縁を結んであると思われるな。しかし、それにしては妙であるな…?この傷は昨日今日のものではないだろう。衰弱具合も酷い」

直ぐに堀川国広で捜索願を検索したが該当しそうな届けが引っかかることはなかった。

「……すぐに君の本丸に、浄化部の役人を派遣する。どうなるかわからないけれど、本当に良いのか?」

「それはどういう意味であろうか?」

少し硬くなった声色に言葉を続ける。何も決めつけたいわけじゃない。いつだって最悪の可能性が起こりうる。その時に想像していませんでしたじゃ遅い。

「…傷つけられた刀というのは、周りが見えなくなる。己の矜持を、尊厳を奪われた状態であればーその刀らしからぬ行動もあり得る。たとえそれが君の兄弟刀でもね。」

「………そうか。確かにそうかも知れん。だが、それでも。まだ折れていない。まだ、ここに「在る」のだ。他のことは目が覚めてからゆっくりと考えればよかろう。」  

その声は確かに、覚悟を持ったものだった。言葉の奥に、深く深く。全てを笑い飛ばせるくらいに強く。

「…了解した。では、その堀川国広のことは取り敢えず君の本丸へ連れ帰ってあげてほしい。君のことだからわかっているとは思うが、堀川国広が目覚める前に手入れを終えておく必要がある。審神者殿を側に置くのはやめておいたほうがいい。君か、もしくは縁の深い刀を側においておくべきだろうね」

「あぁ、そのつもりだ。……これもまた修行か」

「……すまないな。負担をかけてしまうことになるが、あらゆる可能性を検討しておいてくれ」

「皆まで言うな、決めたことだ。今更手を引けるほど、薄情ではない。この目で兄弟を見つけた時、既に覚悟してある。何を言われようとも、咎める真似はしない。それは拙僧の役目ではないのだろう?」

「…あぁ。今君の本丸の方にも浄化部が到着した。君の方はどうだろうか?」

「カカッ!今しがた本丸が見えてきたところである。」

「では君たちのことはそちらの役人に任せることとしよう。…何かあればまた電話をしてくれ。ここならば話を聞くこともできるだろう。君には辛い役目を任せてしまうかも知れないけれど。」

「……あぁ。日々これも修行である。心配めされるな監査官殿。…何を聞いても、何も答えられなくとも、この刀が我が兄弟であることに変わりなどない。それだけで充分であろう?」

ガチャリと電話が切れた。

目を瞑って深く息を吐いた。

「兄弟、か」

それは片割れとは似て非なる繋がりだろうか。

「俺にはまだわからない」
_________________________

阿津賀志山近くの時空の歪みから刀剣男士が保護された。その話は政府でも話題に上がることとなる。その場所にどうやってたどり着いたのか。それに関して、見つけた刀は「山籠り」と答えた。そのせいでほぼ誰か特定されたわけだが、それはさしたる問題ではない(こっちがオブラートに包んだ意味とは?)。

現在政府によりその区画は計測され立ち入ると緊急通信により知らせることができるようになったので収穫と言えるか。

「しかし、彼は」

審神者緊急連絡所に来た役人は資料を抱えていた。手続きのためのものだと言うそれはかなりの量だ。

「件の刀ですか。彼は…政府の方に。出来るだけ役人の関わりがない部署に仮配属となりました。本人が何もしないのは気が紛れなくてかえって辛いと」

「…堀川国広の主は?」

「…えぇ、検挙できました。どうも別件ですでに捕まっていたようですね。追加の罪状は刀への不当な扱い、及び破壊届けの虚偽提出。まだまだ余罪有りでしょう、現在もまだ調べが続いていますから…全ての罪を洗い出すべく努力しておりますよ。」

「刀はどうなっているのかな。何か動きは?」

「…彼の刀の意思はまだ出ていない方もいるようです」

「……本霊へ還るか、新たな主を見初めるか。それとも政府へ所属するか…しかし、政府に来てもその刀の傷は癒えぬうちは、無理をさせるべきではないはずだよ。堀川国広のこともそうだけれど。」

「山伏殿の勧めだそうですよ」

「…彼が?」

「彼らがどのような会話をしたのか、我々政府は関知できませんが、それでも思うところがあったのでしょう。」

「…そうだね。でも決して彼を軽んじたり、弱いと思って庇護しているわけじゃないんだよ。…どんな刀でも、それこそ見た目こそ大人びた太刀であってもさ、傷ついたまま、顕現し続けるのは苦痛だろう。…心の痛みを和らげるのは難しいことだよね。手入れしたって治らない。」

「君も何かあるんですか?」

「え?」

「あ、いえ、手入れしても消えない痛みがあるのかと…。すみません、出すぎた真似をしました。簡単に聞いて良い内容ではないのに」

役人は慌てて取り繕った。そんなつもりはなかったし、そう見えるとは意外だ。

「そう見えるのなら君は繊細なのかもね?あぁ、仕事はいいのかな?その書類は重要なのでは?そろそろ上が怒鳴り込んでくる時間じゃない?」

「あ!ほんとですね!では!今度またお菓子持ってきます。何がいいですか?」

「あまりを気を使わないでくれよ…そうだなぁ、あれは美味しかったね。まかろん、だったかな。」

「はい!!!たくさん買い込んできます」

「ほどほどにね」

ひらひらと手を振ると役人は走っていった。

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政府にあるいくつかの転送部屋のうちの一つにつく。山姥切長義甲159は少し疲れていた。この部屋だってたまには掃除しないと埃がすごくていけない。息抜きを兼ねている。毎日デスクワークも飽きた。

ドアを開けようとすると、ガタッと音がした。慌てて開くと転送されてきたのか部屋の中心でとぼけた顔をした南泉一文字がいた。

「誤解のないようにいうが、なんか壁押したらグルンって回って転送されちまっただけだぞ役人。」

はぁ、ため息をついて仕方ないのでもう一度転送ボタンを押す。

「は??おい待て俺迷って、ちょっ。どこにとばすんだ、にゃあ!!!」

悪いけど迷子センターだよ子猫さん。君に構ってられるほど暇じゃないんだ。

にゃあ〜〜!!という叫び声とともに彼は迷子センターに送られた。ちなみにそこには先日の堀川国広がいるわけだが。きっとうまくやってくれることだろう。

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山姥切長義丙158は比較的いろんな部署へ顔を出すと言うか単に使いパシリのような気がする。今日も今日とて連絡事項を持ってこの政府の迷子センターに来ていた。わかりやすさが何よりもまさるからこのネーミングなだけであって普通に太郎太刀が迷いましたとここへ来ることもある。

「あ!ええと、待ってくださいね〜!いまおもいだすので、丙さん!ですか?」

「正解だよ。堀川国広。調子はどうかな?」

「はい!!いろんな刀がきて面白いです、あっ、そういえばさっきも」

待合室は簡素ではあるが雑誌もいくつか置いてある、決して積み木などがあるマットが敷かれたような空間ではない。審神者はみんな口を揃えてそうだと思ってたから驚いたと言うが。

「にゃぁぁあっ!?!?!」

ばふ、とどこからか待合室に直接転送されてきた刀が一振り。堀川国広は驚いて大丈夫ですかと駆け寄った。

「いてて、あのヤロォ……めちゃくちゃしやがるにゃ」

フードを深くかぶって少し距離を置く対応は堀川国広任せよう。一応他の刀剣やらがいる前では体裁を整えておきたいし。何よりこの南泉一文字が?山姥切長義だと気付いていなかったら面倒だし。

「あ、丙さん、もう行っちゃうんですか?あ、仕事がありますよね、すみません!また今度お話ししましょうね!次はお菓子もだしますから!!南泉さん立てますか?」

ぺこ、た頭を下げて部屋を出た。南泉一文字はよく迷子になるのだろうか。そんなことを考えながら審神者緊急連絡所へと足を進めた。

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今日も今日とてこの部署はやかましい。後ろの席の奴はどこかにサボりに消えていた。黙って鳴り響く電話を取る。

「こちら政府所属山姥切長義丙167個体。要件をどうぞ」

「おう。あんたが話を聞いてくれるんだな?」

モニターの声紋から割り出したそれを見つめながらパラパラと資料をめくる。

「同田貫か。どうかしたのかな」

「…あぁ。いやぁ、その。なんだ。うちの本丸はできてそう経ってねぇんだがな。…色々と初期刀に世話んなってるって、短刀も言うんだがな」

そこで彼は少し言葉に詰まった。柄でもないということは本人が1番よくわかっているらしい。

「…ふむ。何かお礼がしたいと?」

「前は万屋で和菓子を買って渡したんだがよ。アイツ短刀たちに分けちまって…。いや、それでも構わねぇんだが…あぁ、俺ってこういうこと向いてねぇな…いまいち何を渡せば喜ばれるかなんてわかんねーよ。」

「そうか…珍しいね君がそういうふうなことに気を回すのはー」

「おう、…うちにはまだ太刀以上がいねぇからな。…そろそろ来そうなもんだが…」

はぁ、とよほど参っているらしくため息をついた。

「本人は気にしちゃいねーがよ、そのままってのも腹に据えかねる。…俺が手伝うとかえって雑だからって。厨での手伝いも決まった刀に任せきりだ。いや悪いとは思ってるんだがな?」

物を買って渡そうにも彼の目利きに叶うものはなかなかないし、そもそもそんな余裕もないのだと。

「ご飯か。君は食事の感想を言ったことがあるか?」

「あ?…いただきますとご馳走さまはちゃんと言うぞ?」

「そうじゃないよ。それは最低限さ。アレが美味しかったとかさ。」

「いや、美味いなとは思ってるが…いちいち言わなきゃなんねーのか?」

心底不思議そうに言われてまぁ確かになとも思う。俺もこの間まで携帯食ばかり食べていて見かねた職員や刀に食堂へ行けと言われたくらいだったし。

「そうだね。君が言わなければ何を思ってるかは伝わらないものさ。」

「おぉ、それもそうか?」

「…君が柄じゃないと思うのなら、あぁ!そうだね。君の部屋に何かーメッセージカードとかは…ないかな?」

「め?なんて?」

そういうものには疎いのだ。仕方ない誰にでも興味あるものとないものがあるからね。

「じゃあ半紙は?紙くらいあるだろう?あ!切れ端じゃダメだよ。綺麗に手のひらくらいのサイズに切ってね。」

「お、おう。ちょうどいいのがあったぜ」

ガサガサと物音が聞こえる(というかこれ近侍室とかからかけてるのか??すぐに見つかってしまわないだろうか)そう聞くと談話室からかけていてこの時間は誰も来ないと答えが返ってきた。

「じゃあ、それにたとえば今日の夕餉で美味しかったものがあればそれを書けばいい。肉じゃがが美味しかった、とか、いつもありがとうとかね。」

「…柄じゃねーなぁ」

う〜〜ん、と唸り声をあげながら何かを書く音がする。意外と悩んでいるらしかった。

「まぁまぁ。いいからいいから。厨も人のいない時間くらいあるだろう?深夜に冷蔵庫にでも貼り付けておけば自ずとそれを見るのは朝一番に冷蔵庫を開ける刀になる。」

「…厨担当のやつか。なるほどな」

「 そういうことだよ。ほんとは直接言うのがいいけどね。なかなか難しいこともあるだろうし」

「…おう。ありがとな。」

「いいや。気にすることないよ。では悩みは解決できそうかな」

「あぁ。助かった。短刀にも話してみる。」

「ははっ、それじゃあ冷蔵庫が紙でいっぱいになってしまいそうだね」

「ふっ、あいつ多分驚くだろうなぁ」

少し嬉しそうにそう言ってその後電話が切れた。
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堀川国広の一件から一月半ほど過ぎた頃のことだった。
その日は書類を出さなければならず、いつものようにフードを深くかぶって政府の廊下を歩いていた。政府役人は(特に本丸に向かう際は)顔を隠しているのだが、ことに「俺」は素顔を晒して歩くことを推奨されていない。

ポケットに手を突っ込むと個人端末に連絡が来ているのが見えて応答した。上司からのようだった。

「こちら政府所属山姥切長義丙167個体。要件をどうぞ」
 
「君の現在地は把握している演練場に向かってくれないか?俺は別件で動けなくなってな」

「別件?まぁこれから書類を出すだけだったし、構わないが。今日は抜き打ち監査…おい、これより大事な用があるのか?」

「あ〜!!個人的な理由だ。君は頼まれごとを途中で投げ出せるか?」

仕方ないだろうと言われて、開き直られる。その思考はよく理解できた。ここで何を言ってもどうせ決定事項だろうし大人しく従うことにした。

「それはできないが…もう少し早く言うとかできないのかな」

「悪いな。では健闘を祈る」

「了解」

周りに人がいないのを確認してから端末の転送ボタンを押して演練場に向かった。

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演練場近くの転送場所は秘匿されている。そこは普段は使われていない会議室のような場所で、政府施設にはこう言ったものが点々と存在している。その部屋は殺風景でほとんど何もない。別段用事もないのですぐに部屋を出て、演練場が見渡せる二階部分に向かった。ここは基本的に立入禁止区域だ。

「あー!今日は負けてしまったね」

「主〜!誉とったよ!」

騒がしい演練場を遠くから見つめる。……俺には違う世界のように見えた。大きな体育館か、道場みたいだよね、と役人は言っていたが俺はどちらも知識でしか知らないからあまりピンと来ない。

端末で本丸番号一覧と演練参加部隊を確認する。六部隊きっちりと参加していた。単騎で来る挑戦者だとか、編成し忘れた歯抜け部隊もなく、今回はどうも真面目なものが多い。

「……特筆すべき事象はないか。しかし多種多様なことだな。…レベリング部隊のまま来てる本丸があるが…まぁ許容範囲か?」

打刀中心に若干レベルが低く新顔が多い部隊で、ここ最近来た六振りを寄せ集めたような部隊だ…俺は居ないようだったが。端末に結果を報告しようとすると、別個体から連絡があった。

「こちら政府所属山姥切長義丙167個体。要件をどうぞ」

「刀剣が一振り失踪した。すぐに捜索に当たってもらいたい。演練場で見たのが最後だと連絡が入っている」

「…演練場から?いや、俺が来てから誰も出ていないはずだがな」

ついさっきまで見ていたしこの演練場の出入り口はひとつだけなのだし。

「お前が来る前かも知れない。」

そう言われて仕舞えば仕方ないのだが。下を見ると確かに何振りかが忙しなく動き回って人を探しているように見えた。

「確かにな…それで誰が?」

「南泉一文字だそうだ。」

「またか?!迷子の子猫かな?ははっ可愛いことだね。」

「では健闘を祈る」

「了解」

通話を終了して地図を起動する。迷いそうなところにあたりをつけて階段を降りる事にした。

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演練場から出て政府施設を見回るものの南泉一文字などそれなりにいる。単独行動してる奴を探せばいいのはわかるがそれにしても面倒だ。

「そこの南泉一文字、君の本丸番号は?」

1人でいた南泉一文字の肩を叩いてそう聞くとにゃ!と驚かれる。まさに猫。

「なんだにゃあ藪から棒に」

「…質問に答えてくれないか俺は急いでるんだよ。迷子の子猫探しにね」

「猫じゃねぇ…!本丸番号なら24332にゃ。あんたは監査部のやつか?」

ムスっとしたものの、質問には答えるあたり彼らしいことだ。

「まぁそんなところだよ。協力感謝する。ふらついてる子猫を見たら、捕まえて演練場まで連れて行ってくれると助かる。おおかた高いところに登りすぎた猫みたいに戻れないだけだろうし」

「いちいちたとえるにゃ」

ひらひら手を振る南泉一文字の後ろからひょこ、と誰かが現れる。…というか、俺の同位体だった。山姥切長義だ。

「…?南泉…?どうかしたのか…?……おや、監査官くんとお話ししていたのか。へぇ?君も節操がないなぁ?」

後ろに手を組んでニヤニヤと笑いながら南泉一文字の顔を覗き込むと南泉一文字の方は山姥切長義の鼻をつまんでいた。

「思ってもないこと言うにゃ。たく。」

「やめないか!もう!」

ナチュラルにイチャイチャとされてどうしろというのか。もう俺は行ってもいいよな。やってられるか。

「悪いが俺はこれで」

そうやって去ろうとすると南泉一文字は最後に
「一応俺たちの方でも探してみる、にゃあ」
と告げて山姥切長義の手を引いて去っていった。

「しかし、本当にいるんだな。」

審神者緊急連絡所にはよく付き合っているとか、付き合ってないのかアレで?とか言われるが実際そうであろう事例を見たのは初めてだ。

そんなことを考えながらあたりを見回す。どうも見つからない。一度演練場に戻ってみるか?とそこから一番近くの転送地点を端末で調べて向かう事にした。


「こちらだな。相変わらず入り組んでいるなここも。」

政府の護送用ポイント近くにたどり着く。要は緊急監査の招集後や査問後によく使う地点だった。防犯上の理由からすぐには遠くに逃げ出せないように迷路のようになっている。扉をあけて、転送地点の部屋に入ろうとするとシャランと小さな鈴の音が聞こえた。

「……。まさかなぁ。」

念のため確認するかとその音の方に近づいてみると、キョロキョロとあたりを見回す人影が見えた。南泉一文字だ。

「迷子か?やっと見つけたよまったく」

俺がそう言うとその南泉一文字は少し難しい顔をしてすぐにパッとこちらに近づいてくる。どうやら山姥切長義だとわかったようだった。

「助かった、貸し出しの連絡端末で本丸に連絡を入れようと思ってたんだがすっかり迷っちまって、にゃあ」

「…連絡端末は反対側だよ。君方向音痴だなぁ。一応確認するが、演練場から迷い出たんだね?」

「あぁ、そうにゃ。」

こくこくうなずく南泉一文字の髪がぴょこ、と揺れるのを見ながら端末を起動した。

「こちら政府所属山姥切長義丙167個体。対象を発見した。現在地は寅ノ一。今から演練場へ連れて行く。」

俺がそういうと電話越しにため息やら、電話から離れている個体の「よかった」だの、「迷子の子猫が見つかったそうだよ」だの、同位体らしい感想が聞こえる。

「協力感謝する。そんなところまで迷い込んでいたとはね。審神者殿への連絡はこちらからしておく。後は任せたよ」

「了解」

電話を切ると南泉一文字がポケットに手を突っ込んで俺のフードに隠された顔を覗き込んだ。

「俺の前で名乗ってよかったのか?監査官?」

ニヤッと笑った顔がやけに印象に残る。おかしいな、「南泉一文字」にはなんどもあっているのに。

「そっちが忘れれば名乗ってないのと同じだろう?さて。行くぞ」

「お前がいいなら、俺は構わないがにゃあ」

そう言って気まぐれに歩き出した猫の首元を掴んで捕まえる。

「勝手に動くな。また迷子になりたいのか?」

演練場の前まで連れて行く。歩いているうちに、何振りかとすれ違うが、それほど目立っていないようで、特に問題はない。

「こっちの道か?にゃ?」

「違う!そっちは立ち入り禁止区域だ。問答無用で拘束されたいのか?」

「そんな区域あんのかよ…迷うなっていう方が無理だにゃ」

「…君なぁ、顕現してどれくらい経つんだよ。それくらいなんとか覚えてくれないか?」

俺がそう言うと南泉一文字はうーんと唸って半年もたたないくらいかにゃあと首をかしげる。そうこうしているうちにもう目的地に着いた。


「では、俺はここで。仕事があるからな。もう迷うなよ?」

「あぁ?もう着いたのか…悪いなぁ、山姥切。まぁこんどは気をつける、にゃ」

どこか上の空で話を聞かない刀だな。ちょっととぼけた個体なのかもしれない。…かわ…いやいや。なんでもない。俺はその場からさっさと去る事にした。
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今日も今日とて、審神者緊急連絡所は騒がしい。 監査官たちはてんてこ舞いだ。仮眠をとって眠っていたのだが後ろの席の甲159に叩き起こされる。眠りは深い方なので仕方ないが、もう少し優しく起こせないのか。睨み付けると電話を指さされる。皆出ることができなさそうだったので俺が出る事にした。

「ンンッ、ああ。」

一応発声練習をしているとべし、と叩かれた。声がひっくり返ったらどうするんだよ。

「こちら政府所属山姥切長義丙167個体。要件をどうぞ」

「どうもこんにちは。」

静かな話し方にちらりと端末を見る。声紋は一期一振を示した。

「どうかしたのかな」

「いえ、ここは話を聞いてくれるところと聞きましたので、電話をと思いまして…違いましたか?」

「いいや、違わない」

珍しい刀が掛けてきたこの時点でかなり嫌な予感しないのだが。通報か?

「……大阪城開催していますよね、今。うちもかなり奥まで潜っているのですが」

「あぁ。」

小判はもちろんだが粟田口の刀との邂逅ができるとあって多くの審神者が参加しているものなので特段問題はないように思うが。

「もう直ぐおわってしまうのですよね?この祭も。」

「あぁ」

本当に苦しそうな声を出されてどうしたらいいかわからない。これは、大丈夫なのか?大阪城に潜りすぎて正気を失ってないか?何時間潜ればそんな腹の底から唸るような声が出るんだ。君本当に一期一振なんだよな?

「毎回終わると思うたびに断腸の思いに駆られます。これは良くないことでは…?もう常設でいいと思うのです…監査官殿はどう思われますかな?」

「常設?なるほどね善処する。」

逃げるように電話をガチャ切りして溜息をつく。粟田口長兄、一期一振殿。この世にはままならないことがあるのだ。どうか許してくれ。

「みなさーん今日は一期一振さんから差し入れですよ〜うわこれめちゃくちゃロイヤルなお茶菓子!流石ですね!」

役人の声を遠くに聴きながら、ヤバイあの刀、本気だ…正気で言ってると怖くなってきた。胃袋から監査官落として陥落しようとしてるじゃないか。流石…。

「ろ、ろいやる」

隣の山姥切長義が茶菓子に手をつけてそう呟いた。顔が綻んでいる。思惑はどうあれ食べ物に罪はないので俺も口に入れた。

「…これは」

ロイヤルな味がした。なんと言う甘さだろうか。と言うかこれはなんなんだろうか。人が、刀が食べて大丈夫なのか?美味しすぎてトリップする代物だぞ。

「肥前忠広も造り方を教えて欲しいと言うくらいのぶっ飛んだ美味しさでしょう?」

「まさか手作りだと言うのか?これが??なんて恐ろしい…」

「言葉には表せないがとにかく美味しい」

「ハッピーターンの粉と同じくらいやばいから食べ過ぎると気絶するぞ」

ロイヤル茶菓子を食べながらこちらに話しかけてきたのは肥前忠広だった。

「は!?!君いつから隣に座ってたんだよ」

「役人についてきたんだよ。俺もいろいろ準備があるしな」

「あぁ特命調査の?今回は君が先に現地調査だったか」

先日、資料を渡されてその分厚さに絶句していたのは記憶に新しい。

「そうだ。こっちはこっちで大変そうだな。もう直ぐだったろ?」

「あぁ、この間一斉検挙した呪具関係の奴らか。もう直ぐだね。」

「ふうん。随分時間をかけたんだなまどろっこしい」

「色々あるんだよ、色々ね」

「そーかよ。」

めんどくさそうに頭をバリバリとかいて肥前は部屋を出て行った。

「あ、甲159の分ないじゃないか」

ちゃっかり2人分食べられた。気絶しないのか??この食いしん坊め。

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もう直ぐ護送任務があるということでここも流石に慌ただしくなっていた。丙も流石にここにはいない。もう直ぐあとに護送だし仕方ない。電子音に反応して電話を取る。

「こちら政府所属山姥切長義甲159個体。何か困りごとがあるなら聞こう」

「あ、ほんまに出た。」

明石国行か。声紋を見てそう判断する。のんびりとした調子に、ペースが崩れる。

「いやぁ、監査官さん聞いてくれはります?」

「構わないけど」

「自分見てしまったんやわ、蛍が燭台切と歌仙と3人でりんごジュース(物理)作ってるとこを」

「りんごジュース(物理)」

「今まで知らんかったんやわ、ほら自分朝起きるの遅いやん?」

いや知らないけどね。君の朝の事情なんて。

「あ、もしかして次はお前がこうなる番だよっていうことかな?」

「怖いこと言わんといてくれます?あ、そういえばだいたい寝坊した時に出てくるなぁ、いやでもあのりんごジュースものごっつ美味しいんよなぁ……」

「やっぱり次はお前がこうなる番だって事じゃないか?」

「ほんまに?めちゃくちゃ怖いな。冷蔵庫にごめんなさいってメモ貼っとこ。」

「君何しに電話かけてきたの??」
俺がそう聞くとうーん?と適当な返事をされる。

「いや暇やったから。」

「まぁ構わないけどさ」

「あぁそれと。うちの主はんが言うとったんやけど政府から預かってる刀ってかってにおらんくなるもんなん?」

「いや、そんなはずないが……!まさか居なくなったのか?先に要件を言ってくれよ。なんで世間話をした!?」

「何事にもゆとりが大事やからねぇ?政府施設で逸れたんやけど、そのうち見つかるやろし、前も一度迷子になってたんよ」

「なんだと、誰だその刀は」

「うん?南泉一文字やけど?」





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罪を犯した審神者の行く末は決して明るくはない。

【罪状、刀剣への不当な扱い。本丸譲渡時の違反行為。その他余罪有り】

その紙を読めばよくよくと許す必要のないことがわかるしかし罪は罪として、この人間を罰するべきは己ではない。

「では行こうか」

がちゃ、と手錠の音が聞こえる。後ろをついてくる罪人にかける言葉などはなにもなかった。

「こちら山姥切長義丙167個体。現在寅ノ……」

ザザッとノイズが聞こえてインカムからアラーム音がした。

「本部より緊急連絡、現在政府施設内の防犯カメラが破壊されている。これは刀剣男士か?気をつけろそちらに向かうかもしれない、進路を変更するべきだ」

「こちら審神者緊急連絡所、至急、引き返せ。そちらに来るぞ」

叫ぶ声が聞こえる。ノイズがひどい。誰だって?

足を止める。息を止める。後ろで人間がなんだと騒いだが無視した。コツコツ足音が聞こえる。……外套を翻しこちらを見つめて立っている姿が目に入った。

「誰にせよもう遅いよ。」

俺がインカムに向かいそういうとそいつは黙って距離を詰める。外套は霊力を抑え認識を阻害する特別性、しかし理解できた。こいつは「山姥切長義」ではない。

「何か用かな?」

声を出せばバレるとわかっているのか黙り込んで刀に手をかける。

「政府に楯突くか。それもいいだろうね。だがあまりオススメはしないな。もっとも君が玉鋼に戻りたいのなら話は別だが?」

俺の煽りを鼻で笑ってそいつは刀を抜いた。いい覚悟だ。少し遊ぼうじゃないか。何政府預かりだと戦闘がなくて体が鈍るんだよ。鈍刀と思われたくはないしね。

ガッ、と奴の刀の切っ先を抜きかけた刀で防ぐと舌打ちが聞こえる。

「顔くらい見せて欲しいね?」

この太刀筋、練度はこちらが上だがどうも嫌なところをついてくる。そう、技術ではなく、どうしようもなくある隙と、手グセ。それを的確に狙い腕に一発もらってしまう。しかしそれは浅い傷で、相手を見るとむしろ切りつけたことに対する動揺が見えた。

「お前ッー!!!」

俺がそう叫ぶと、やはり彼は動揺していたのかすっ、と引きかけた。その隙を逃さずに顔を横に切りつける。鼻をかすったかはらりと仮面が落ち、その瞳が光の下に晒される。勢いよく引いたのと風圧でフードが脱げて、その金髪がふわりと揺れる。

「お前には、会いたくなかった」

脱力したように刀を持っていた、瞳だけがこちらを向いていた。

「南泉一文字」

「山姥切ィ、どけよ俺はその人間を切らなきゃなんねぇんだよ」

ギラギラとした目が人間を見つめる。人の形をしたもの。人の形をとったもの。しかしそれは人ではない。刀、刀剣男士。

「悪いね、こっちも仕事なんだよ」

足に力を入れて一足飛び、なんで戦い辛い相手か。あぁ、そんな目で俺を見るな。そんな目で。

確かな殺意と。確かな敵意と。その奥に潜む本心に俺が気がつかないと思っているのか?

かすかに痛む腕に顔をしかめると彼が奥歯を噛み締めてさらに強く打ち込んでくる。もうやめろと言わんばかりに。

正面に構えた刀同士がぶつかり合って顔が近くでよく見えた。奥歯を噛みしめ力を込めて弾き飛ばす。すると南泉はずざざ、と勢いよく後退して手をついた。

「にゃあぁあっ!!!」

まっすぐにその刀を向けられた。その太刀筋とは裏腹に。その瞳が揺れている。

「南泉一文字」

脇腹に受けた傷。その刀を握る手がかすかに震えている。見開かれた目が俺を見た。

「山姥切、なぜ、避けなかった、お前、お前なら」

だって君こうでもしないと止まらないくせに。

「君を止めるのは俺であるべきだよ」

がん、と押し倒してマウントを取る。顔の横に俺の刀を突き刺した。だらだらと俺の脇腹からは血が流れ続ける。

「君の話が聞きたいんだよ、愚かなことだと思うか?南泉一文字。」

「きみの、罪の告白を。この俺に話せよ」

その瞳が。「殺せ」と叫ばせる理由を教えてくれないか。

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記憶が巡る。戻って行く。忌むべき始まりがそこにある。

「南泉一文字。ようこそ。」

その刀はそういうと事務的に俺へ仕事を教える。どう振る舞うかは自由だと言いながら。

「加州清光、ずいぶん静かだにゃ?刀は少ないのか?」

「?静か?いや、さっきも短刀が騒いでいたけど」

顕現してからよく認識のズレがある。理由は分からなかった。それが少し続いておかしいことに気がついた。理由がわからない。

「頭がいたい」

日々は平穏に過ぎて行く。ご飯を食べて出陣して眠って。それを繰り返して行く。他の刀とは当たり障りのない会話はした。けれども。

何かこの身体が異常を訴える。その理由が知りたくて、近侍室で刀の資料を読み漁った。主はあまりここには来ない。自室で何かしているらしい。

次のを読もうと取った資料の隙間からひらり、と落ちてきた紙を見た。

「ーーーーー引き継ぎ書類」

この本丸は引き継ぎされたものだ。俺以外の刀は全てそうだったのだと、その紙は語っていた。

誰も言わなかったのは何故なのかわからない。ただ、がんがんと、殴りつけられるように頭がいたい。なんとなくこれを見たことを知られてはいけない気がして、部屋を出て廊下を進む。けれど痛みは増すばかりだ。とうとう耐えられなくなって、廊下の壁に片手をついた。

「なっ!南泉?大丈夫!?」

加州が声をかけてきてその後ろに長谷部もいた。長谷部は薬研に薬をもらいにいくぞと言い、加州も静かにそれに頷いて俺に肩を貸した。

「くすり?そんなおおごとか、にゃ」

「いいから来い。」

手を引かれてなんとなくついていく。頭がいたい。何か言っている?ふたりが廊下を進んで主の部屋の横を通り過ぎる。中からは声がした。やけにクリアに耳に入ってくるのは何故なんだ。

【なんだ。政府から監査?ここに?それはまずいなぁ?呪具が露呈したら君も困るだろ?なんともならないだと?……監査後本丸へ配属の予定?面倒な】

【いっそ、折ってしまうか】

がんがんと頭が痛くなる。加州は俺を支えている手を握りしめていた。長谷部の方を見るとひどい顔をして目を瞑っていた。

「行くぞ」

「ふたり、とも」

何も言わなかった。気がつくと薬研の部屋についていて薬研は長谷部と俺を見るとゆるく微笑んだ。

「…………薬か」

「傷口は塞げるがこっちまではどうにもならない。広がるばかりでいけねぇよ。さてそろそろ潮時か。加州に長谷部の旦那。」

とんと、胸をつかれた。

「病を治す。なに、膿んだところごと切り落とすだけだ」

長谷部の言葉のその意味を正しく理解した。この本丸の異変を正しく。そして、来るであろう新しい刀が折られる前に彼らは全てを終わらせようとしている。

「うん、そうだね。俺たちずいぶん待ったもの」

彼らは引き継がれた刀。呪具によって何か細工をされ身動きができないのだろう。俺はまだマシな筈だ。いいやこれは、これだけは。

「俺に考えがある任せてて欲しい」

俺が成さねばならないと。そう思った。

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審神者は監査を無事終えた。俺は選抜されず本丸で待っていた。その刀をなんとかして返す必要があった。この本丸に配属させるわけにはいかなかった。

主は怠惰な性分で顕現できるよう力を込めた式神を置いて後は任せたとすでに言われている。必要なのは証言だけだ。端末に文章を打ち込んで政府への転送用の場所へとその刀を運んだ。

「山姥切長義」

まさかお前とは思わなかったが。

【該当の刀は不具合があり顕現後すぐに刀に戻した。代わりの刀を用意して欲しい。ただしこの刀のバグの原因がわかるまで代わりは受け入れない。】

けれどそれ以上の答えが俺には思いつかない。この本丸にだけは来させるわけにいかない。誰であろうとも折らせるわけにはいかない。それがどんな方法であったとしても。

それからすぐのことだった。別の本丸で乗っ取りを仕掛けた見習いが捕まり、余罪としてうちの本丸が差し押さえられた。即座に監査が入り呪具が破壊されると刀たちは即座にその男を主とは認められないと糾弾した。彼らには言語統制が、俺には認識阻害の呪詛が組み込まれていた。

「元の主は無事らしい。政府で仕事をしているって。審神者に復帰できそうだよ。新しく本丸も用意してもらえるって」

ぼたぼた泣きながら、加州が言った。

「ねぇ、南泉、一緒に来てよ。」

俺はその言葉に首を振った。許せなかった。誰よりも自分が。

政府預かりになると、少ししてから別の本丸へ引き継ぎのために仮配属された。それだってただの時間稼ぎにしかならない。

はじめのうちは政府施設をうろついていたが(それこそ変な部屋に入って転送されたり)それにも飽きてきたのは事実。しかしどこかに譲渡されるつもりもなかった。実際俺の扱いは難しいようだった。

政府の役人は「ここにと決めて欲しいわけではないよ。ただ、いろんな審神者がいるとわかって欲しい。君が辛いなら強制はしない。好きに過ごして欲しいんだ。」そう語った。その割にはきっちりと刀がまだ少なく戦力に不安がある本丸で、つまりそれは戦力補強の意味が強いということがうかがい知れた。

そこの審神者はなんというか少し気の抜けた人だったが無害そうではあった。初期刀らしい歌仙が「いい人そうなのが彼の取り柄だよ」と言っていた。

平和な本丸の生活だ。しかし受け入れられていいはずもない。俺は、山姥切へしたこと。何も知らずにあの本丸で過ごして、彼らの苦痛を見過ごしていたこと。その事実は変わらない。

審神者に暇だろうからと頼まれた刀装作りを終えて審神者に渡そうとすると、二つあげるね。と投石兵を渡された。

「念のためだよ。無いよりあったほうがいいでしょ?」

「…それはそうだがにゃ」

少し考えているとうーんと唸る。何かと思って顔を見つめるとへらりと笑われる。警戒心のかけられも無い。

「話したいことあるなら聞くけど?」

審神者は俺にそう言った。しかし答えられなかった。話したいこと?わからない。なにもわかりたくないのかもしれないそれでもその罪だけがここにある。

「あ!気分転換にさ演練でもどう?見学なら許可出るよきっと」

審神者はにっこりと微笑んで俺に言う。

「大丈夫、大丈夫〜」

端末に連絡を入れて程なくそれは決められた予定として組み込まれた。

演練場には様々な部隊がいた。レベリングベースなのも見て取れる。少し外の空気が吸いたくて一声かけて外へ出た。

政府の中では人がざわめいて多く行き交う。肩がぶつかって書類を落としてしまったらしく、俺はそれを黙って拾った。その外套で分からなかったがその男はよく知っているような気がした。

ひら、と紙を見る。【ーーーの護送ルートについて】

見覚えのある名前に動きを止めそうになる。その図解を頭に叩き込むとすぐにその男に渡す。そいつはぺこりと頭を下げてすまないなと言って去って行く。

日にち、ルート時間。全てを知ってしまった。偶然にも。機密になるほどにあれは護送されてどうなると言うのか。

ふらふらと歩き始める。駆け巡るのは記憶。決着をつけるべきなのだと。そう告げられているようだった。

前に行った部屋から転送された場所へと飛んだ。外套のストックが積まれていたことは知っている。これでも羽織ればいいかとつける。認識阻害。マスクをつける。偽装。いつかであった政府の役人ももしかしたら刀剣男士だったかもしれない。

部屋を出て息を吸う。当日ルートは規制されて人も刀も出入り不可。外套を着た者のみを通す。そう書いてあった。把握していたカメラを全て遠戦装備で破壊しながら進む。

わかっていたはずだ。この外套の意味を。これが指すのは誰かを。気がつかないふりをした。

俺はあんたの唯一の刀だ。だからこそ、その間違いを、切らなきゃならねぇ。他のどの刀でもなく俺が、そうするべきだ。

それが刀剣男士として、刀としてはらうべき主への礼儀だろう。

けれども痛む。酷く痛む。俺がお前を切ったという事実が。痛みになって這い回る。

俺を殺すのはお前であるべきだ。

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サイレンが聞こえる。周りはやかましくなった。走ってきた黒い管狐が術式を展開すると南泉一文字は刀に戻される。

脇腹から血を流してる俺を見ると焦ったような顔をした。

「溶かさないのかその刀を!」

そう言ったのは後ろにいた人間だった。罪犯した愚かな審神者。俺は冷ややかな目でそいつを見つめる。

「勘違いをしているらしいから言っておく。俺が助けたのはお前ではなく、この刀だよ。」

あとは頼むとだけ告げて南泉一文字を持って移動した。手放せばたしかに、言われた通り溶かされるかもしれなかった。上司の部屋とふらふらと足を引きずりながら向かおうとしたら止められる。

「きみ、なんで無茶を」

駆けつけた上司は不安そうにこちらを見て手入れを始める。彼は霊力が少ないから多くの刀を顕現できないので役人になったと誰かが言っていたなんてどうでも良いこと思い出しながらぱったり意識が溶けた。

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ガタガタガタガタ。くらい。ここはどこか。わからない無数の足音が聞こえてくる。

顕現を解かれたか。きっとこのままなのだろうが。

「ここにある南泉一文字についてだが」

うすらぼんやりした意識をかき集める。誰の声かはわかっていた。すうっ、と霊力が溢れて顕現される。そのことに驚いて何度も瞬きをした。この部屋は転送用の?どうしてだ、どうして山姥切が、俺を?

理解できなかった。部屋にはもう1人と1振り。政府の役人とそしてその護衛担当であろう脇差物吉貞宗がいた。ふたりは黙ってこちらを見つめている。俺が呆然として膝をついて動けないでいると山姥切は話し始めた。

「さて、現在審神者緊急連絡所は人手不足だ。大概俺が外回りやら何やらをやる羽目になっていたが先日1人本丸配属になってからその穴を埋められていない。つまり俺は内勤に戻る必要がある。」

「確かにそれに異論はありませんね。しかしこちらとしても人員を増やしたいのですがそうもいかない。手続きは煩雑ですぐに増やせる状況にありません。ご理解を」

役人はそう答えた。それに山姥切はこくこくと頷く。とても、嫌な予感がした。何故ってこの刀が用もなく俺をここに連れてくるはずもないからだ。

「そうだね。もちろん理解しよう。しかし、必要なのは間違いない。無いものはない。出せないのなら有るところから引っ張ってくるしかないね?」

「おい、おいおい。山姥切。テメェまさか」

「さて、ここに、機密情報を入手し政府施設の監視をくぐり抜けて監査官である俺と互角に渡り合った刀が一振りいるわけだ。」

そう言って目を細める、あぁこいつやっぱりろくでもねえ。

「油断していたとはいえ、俺の脇腹をかっさばいてくれたこの刀の強さは折り紙つき、実力は申し分ないと言えるね。」

「確かにそれは事実だね」

役人は難しい顔をしてそういう。物は言いようだな??

「聞かせてもらいたいのだけどこの有能な刀を有効活用せずに溶かすほどに政府に余裕はあるだろうか?」

「おい、お前ワザと」

「何のことを話しているかわからないな。俺が君相手に手を抜くと思うか?」

いやあれは間違いなくワザとだ。ワザと攻撃を受けたのだ。俺がそうなれば止まるとわかっていた。俺の迷いをこいつは見抜いていた。

「さて、役人どの。君の意見を聞こうかな。悪い提案ではないと思う。もちろん、彼のことのことは俺が責任を持って飼いならしてみせるとでも上に報告しておけば良いさ。」

「……概ね賛成だ。しかし刀剣の意思を無視した行動は推奨されない。南泉一文字、君はどうしたいか、どうありたいか素直な言葉で教えてくれないか?」

役人が俺に目を向ける。だか、俺は、そんな問いに答えられるのか、答えていいのか?

「あの人は?」

俺がそう問いかけると山姥切は億劫そうに答えた。

「………彼は君が手を下す必要などないよ。裁かれるべきところで、その罪に見合った裁きを受けるとも。……それにどちらにしろ長生きはできないよ。彼の体呪詛返しを受けたからね。彼は気がついていないかもしれないが」

「……俺は」

「怖気付いたか。南泉一文字。」

胸倉を掴まれた。そいつは確かに怒りを込めて俺を見つめていた。

「お前が、ここまでした理由は何か、そんなの俺には関係ない。だが、俺のことを切っておいてそのまま尻尾を巻いて本霊へ逃げ帰るなど笑わせてくれるな。」

「逃げ帰る訳じゃねぇだろ。お前に指図される筋合いはねぇって話だ、にゃ」

思わず眉間にシワがよる。そんなつもりはない。逃げ帰るなんて真似をするわけじゃない。

「……お前のその在り方を、俺に示してみせろよ。他でもないこの、俺に。何も知らないわけがない。何もわからずに、ここにいるわけがないだろう。俺を救っておいて、そのまま、消えるなんてそんなことさせてたまるか」

吐き捨てるようにそう言われてフリーズする。

心当たりはたった一つ。あの本丸で必死になって、折られないようにと、嘘まみれの報告書と突き返したあの刀。

「おまえまさかあのときの?おれが、政府に突き返したあの、「山姥切」なのか?」

ふん、今更気がついたか。と言って顔を背けられる。わかるはずがない俺はあの刀を顕現しなかったんだから。

「これで貸し借りは無しだ。いいさ。お前の好きにしろ。子猫には荷が重いことだったね?俺が悪かった。」

パッと手を離すと山姥切は退出しようとする。役人はあぁ、もちろん、とだけ答えていた。俺は慌てて山姥切のその後ろを追いかける。

「はぁ!上等だよ、やってやる、にゃあ!!!」


バタン、と扉が閉められる。役人はため息をついて、書類へとハンコを押した。

「あの南泉一文字は山姥切長義丙167の相棒ってことで構わないね?上にはうまく報告するさ」

「ええ、もちろん」

「しかしアレって、喧嘩しそうだけど。」

「大丈夫ですよ。ふたりとも昔から、ありがとうってうまくいえないんです。」

物吉貞宗はひどく穏やかに微笑んでとじられた扉を見つめていた。
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とある役人の独白

さて。どうかしたかな。何?あの刀の話か。君が聞きたがるのもよくわかる。長くなるからねコーヒー好きだったろう。ほら、ミルキィの飴もあるけど?ははは、別にコーヒーは好きじゃないって?まぁいいじゃないか。

それで話だったね。まずそうあの刀はね、ここで働く期間はほぼないままに政府から監査官召集を受けた。君よりも前のことだったね。よく覚えているよ。監査官として役目を終えてすぐに政府に送り返されてきたんだ。顕現して不具合があったとね。しかもそのバグが判明するまで新規の刀は受け入れないとまで言ってね。

確かに驚いたが。その理由はすぐに判明した。君が検挙した見習いを覚えているかな。そう、失敗して捕まった子。あぁ、覚えていたの?彼女の周辺には乗っ取りに成功した審神者がいたんだよ。そう、君が目をつけて検挙されたあの審神者が、件の南泉一文字の本丸だった。

呪具を使用し刀剣への扱いも非道。元の主は政府の迷子センターで働いてたらしくてね無事に審神者に復帰したよ。刀剣たちも「主がもう審神者をやめたいと言った」と言われてしまえばそれ以上はどうしようもなかったし、それに加えて「君たちには会いたくない」とまでつけたされたら流石に迷いも生じる。そういう不安に付け込まれたわけだ。

これは誰にでもあり得る。精神的に追い詰めるのが得意な男らしかったね。ひたすらに働かせて休暇与えず考える余裕を与えない。それこそが狙いだ。南泉一文字に対しては己が顕現させたことによる油断があったみたいだね。あぁ、もちろん君の言う通り。

刀剣は人が思っているよりも頑丈にできているからね、彼らもすぐにおかしいと思ってけれどその頃にはもう呪具で雁字搦めだった。それでも、もう少し遅ければあの男は切られていたと思うよ。誰ってそれは南泉一文字にさ。

私が思うに、だよ、あまりあてにしないでね。わたしが思うにあの南泉一文字はさ、悔しかったんだろうね。自分がもっと早く気が付いていればってきっとそう思った。彼は、彼の在り方は、うん、これは私が語るには少し過ぎた内容かもしれないが。

「自分が何もしなかったから、こんな結果になった」

流石によくわかってるね君は君の言う通りだと思うよ。
それは彼の根幹にあるその逸話、その呪いのように刻まれているものに呼応した。強く反応してしまったんだろうね。彼の心をひどく不安定にさせたに違いない。

だから、呪いなんだろう。そう言う意味では間違いなく呪いだよ。……なるほどね、君の意見はよくわかるよ。

彼は他の誰でもなく彼自身を許せなかった、「そう言う在り方」だった。

なるほど、確かに。そうだろうね。……ところで怖くて本人には聞けなかったんだが、彼脇腹を南泉一文字にざっくり行かれてね。アレってどう思う?

えぇ?わからない?君同位体だろう?差異はある?いやいやじゃあ君南泉一文字に切りつけられたらどうする?

意味もなくそんなことはしないか。確かにそうだけど君、切りつけられる前に本気の斬り合い始めそうだなぁ。そんなのことないって?どうだかなぁ。

……はぁ、聞いた私が間違いだったよ。まぁそうだね、君たちは特別縁が深い。何せ一目惚れ同士、あっ痛い痛い照れるのはいいが殴るのはやめてくれ!

いや、しかし。あの2人これから大丈夫かなぁ。結構仲悪いように見えるけど。喧嘩腰じゃない?……あぁ、まぁ、あれかな。あまりくちをだしてもさ、馬に蹴られて死んじゃうかもね。

おや、もう行ってしまうの?はは、あぁ。また遊びに来て欲しいな。乙158君。あ、もうその名前じゃないんだった。

「じゃあいずれまたお会いしましょう。山姥切長義どの」
2024/10/13 01:38:11

この番号は現在使われておりません


#にゃんちょぎSS #審神者緊急連絡所 1 #刀剣乱舞SS


そこは政府の一区画に割り当てらていた整頓されたデスクの上にはモニターと内線電話、そして小さめの端末が置いてある。多少の個体差はあるものの机のほとんどは同じような小物や菓子などが、同じような配置であった。当たり前だ「皆」同じものからできている。


けたたましく鳴り響く電子音。くるりと椅子を半回転させて電話を取る。それが俺、政府所属、山姥切長義識別番号乙158の日常である。此処には多数の「山姥切長義」が政府の役人の仕事を補佐し、本丸に配属される日までを過ごしている。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は乙158個体、山姥切長義だ。持てるものこそ与えなければね。どうかしたのかな?」

「え、ええとっ、ここで困ったことお話しして、いいんです、よね?」

特徴的な高めの声で、短刀かと、あたりをつける。

「…あぁそうだよ。君は五虎退?困ったことは何かな?」

「はいっ、すいません!とらさんたちが、さいきんぷくぷくしてて、僕ご飯はたくさんあげないようにしてるんですけど、」

虎か。手元の端末を見る。5匹の虎。…あまり大きくはない子猫のような彼らだ。俺は実際にあったことはなかった。

「うん。なるほど。誰かがご飯を与えているんだろうね。君の虎は愛らしいと聞くから。」

「あ、ありがとう、ございます。あるじさまはいそがしそうだし、まだ、本丸は刀が、そんなにおおくないので、黒でんわの上に、このばんごうがはってあったので、つい…」

正しい使い方をされていて、俺も安心した。しかし、わかりやすいところに貼っているあたり、几帳面な審神者らしい。たまに存在すら忘れている審神者もいると言うのに。

「あぁ、その為にここはあるんだから、君の行動は正しいよ。そうだな、君の本丸に掲示板はあるかい?」

「は、はい!よくつかいます!ここから見えるところにあるんです」

「そこに虎が痩せなければならないことを書いておくといい。体重が増え過ぎれば体に負荷もかかるんだろう?」

「あ!ありがとうございます!僕、そんなことも思いつかなくて」

嬉しそうな声を出して、すこし安心する。些細なことであっても放置すればなんらかの重大な損害を招きかねない。…虎は五虎退の一部とも言える存在。気にかけて当然と言える。すこし太った程度と無視していい事案ではないと、そこまで考えて連絡してきたかはわからないが、ともあれ心配性が幸いしたようだ。いい心がけだと感じる。

「…君の本丸は出来たばかり、なのかな?虎が太り出したのはいつ頃?」

「そうですね、本丸は出来てみつきくらい、です。僕は初鍛刀ではなかったんですけど、その少し後にここに来ました。虎さんは、ちょうど、このあいだの任務が始まった頃くらいから、です。」

「あぁ、江戸城?初めての任務がそれだったんだね?なら、手が回りきらないこともあるし、他の刀も息抜きがてらみんな虎に構って居たのかもしれない。出陣はどの程度なのかな?」

「はい、今は、ええと、打刀以上のみなさんが、頑張って、たくさんしてます。あたらしい、刀を迎えてあげたいとあるじさまが」

「そう。ありがとう。君の悩みは解決しそう?」

「はい!」

「それは良かった。じゃあまた困ったらここにかけておいでね」

ガチャリと、彼のお礼の言葉の後に電話は切れた。俺は直ぐに手元端末で先ほどの本丸番号を表示して、電話を取る。

「もしもし、乙158固体山姥切長義だが、至急調べて欲しい本丸がある。五虎退の虎が、太ったようでね。え?そんな事で…調べに行くのは無理?君は貴重な戦力を失いたいのか?人は有限だろう?審神者の不調に気がつかなかった担当の管理責任を問いただした文面をつらつら書いて上に提出しようか?もちろん君がそうして欲しいならそうするけれどね。わかればいいよ、じゃあ本丸番号を読み上げるね、110……」

だいたいあの虎を含めての付喪神だ。それなら原因は外部ではなく内部にある。つまり審神者の霊力が乱れれば刀にも影響する。ごく自然な話である。


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「乙158くん!!!」

俺を呼んだ役人の男(ふわふわとした猫っ毛の眼鏡君)は刀を抱えていた。先日の五虎退の一件の報告にでも来たのだろうか。

「お手柄です!あなたの言った通り、緊急に健康診断だと言って、お邪魔して色々と調べたんですけれどね、あそこの審神者さんかなり無理してらっしゃいました。倒れる一歩手前でした。」

それを聞いて一安心する。倒れる前に見つけられて良かった。しかし、と抱えられた刀を見つめる。関係ない訳ではないだろう。例の本丸からつれだされたのか?よく知った刀が顕現もされずに持ち運ばれているとは。

「そう。それで、その刀は……南泉一文字みたいだけれど?」

旧知の刀ーというか、顕現されてからこんなに間近で刀見たのは山姥切長義をぬけば始めてだった。なにせ俺は政府預かりの身だし、この区画から遠くへ行ったことはまだない。俺もついこの前顕現されたばかりだったわけだし。

「この前の江戸城の…ですけれど、なにせ霊力が不安定な時に顕現失敗して刀のままだったそうです。」

「その刀はどうなるの?」

まさか、と言葉に詰まる。流石に自分のせいでその刀が、何か不当な扱いを受けるのは忍びなかった。他でもない「彼」だしな。

「そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。念の為調べて直ぐに本丸にお返しします。審神者さんも休めば元気になるそうですから、きっと次はちゃんと顕現させることができると思いますよ!安心してくださいね!南泉一文字くん!」

役人が刀に語りかけるものだから俺も同じようにそうした。

「そう。良かったね?猫殺しくん。君は本丸に帰れるようだ。ちゃんと居場所があるならそれは結構なことさ。」

クス、と笑いながら話しかける。顕現前なのだから意味もない。返される言葉などないのだが。存外自分もはしゃいでいるのかもしれない。…どんな経緯であれ彼と会えたわけだから。刀の姿だが。

「でも良かったんですか?貴方のおかげなのに。名乗り出なくて」

「ふっ…そんな必要あるかな?当たり前のことだろう?」

名乗ったところで、俺は当分ここで仕事をするんだから会えるわけもないんだし、仕方ないことだ。…そもそも業務の一環だしな。

「それよりその刀のこと、他の刀は何か言っていなかった?」

「はい、彼らは【きっかけでしかなかったから、南泉一文字は悪くない】と。比較的過保護な刀たちが、審神者の側について頑張りすぎないように、息抜きをさせるようするそうです。これからはこのようなことにならないよう努力すると仰ってましたよ。」

「いい本丸だね。きっと審神者も勤勉すぎたんだろう。…いいね、そういうのは。好ましい」

「貴方もそんな風に思うんですね。」   

「…ははっ、まぁ、ね?俺はどこに配属されるかはわからないが。また縁があればね、猫殺しくん?ふふ。」

「そうですね!」

彼はニコリそういうとお辞儀をした。サッサと歩き出してひらひら手を振る。

「早く連れて帰ってあげなよ?」

「はい、もちろん!」

走っていく後ろ姿を見つめた。次俺があの刀を見つめるのはいつだろうか。次はその姿を見て、できれば言葉を交わして、それで。

…いけない、まだ仕事が残っているんだった。

俺は仕事場に戻った。どことなく足取りが軽い気がするのはなぜだろうか。

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今日は特に慌ただしく人が行き来していた。外がどうあっても俺たちには遠いことのようにも思える。隣のやつも多分同じことを考えているのかどうなのか、電話が鳴ってそれを取った彼に飲むタイミングを失ったコーヒーを渡された。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は甲159個体、山姥切長義だ。」

「どうか、したのか?身体がおかしいのか」

隣にいた山姥切長義が眉を寄せて端末を見つめていた。声紋によると蜂須賀虎徹らしかったが、ため息をつくと首をかしげる。切られたらしい。

「間違えたとさ、「らしく」ないことだね」

「…おや施設内からかけていたのかい?カメラは…っと今日は初期刀を連れてる子が多くてわからないね」

場所がわかったところで監視カメラを見てもそこかしこにいてわからない。今日に限っては意味のないことだ。

「…この時期に審神者になった者が多いからね、記念の日だろう?初期刀を連れ出していたわるなんて良い心がけじゃないか?」

彼がそう言うのでまぁそうだね、と返しておく。休む間も無く電話が鳴る。行事があれば行き違いも起きる。往々にしてそう言う風にできているのだと役人も言っていた。多くの人が生活していてもそうだし、多くの刀が生活しても同じことだと。


「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は乙158個体、山姥切長義だ。…?おや騒がしいね。何かあったかな?」

「た、たすけてくださぃ〜〜!!あぁ!あるじさまがいない間にうわぁぁっ!留守は任せよと張り切りすぎてっ!あーーーー!!なーきーぎつねーー!!どうして出来ないと言わなかったんですかぁ!!おお!!ぎゃぁあ!!!!洗濯機からあわが!!!!とまりませーーん!」

「ぶくぶくしてる」

どうやら鳴狐とお供の狐らしかった。どうやって電話してるかは知らないがリアルタイムでピンチらしい。考えただけで悪夢な内容が聞こえてくる。

「落ち着け、お供くん…とりあえず洗濯機を止めるんだ。聞こえているかな鳴狐もそこに居るのだろう?」

「あぁぁぁぁぁっ!!!!泡が!!泡がぁ!、!!」

「聞いてるか!洗濯機を止めるんだ!停止と書いてあるところ推しなさいと言っている」

「あっあー!!!止まりました!止まりましたよ!!すごいですね!流石!!ですぁ!!!かしゅーどのぉお!ー!!!これにはうみのようにふかーーーいわけが!!!」

ガタガタと音を立てて電話を代わったのか静かだがかなり怒りを抑えたような声がした。あぁ泡だらけ本丸。片付けは大変だろうね。

「ごめんね、迷惑かけた。あとはこっちでやっとくから。」

「いやなに、特段役にも経ってないよ俺は。掃除頑張ってね」

「ありがと。」

加州がそう言うと電話を切る直前に掃除だぁ!と言う叫び声やらなにやらが聞こえてくる。

「ふふっ、楽しそうで何より。」

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さて。ここ1カ月平和に過ごしている。季節など窓もないこの部屋からは実感もなく、かかってくる電話先の四季はまちまち。そりゃそうだなとも言える。今日も今日とて仕事をするかと席に着くと、政府の役人が端末を抱えてやってきた。

「呪具?」

ありふれた言葉に山姥切長義はピクリと反応した。なんでもここ最近そう言う者が闇市で売られていたそうだ。闇市というのは、政府のどこかで誰かがそう言うものを売り買いをしていると言う噂から適当にそう呼ばれているだけで、決まった場所で売られているわけではない。どちらかといえば闇取引なのだが。わかりやすさが何よりも優先されるらしい。

麻薬とかと似ていると政府職員はこぼしていた。麻薬よりもタチが悪いとも。

「とにかくそう言うものもあります。…ここに電話できるかすらわからない。呪具にも色々とありますからね、当分は問い合わせが増える可能性があります。先日も、二件演練から本丸差し押さえまで発展したので」

「なるほど?悪趣味だな」

「悪趣味だ」

他の俺たちもわらわらと寄ってくる。リスト一覧、これも押収されたものだけで、まだ見つかっていないものもあるだろう。

皆一様に眉を寄せる。不快だった。このようなもので刀を縛り付けたとて、何になるというのか。

「化け物に成り果てれば、審神者であろうとも」

切り捨てなければなるまい。そう神の末席への不敬を思い知るべきだ。人は時々それを忘れる。

「あるじのいない俺たちにしか出来ないからね」
 
だからこそおれたちは「監査」し、見定める。審神者が刀を従え、振るうにふさわしいものであるか。他でもなくあるじのために。

「過ぎた力は人を堕落させる」

それは刀だけでなく人にも有害なことなのだから。

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今日も今日とて。イタズラ電話に通報電話。あの刀が恋仲になっただの、あの刀に思い遂げたいだの、いつからか半ば刀剣たちの何でも相談室になっていた。まあ暇なときは構わない。

ミルク味の飴玉を口の中で転がしながら考える。これは飴というには柔らかすぎやしないだろうか?なんともみるきぃだ。

そうこうしていると電話がなったので、ふっと息を整えて俺はそれに出た。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だ。担当は乙158個体、山姥切長義。…それで、君はどうかしたのかな」

「…おう、本当に山姥切が出るんだ、にゃ?」

声を聞いてすぐにわかったのは比較的付き合いの長い南泉一文字だったからだろう。まだ「俺」は会ったことがなかったが。

 「…ふっ…なんだ。君か。それで?どうかしたのか?」

「いや?…うん、お前がこう言うことをしている噂を聞いてにゃ、確かめたくて、ん、何の音…にゃ?」

ガサ、と先程まで食べていた飴玉の包み紙が鳴る音を聞いて彼は反応する。猫だから耳はいいらしい。

「飴玉の包みだよ。みるきぃな奴さ」

「お前そんなの好きなのか…にゃ」

「あぁ?まぁね、これくらいしか娯楽ないからここ」

「暇ななのかよ……それにしたって…」

と、言葉を切る。その後何を言いたいかなんて大体想像がつく。

「俺がこんなことをしているのはそんなに不自然なのかい?」

「いいやぁ、そうじゃない。…まぁなぁお前らしいと言えばそうだにゃ。もてるものこそ、あたえなくては、にゃんだろ?」

「…あぁ、まぁそうだね?ところで君は俺に何を聞きたかったのかな?」

「…あー、まぁ大体解決したからにゃあ。また、かけるにゃ。無理するなよ、山姥切。」

南泉はそう言うと電話を切った。そう言えば俺のことをそう呼んだのは、この、「南泉」が初めてだった。そうか、彼にとっては、山姥切は変わらず俺を指すのか。それは…。……きっと、当たり前だが、それは、俺の中でだけなのだろう。認めたくないが、俺はすでにそのことを理解していた。


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今日も政府は慌ただしく人が動き回っている。今日のおやつは芋けんぴですよーと役人は言ってそれだけ届けて別の部署へ向かっていった。ちなみにだがここにはなぜか貢物が多い。

ぷるる、と電子音がしてすぐに切り替えて電話を取る。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は乙158個体、山姥切長義だ。どうかしたのかな?」

「…ッもしもし?忘れ物をしたようでね。」

「……そうなの?なにを。」
 
トントンと人差し指で机を叩く。ここは本丸ではない。いや、そんなのは相手もわかっている。俺の言葉を聞いている筈だ。声紋認証をかけるとその刀は蜂須賀虎徹とわかった。端末番号から、演練近くの連絡用端末だとも。

嫌な流れだな、と、何となくそう思った。ただのドジならそれも笑い話だが。この前聞いた呪具の話もある。

「うん、主のへやのさ、あれ。戸棚あるだろ?その上から二番目。そこに端末がある筈なんだ」  

明らかに様子がおかしい。噛み合わない。他の個体にモニターを出してもらう。近くのカメラが拾ったのは端末で連絡する蜂須賀虎徹だった。周りを確認しながら連絡している。

「…本丸番号を」

「ッあ、ぁ?暗証番号は1141356。忘れたのかい?面倒だから本丸番号にでもしろってさ、言ってたろ?それで開く筈だから。」

「…君は無事か?すぐに職員が向かって君達を保護する。いいね」

その辺りで近くに審神者が来たのが見える。蜂須賀は謝るように笑いながら電話を続けているが。それにしても、こんな回りくどいことをする必要があるのか?…他の俺に指示を出しながら考える。

ちなみに、この職場内はいたるところにすぐに行けるように簡易の転移装置があるのだがそれもあまり知られていない事実である。滅多には使わない。緊急時のみだ。

「…まぁ、演練もあるからさ。それより本丸の方が大変じゃないか………?……主悪いね。大事なものがあったんだけど忘れたのか、失くしたのかわからなくて。確認しに連絡してたんだよ。」

【いいから本丸に帰るぞ。他の奴らはどうした】

その瞬間、彼が刀に手をかけるのが見えた。他の刀は別の場所で待機しているのか?近くにいた別個体にインカムで指示を出す。フードを深く被っており、一見して政府の役人と見間違えるような出で立ちだから不審がられてはいない。(監査部の者はどんな人間もしくはどの刀であっても顔を隠すのが決まりだ)

【緊急、連絡所横、蜂須賀虎徹が近くにいる。その審神者を確保せよ】そういうと、事情も聞かず了解と声だけが帰ってきた。

「すぐに審神者を確保する。悪いけど無傷で済むかは保証しかねる。じっとしていてくれ。君が何かする必要はない、動かないように。…いいね?」

蜂須賀虎徹にそう問いかけると刀から手を離す。


「うん、そうか。……でも、仕方ないよ。忘れたものは。」

【蜂須賀?なにを忘れたんだ?】


「刀への尊敬を忘れ、失くして、驕った君はもう」

連絡用端末がごとりと床に落ちた音がして通信は途絶えた。その先は誰も聞いていない。

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騒がしくなる周囲、近くの椅子で座っている蜂須賀虎徹が見えた。

「こっちの事は良いんだ。…本丸に行ってくれ。言った場所に呪具の類がある筈だ。……あの部屋には入れなくてね、壊せなかった。…うちの刀はみんなキズだらけだから、手入れもしてくれると助かる」

連れて行かれる審神者を冷たい目で見つめた蜂須賀虎徹が言った。現場に駆けつけた頃には全て終わっており少し疲れたように笑っていた。

「…初期刀として彼を止められなかった俺にだって、罪はある。…………いつも隙を見て逃げだそうとしても、すぐに見つかってしまうものだから。きっと何か仕込まれていたんだろう。まぁなんとかなってよかったけれど」

「無茶をする。一言決定的なことを言ってくれればそれで済んだのに」

俺が書類に書き込みながら話を聞くと君も大変だなと、労ってくれる。彼も相当に消耗しているはずなのだが、それを隠したがった。

「……言ったろう。呪具の類があると。もう破壊されたかな。…あれに逆らうのも、不利なことも言えなくてね。初めて言おうと連絡したら自分はなにもいえなくてね、その時は流石に打つ手がなくなったかなとも考えたが。……君のおかげだよ。すまないね。」

「……君は。…いや、ゆっくりやすんでくれ。アレも多分もう審神者になどなれやしないさ。刀に呪具を使えばどうあれ、ね。」

間違い電話でもそれは逼迫している可能性すらある。それをいつだって失念してはならない。ここはそういう場所ということをもう一度肝に命じた。

「…そうか…じゃあ、俺はこれで…本丸のみんなに会いに行って、説明してやらないとね。」

「これからどうするかはみんなで話し合って決めようと思う、また迷惑をかけてしまうかもしれないけど、そのときは」

「あぁ、任された。それが俺たちの仕事だからな」

「ありがとう。」

彼の今後はまだわからない。どうするか決めるのは彼自身だ。神の末席、分霊。それでもだからと言って、消耗品のように扱って消費していい理由になどならないのだから。


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先日のこともあって、監査部はてんてこ舞いだった。役人たちは頭を痛めているが。監査に俺たちが行けばいいんじゃないかと思うが、まだ準備が整っていないと聞いている。政府にも色々スケジュールがあるらしい。

日本茶を啜りながら隣にいた山姥切長義(甲159)と将棋を指していると電話が鳴る。


「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は乙158個体、山姥切長義だ。さて、何かお困りかな?」

「あぁ、困っている。俺にはどうにもできん。山姥切長義と南泉一文字のことなのだが」

聞き覚えのある声にふむ、と首をかしげる。起動してあった端末に照合をかけると声紋・へし切長谷部と表示された。誰かわかったところでそのまま話を続ける。

「…?「俺」と彼が何か?片方を折るほどの喧嘩はしないだろう?」

「あぁ、そうだな、そうなんだが」

へし切長谷部がこれ程に頭を悩ますとは、如何様な問題なのか。まさか、何か特殊な?蜂須賀の件もあったし、呪具の一件はまだ解決していない。

…上へ報告を上げなければならないほどのことが?俺は生唾を飲み込んで、彼の言葉を待った。

「うちの本丸の南泉一文字と山姥切長義が、どう見ても両思いなんだが、いつまでたっても付き合わないんだ。どうすればいいと思う?いい加減めんどくさいんだが」


「知るかクソ!!」

電話をガチャ切りすると隣にいた山姥切長義(甲159)が、苦笑いをしてこういった。

「…どうしたんだい?パンツの色を聞かれたのか?俺が電話に出るといつもそうなんだが。審神者の脳内はどうなっているのだろうね?」

俺はそんなもの聞かれたことはない。ここは、政府直属、緊急連絡所だぞ。俺のパンツの色を知って、なんの得があるというのか。

「なんて答えたんだ?」

気になったので一応聞いておいた。今後のためだ。勤勉なんだよ俺は。

「あぁ、南泉に聞けと言っておいた。面倒なことは大体そう答えるようにしているんだよ、そうするとみんな変な声出して電話を切ってくれるからね。」

「あぁー次から俺もそうしよう」

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 「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は乙158個体、山姥切長義だ。」

「あぁ、本歌か。悪いが役人を呼んでもらえないだろうか」

事務的な言葉を吐いたその刀は感情のそぎ落とされた声で続ける。…山姥切国広だ。調べる必要などない。

「うちは24360679の本丸だ。すぐに手配してほしい」

「何があった?」

「もう限界だ。俺は望んでも無いことを受け入れられるほど優しく無い、何もわからないほど馬鹿でも無い。…アンタの言葉だって、口にしてるものが全て本心そのままじゃ無いのもわかっているつもりだ。訂正はするが」

「いい加減に、要件を言ってくれないか?」

「………このままではアンタが折られる」

「………はぁ、またか。…あぁ頼む」

となりの山姥切長義にトントンと胸の紋を叩いて見せるとため息をつかれた。この事案が度々発生するせいでそれだけの動作でもうわかってしまう。

「また、か、とは」

「よくある事だ。…それで君が初期刀か?」

「あぁ」

「そうか。俺と縁深い者は顕現しているか?」

「…俺」

「以外で」

「……居るには居るが、その」

「遠征か。時間を稼いで帰ってきてもすぐまた別の…今の時期は新規鍛刀があってごまかしがきくがそれももうすぐ終わるものな、急いで資材を集める必要がなくなれば不審がられる。彼らは結構鋭いところがあるしな。」

「よく、わかったな」

ひどく驚いた声を出された。今週で何件目かわからないから、な。それくらいわかる。

「……良いのか?刀剣への不適切な扱い、不当な対応、それに初期刀からの密告となれば本丸差し押さえだ。どうあれ解体も視野に入れなければならない」

「………もし折られそうなのが本歌でなくても、俺はこうした。」

「俺は「そいつ」ではないから、な。何も言えないが」

「素直に感謝されたほうが怖い」

「…ムカつくことを言わないでくれるか。よくここにかけたな。管狐でも良かっただろう」

「………まぁ、そうだが」

妙な沈黙に胸が冷える。この刀の扱いがわからない、自分の腹の奥がざわめいて思考が止まりそうになる。

「おい…待て。すぐに政府のものがいく、無駄な動きはするなよ?わかっているな」

「…決着をつけなければならない。なぁ、大人しく捕まるような奴に思えないんだよ。ここまで1ヶ月アンタの存在を隠し通したんだぞ?それが、そんな、簡単にいくのか?簡単に捕まえられるか?」

「あぁ?俺のことが信用できないのか、君は。わからないなら説明するが君が俺に密告した時点で審神者の権限は半分剥奪されている。もう解刀できないように手配した。まさか、他の刀にも何かー」

「いや、主は優しい方だ。俺のことも、気にかけてくれるくらい、優しい。だから、もうどうすればいいかわからない、知りたくなかった」

懺悔するように告げられる。それでも俺はその「山姥切長義」ではない。どんな扱いを受けたかそれまではわからない。

「山姥切国広。お前は初期刀なのだろう?お前が、その本丸の要だ。わかっているか?その意味が。お前は選ばれて、そこにいる。だったら俺がどうとかそんなのもう考えてる暇なんてない。」

「お前の本丸には、主を慕う刀がたくさんいるんだろう。それでもお前はこうして、俺に告げた。それは正しいよ、俺がそう保証してやる。だからちゃんと最後まで、やり遂げろ。」

「他でもない、お前という刀はそういう在り方なんだろ?」

「あぁ、そうだ………あぁ、騒がしくなってきた…なぁ、俺が「山姥切」を見つけたときなんて言われたと思う?」

「そんな場合か?お前、そんなのー」

【折ってくれ。ここに居たら主が歪んでしまう】

そう言った声が震えていた。

「アンタはいい刀だな、本当に。主を思える刀だ。だからこそ、俺も主の為に出来うる限りを尽くそうと思えた。…俺は他の刀と話すよ、決心がついたからな。……本歌、長々話して悪かった。」


「あぁ。山姥切国広。そう思うのなら約束してくれないか」

「なんだ」

「「俺」にもう一度会って話をすると。」

それはもちろん「自分」ではなく、その本丸の、だ。だってまるでこれから死ににいくみたいな声を出すから。これが最後と言わんばかりに俺に話すから。そんな逃げを俺は許さない。ちゃんと、「俺」と話してからにしろ。きっと同じことを言う。


「俺」はお前に厳しいからな。


「あぁ、話すよ。必ず」

ガチャリと電話が切れた。端末を見ると本丸が封鎖され差し押さえられたようで本丸番号が端末から消失した。

「…お前は良い刀だよ。俺が一番良く知っている」

それでも俺がいる限りは、俺が「山姥切」であると、俺はそう言い続けなければ、消えてしまいそうで。

あぁ、「俺」がその本丸に行かなければ…なんて、そんなことを思えるほどに優しくもない。俺がもっと単純なら良かったのか。それも無理な相談だ。人の心に波風を立ててしまうとしても、これだけは譲れない俺の核なのだから。

少なくともこれは、誰が悪いだとか間違っているだとかそんな簡単な話じゃない。

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前回の一件から、数ヶ月審神者たちの行動も落ち着き始めてはいるのだが、まだまだ呪具の大元やらを探れず、進展はない。

いつも通りの日常が始まる。

殺風景な部屋を回して同位体たちを見て。電話を取って。何も不満などはない。仕事だしな。いつものように電話がなったので俺は直ぐにそれに出た。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だ。担当は乙158個体、山姥切長義。…それで、君はどうかしたのかな」

「…うちのある刀たちが恋仲になって、な。好きってのはどういうもんだと思う?にゃ?お前は知っているのか?」
 
暇があればちょこちょこと電話をかけてくる南泉一文字がいる。いつも同じだ。後ろに聞こえる刀たちのざわめきだとか、おそらくこの本丸の電話は掲示板の近くにあるのだろうか、昼餉やらの張り出しに一喜一憂するのが聞こえたりして。だから、わかってしまう。この「南泉一文字」が俺を初めて「山姥切」とだけ呼んだあの刀だと。

「…はぁ?君なぁ、そんなことのために電話してきたのか?愚かにもほどがあるよ」

「……他の刀には聞いても仕方ないんだよにゃあ。」

「さぁな、俺が会って目の前で姿を見て長く話すのは「山姥切長義」だけだから…そういう気持ちになるとしたら本丸に配属されてからなんじゃないのか?…俺がそんな浮ついたものにとりつかれるとは思いたくないが」

わかるはずもないし、そんなことはどうでもいい。はっきり言えば、刀として扱われればそれが一番だろう?それ以上何が必要なんだ?…ここじゃ鍛錬をするにも…俺だからある程度筋が読めてつまらないしな。

「…ま、お前はそうだよにゃあ」

「馬鹿にしてるのか?もういいなら切るが」

俺がそう言うと間延びした声がする。

「いや、そーだなぁ、なぁ、アンタに繋げるにはどうしたらいい?毎回一から説明するの面倒くさいんだよにゃあ」

「…はぁ…緊急連絡番号の後に俺の個体識別番号を打ち込め。…ま、どうせ覚えてやしないだろうけれどね。じゃあね」

「あ、おい、切るにゃ」

本当馬鹿らしい。君は「俺」など認識できないだろうに。
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ここにいる数振りの俺はいつか、別々の本丸に配属され、ここでの記憶の保持は固体と本丸の方針によって決定される。

多くの本丸は他の刀と同じように「まっさらな」俺を望むらしい。だからここから出た者たちであっても、時たまに何も知らず電話をかけてくることすらあった。

俺は、どうなんだろうか。ここでの記憶に心残りは1つもない、と。そんなことを考えていると珍しく会議のように数振りが集まって話を始めているのが見えた。考えても仕方ないことだと、俺もそちらの話に参加することにした。

「俺たちは刀だ。故に心の機敏にはあまり聡くない。恋愛感情を持て余す個体も、度々存在するのだろう。俺には理解しかねるが」

山姥切長義(甲159)がそう言うと他の「俺」もそれに賛同して話を始める。

「そうだが、それにしてもここ最近、多すぎないか?」

「というかほとんど「俺」絡みじゃないか。なにが、好きってどういうものだと思う?だ。なんで俺に聞くんだあの猫殺し君は」

少し前にあったことを思い出すと愚痴とかんとりいまあむが止まらない。俺に聞いたって仕方ないんだ。その本丸にいる「俺」にきけというしかない。電話が来なければここはもはや休憩室だ。

「大体、南泉一文字とくっつかないか、くっついてるか分からないからどう確認すればいいか聞いてくる二択だ。知るか。俺たちは他の刀の長く話すのはそれこそ電話越しだけなんだぞ?監査の時期はもう過ぎたからな。あの監査であってなきゃ見た目なんてデータでしか見たことがないのに」

「この前面倒くさくなって簀巻きにして南泉一文字の部屋に転がしておけと言ったくらいだ。もう聞き飽きたんだよ。」

「おい、それ大丈夫なのか?「俺」は無事なのか?」

俺は心配になってそう聞くと、その山姥切長義はさして問題ないだろうという顔をした。

「さあ?「俺」であればなんとかするだろうな。だって「俺」だから。」

「まぁそうだな」

だって俺だしな。次のお菓子に手を伸ばそうとした時、また電話が鳴る。仕方なく俺が取ることにした。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所、担当は乙158個体、山姥切長義だ。持てるものこそ与えなければね。しかし、恋愛相談室ではないことは忘れないように」

「あぁ、それはわかっているのだがな。お前らが悪いと思う。」

はぁとため息をついた刀は、先日俺が電話を取ったへし切長谷部だった。

「また君か?放っておけ、そのうち気の迷いだと気がつく。なんで山姥切長義が猫殺し君と好きあっているんだ。本当に俺なのかそれは」

「俺はそういう感情には疎いが周りの刀は皆そう言う。そういえば、この前は別の「お前」が出てな、【簀巻きにした山姥切を南泉一文字の部屋に転がしておけ】と言われたから、な。まぁそのなんだ。黒田と織田にいた連中にそうさせたわけなんだが」

さらりととんでもないことを言ってのけた。待ってくれ…そんなやばそうなところに頼むな。絶対に悪ノリされたんだ。なんて哀れなんだろうか!

「あの話君の事だったのか!君はもう少しまともな判断ができる刀だと思っていたが、勘違いだったかな?!何してるんだ君は正気か?」

「もう、めんどくさいんだ。南泉一文字 はいつも甘ったるい雰囲気でお前の話をだな…。なかなかくっつかない少女漫画を読んでいるようで俺には耐えられない。俺は完結した漫画を一気に読みたい派でな。燭台切とは違う」

「それは俺じゃない!山姥切長義なだけだ!というか完全に己の都合じゃないか!」

「はぁ?だからお前だろう。…それで難儀しているのに。…他のお前に言われた通りしたのにあまり意味がなかった。」

「やめてくれないか!?俺になんの恨みがあるんだ君は!」

「恨みはない。主命だ。【一層の事付き合えば、南泉一文字も元気になるかもな】と言われたのでな」

「この主命大好き俊足オバケが!いい加減にしろ!」

また勢いに任せて電話を切ってしまった。早まるなよへし切長谷部。早まらないでくれ頼む。

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ここ一ヶ月、南泉一文字からは電話がなかった。つまりはあの長谷部の電話から一カ月ほどは別段と変わったものもなく平和で緩やかな日常で、変化もなく。何となくつまらない。

くるくるとペン回しをしているとぽとりと落ちた。となりの山姥切長義は得意げにまだいけると笑っていて、フンと、鼻で笑う。
コール音に反応が遅れた彼を尻目に俺は電話を取った。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は乙158個体、山姥切長義だ。」

「っあ!!出た!」

「なんだい?」

「えっとえっと〜審神者さんが大変なんです!」

穏やかな声質どうも刀ではない。それに審神者…じゃないということは見習いか、役人がここにかけたら切る。同僚からのサボり電話みたいなものだしな。

「審神者さん冷たいし、刀さんたちも私と一緒に居たいってそう言ってます。本丸差し押さえ?して譲渡してもらいたいんです。刀さんのために!」

そう言われて、端末を起動した。なにやらすごいことになっているらしい。

「本丸番号を」

「はい!110732です。」

「なるほど、では審神者が犯した違反事項とその証拠を口頭でとりあえずお願いしても?」

「えー!難しいことわかんないです」

「君はいつから見習いだったかな?」

「今日で1ヶ月です!政府さんがくる前にお伝えしておこうとおもったんです!お仕事大変でしょ?」

「…君についていきたいと言っている刀のリストは?」

「全部です」

「なるほど其れは本丸運営に著しく問題が生じていると見てもいいかもしれないね、手続きが複雑なんだ少し派遣まで時間がかかるから待っていてくれ出来るだけ急ぐ。刀のためだからな。」


電話を切ってため息をつく。本丸番号を入力し、管狐につなぐがどうも繋がらない。揚げでも食べているのかあの狐。サボるな。端末を見ると上からのメールがある。ーーー本丸にて刀への不当な扱いが見られ譲渡が望ましい。見習いのーーーが妥当である。至急手続きを。なるほど俺がダメなら上にか。随分刀思いな見習いだ。


「さて、どうもまずいが、流石に電話には出れるか?」

審神者の端末に連絡を入れると恐る恐ると声が聞こえる。

「もし、もし」

「こちらは、政府直属、乙158個体、山姥切長義だ。君に話があるのだが、まずは世間話でもしようか?緊張しているらしいが」

「い、え、あの、必要なことだけで」

「では、君の成績なんだが、素晴らしいと思うよ。模範的だ。書類にも几帳面さが出ているし、期限を遅れたこともないしね。刀剣男士だけでも生活できるようにシフトが組まれた運営、かつ必要な休暇は入れてある。まさに理想の模範的な本丸だが。」

「っっ」

「君、刀との触れ合いが少なかったとかは無いか?君のそばに誰かいる?…いると俺としても助かるんだが」

「あ、秋田藤四郎さんが」

か細い声で審神者が告げる。その男は存外に参っているらしい。なるほどな。

「怖がらせてしまったかな。俺はそうだね、刀の味方であり、良い主の味方だよ。この意味がわかる?」

「ぇ、はぁ、私の至らなさが、刀達の行動繋がっているので本丸運営資格などないということでは?見習いさんがそうおっしゃってましたし」

「………秋田藤四郎、君はどう思う?」

「主君、そんなことはありません。」

「他の刀は何と?」

「知りません。なにも。」

「もしかして信用されてないかな俺は」

「主君、これは本当に政府の?」

「山姥切長義は政府役人の補佐をしている刀だよ。ほら、電話相談の番号黒電話の上にあったろう?あれにかけると彼らに繋がる。…確かここの子達は他の部署とは違って独立して権限が与えられて居たはずだったかな…ほら、前に南泉一文字がかけていただろ?こうして電話をかけてくることがあるとは知らなかったけれど。」

審神者がそう説明すると秋田はなるほどと声を上げていた。

「…」

「君の本丸の刀を譲渡してほしいとの通告があった。上からもそうするように連絡が来た。」

「そんな」

ありえない、信じられないと言う風に秋田藤四郎が言う。

「仕方ない。私は、君達と語らうことをしなかったのだから」

「……審神者殿。君の意見を聞きたい。君は刀をどう思いどう扱っていた?」

「刀とは即ち戦力ですから、休養もなにもかも効率のためです疲れは力を発揮する邪魔になる。馬車馬の如く駆り出すのは馬鹿のすることだと学んだので…」

「それに、情が沸けば、戦になど出したくないでしょう。治るからと言って傷つくのを目の当たりするのは、わたしは、」

「主君、分かっています。皆分かっています。この本丸、全ての刀は貴方様を主として認め、敬い、慕っています。大丈夫です。間違いなど起きようがありません。大丈夫です。」

それは慰めと言うよりは、確信を持った言葉で。

「…やはりそうか。見習いを油断させるために?無理をしていたんだね」

俺がそう言うとひどく驚いた声で審神者が答える。

「…そんなの私は聞いていないが?」


「あの人には政府にも内通者がいます。主君をお守りするのに、知らせてしまうとバレてしまいそうでしたから。すみません不安にさせてしまいましたね。でももうすぐ終わります。大丈夫です。僕らはみんな主君の刀です。信じてください。必ず守り抜いてみせますから」

「秋田、君はー」

得意の秘密集めがここまでとは流石に驚いた。もっと些細なことを集めているのかと思っていたが(それこそどこぞの大包平日記のような)そこまで本気で主を守ろうとしているなら俺もそれに答えなければならない。

「…上の内通者が誰か調べあげるのにまだ時間がかかる。何人かこれに加担した人物がいるはずだ全てを吊るし上げなければ君達も刀を収められないだろう。あと3時間でいい時間が足りない。もうすぐそちらに政府のー見習いの息のかかったやつがついてしまう。止めようにも間に合わなくてすまない、時間を稼げるか?」

「…貴方のことを信じて構いませんか?」

「あぁ。この刀にかけて、不正は正そう」

そう言うと明るい声がして大丈夫ですよ、主君と励ますように話しかけているのが聞こえる。

「わかりました。では、主君どうやって時間を稼ぎましょうか。困りましたね。」

「…かくれんぼしようか」

「えっ、それは」

「君得意だよね。私も探してみたいな」

「この本丸の全ての刀が譲渡を望んでいるのならーかくれんぼで見つけられないはずはないでしょう。君たちのこと、私とあの人でどちらが多く見つけられますかね。」

あぁ、この審神者だって確かに怒っている。大事な刀に無駄な心労をかけてしまったことを。



____________


「かくれんぼだって?なんでそんなことを。馬鹿な真似をしてもう手遅れだというのに。最後のあがきか?そんなことをしたってもう本丸の刀は」


政府施設の端、喫煙室でタバコを吸いながら男は電話を続ける。

「しかし何であぁも、あの刀は頭が硬い。役所仕事ならさっさと差し押さえろよ、この前の山姥切長義の一件はそうだったのだろ?やはり己は可愛いか?」

「いいから早くしろよ、秋田が居ない?そんなのいいだろうどうせ」

「楽しそうな話だ俺にも聞かせてくれないか」

喫煙室の扉を開けてニコリと微笑んだ。こんなところで悠長におしゃべりとは見上げた根性だ。

「なんでもない」

男はそう言って立ち去ろうとする。フードを被っているせいかまだ刀だと気がついていないらしい。

「そうか。悪いが呼び出しだよ。本丸譲渡の手続きがあるから、なんて言い訳は通らないと思ってくれ。きみはあの本丸の担当だったね。他にあとは、かなりの役職だなぁ、コイツそれにその息子…あ、コイツも引き継ぎを?ふぅん、なんだが余罪までありそうでとても楽しいな?」

「何が」

と、そこまで言ってその男は息を飲んだ。目があったから。流石に俺が人ではないとわかったらしいすす、と後ろに交代していく。

「シラを切るか。刀に対してそれは愚策だな。悪いが先ほど、政府権限により君を確保しろと言われている。多少手荒くても構わないとね。まぁ切ったりはしないよ。君が心を忘れた化け物でない限りはね」

「俺が1人で来た意味を考えて欲しいんだが、君にはそれほどの頭がないようだね。いいよ、無駄な話ならもう聞き飽きてるからー」


「さて。行こうじゃないか。地獄行きだよ君は」

抜刀するとそいつは腰を抜かした。気合の入っていない男だ情けない。

「何が化け物かお前の方がよほどそうだろう」

「よく分かっているじゃないか。俺たちは「ひと」ではないんだ、そのことを忘れているようだが」

【長義様っ!やりすぎですよ】

ひょこ、後ろから飛び出してきた黒い管狐がこちらに飛び移ってくる、肩に乗ってきて若干重いが直ぐに術式を展開して男を捕縛した。いいとこ取りかこの狐。

【先ほどのお話の通り貴方様を捕縛します。全ての権限は停止、荷物も改めさせていただいています。貴方の味方は軒並みしょっぴかれて、牢獄行き良くて無職ですので】


「な、何?どうなっている!」


「…まぁいいさ。」


斬り殺すよりも酷い目にあってもらうんだからなと、冷たい声が落ちた。

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政府職員ーーーー、役員ーーーー、は、自身の利益の為に本丸差し押さえ及び強制的な譲渡契約を行った。これに関し、新本丸へ転移した審神者、見習いによる乗っ取り被害を受けた審神者に対しての謝罪としての支払いを命じる。また上記の2人の審神者に政府からの継続的な支援と担当差し替えを行う。該当職員は懲戒解雇処分としー


張り出された文章見てため息をつく。クビになった上に査問か。無事で済むわけがない。見習いはといえば審神者資格の永久剥奪、刀剣との接触禁止、政府職員での就職の道も当然潰され親も無職になるというコンボを決められてよほどの政府も怒り狂っている奴がいるらしかった。それにしても1ヶ月もこの結果に至るまでかかったが。

「あぁ!乙158くん!」

随分前に南泉一文字を預かって持っていた職員がパタパタかけてくる。男にしてはゆるい話し方だが、これでもエリートの部類だ。俺の部屋に来れる人間も実は限られている。

「どうかしたか」

「こいつ本当ありえないですよね!刀剣と審神者を補助するのが役目だというのに。」

「あぁ」

「乙158君?」

「あの審神者と刀達は…元気でやっているかな」

「そうだったね。君が電話を取ったのか、うん。本丸も停止処分を解かれたよ。念のため本丸番号も変えて置いたから、逆恨みされてもたどり着けないだろうけどさ。」

「まぁ必要な事後処理だね」

「自分が至らないばかりに処分を受けて迷惑かけたって審神者さん落ち込んでてね。あの審神者さん頑張りすぎちゃうタイプだし…。あれは謝罪代わりの休息だったんだって言っておいたから、大丈夫だと思うよ」

「そうか、なら良いんだ。……そうか。」

「なんなら会いに行く?監査だって」

「いや水を差しても悪いだろう。」

「でも、もう少ししたらその時期だよ。君も早くステキな本丸に配属されると良いね!」

配属か。  
俺にはまだ、早いんじゃないか。俺は、あんな風に主を守るために冷静でいられるだろうか。秋田の声を思い出していた。


【必ず守り抜いてみせますから】



あぁでも、羨ましい。あそこまで必死に守ろうと思える主を、俺も。

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山姥切長義にとって、この場所での時間は必要なものだとそう思い始めていた。己という刀のあり方。他の刀のあり方。主とのあり方。多くがここには電話越しに伝わってくる。もちろん無駄話も多いがー。それでも…

いややはり無駄話が多いのはどうなんだろう?もうここは、半ば刀の相談電話ばかりなのだが「今更名前変えるの?無理無理。どんだけ手続きあると思ってんの?」という上司のありがたい言葉により却下済みである。これだから役所は嫌いなんだ。と、どこぞの役人もブツブツと嘆いていたのを思い出す。

気が滅入っているのは人らしい事だが…あぁ。この前の本丸の事件から事後処理の事務作業を手伝わされていてひと月ほど電話番をしていなかった。…その間に彼は電話をかけてきたりしたのだろうか。あの南泉一文字はもうとっくに「俺」のことなど忘れているかもしれない。

ぷるる、と電子音が思考を遮った。仕事の時間だ。

「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所、担当は乙158個体、山姥切長義だ。ここは愚痴の掃き溜めでも恋の悩みを打ち明ける場所でもない。勘違いをするなよ。」

「おう、わかってるにゃ」

「…はぁ、この番号は決まった刀しかかけてこないのか…?」

「知らねーよそんなこと。大体お前が「繋ぎ方」教えた…にやぁ!!」

「…あぁ、まぁそうだけれどね?よく覚えてたな。今度はなにかな?」

少しそのことに驚いて動揺してしまった。運悪く覚えていたなど。この刀も暇なものだ。……いや、喜んじゃいないが。俺は。

「前に話してたろ?お前のとこ、その、何の娯楽もないとかなんとか、にゃ、」

「あぁ」

そんなことも話した。自分でも驚くが彼との会話は全て覚えている。

「お前その、花とか好きそうだし、にゃ、置いたらましになるじゃねぇーか?」

「さぁ、どうだかね。俺は畑に嫌われているし、花にも好かれちゃいないかもしれないぞ」

「…そうか?…置くならどんなのが良いとかないのか?…あるだろうそれくらい、にゃ」

「…そうは言われてもな、そういうものに疎いのも事実なんだよ。君は飾るなら何がいいと思う?」

「あ…あー。あおい、ばらとか?……だ…にゃあ。」

「青い薔薇?そんなの、」

そう言葉を続けようとすると突然と南泉の声のトーンが下がる。

「……にゃ…山姥切。あのだ、ッにゃーーーー?!?!にゃんだ!?!!!!ウワァッ!!!!!!!うにゃーーー!!!?!?!?」

尋常じゃない叫びに若干引く。脛でも打ち付けたか?なにかあったのか?怪我でもしたとか?まさか襲撃?

「はっ!?!どうした南泉一文字?おい!君!聞こえているのか」

[こら!南泉くん!お風呂の時間だって言ってるでしょう!逃げ回ってもダメだよ。カッコよくないよ?]

少し遠くから燭台切光忠の声がする。どうやら回収に来たらしい。風呂が嫌なのか猫だな?心配して損したよ。

「やめるにゃ!!!!なんでいま!!昨日入ったにゃあーー!!!おあーー黙って引きずるな長谷部ェ!!!」

[今日はお風呂掃除早めにするから入っておいてって言ったじゃないか。きみ、知らないふりして逃げるつもりだったんだろう?]

「にゃあ!!!!!山姥切!待つにゃ〜〜!!また電話するからにゃ!」

「ふっ。、ふふふ、うん、はいはい。困ったことあったら、にしてくれよ?」

うにゃあー!という叫び声が遠のくとどたどた足音がした。戻ってきたのかな片方。

「ごめんね、せっかくお話ししてたのに。」

燭台切光忠がそう言ってまたかけると思うけど、許してあげてね、仲良くしてあげて?と告げられた。長船の祖であるこの刀に、そう言われると何故がこそばゆく感じる。

「いや?大した用でもなかったんだろうしね。ふふ、いや可愛いところあるんだね、彼。」

「うん、特に君に対してって、感じかな?」

「ははっ、それはいいね」

またねと、言われて電話が切れた。そっちにも俺がいるんだろうな楽しそうで何よりだ。少し落ちていた気分が軽くなる。

____


隣でトランプタワーを作っていた山姥切長義(甲159)がその一番上を載せようとした時に電子音が聞こえた。その振動で無残にもトランプタワーは崩れ落ち、彼は死んだ目をしていた。3時間を無駄にした瞬間である。俺はそれを無視して電話を取った。


「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だよ。担当は乙158個体、山姥切長義だ。」

「ッヒィ…!?!?アッあーっ、政府?政府だよねっ助けてくれ刀に襲われる」

かなり動揺しているようだが久しぶりに審神者から電話がきた気がする。そういえばこれはそういう用途だった。

「審神者殿か。今どこにいる?」

「俺の部屋結界張ってるんだがっ、うわっ、ガンガンいってる殴ってるこれ殴ってるよ、誰だお前打撃おばけかテメェやめてェ!お願いだからぁ!やだよぉ!」

「結界を二重に、管狐はそこにいるか?」

「おりゃあっ!二重にしましたよッ!あぁっこんちゃんはスリープ中なんだよ!疲れて寝てる!」

「不味いな君、刀に殺意抱かれるようなことしたのか」

なぜあの狐は大変な時に寝ているんだ。気合で起きろ。

「こっちが聞きたいよ!なんであんな切れてんの!?助けてよ!」

「ちなみに誰が結界を破ろうと?」

助けろと言われても電話越しじゃできることも限られている。

「三条だよ!石切丸ぅ!やめてぇ!岩をもたたないで!!やめてぇ!!!!」

「あぁ〜…あぁ」

よりにもよって三条派か。これは結界なんて直ぐ破られるな。しかしそんな荒いことをするように思えないが。…温厚な性格の者が怒るのは滅多なことが起きた時なのでは?この審神者よほどのことをしでかしたか?

「終わったみたいな声出すなよ!!助けてよ監査官!」

「俺は青狸じゃない」

「クソォ〜!!色合い的には超ビンゴだろうが!四次元マント監査官!」

誰がだ。それは看過できないぞ。二度というな。俺も怒るぞ。

「何したか分からなければ、君を助けようがないんだが。刀と話をしたいな…君が分からないならこちらから聞き出すしかない。」

「わかった〜!でも話すにしてもなァッ!」

「管狐を結界にぶん投げればなんとかなる」

とにかく起こせその狐。そのための式神だろう。

「雑ィ…仕方ないか、こんちゃんこんどは俺の味方してよ!!頼むからね!!」

どが、と嫌な音がした。この状況でグースカ寝てた同僚の管狐を許せるほど俺は優しくないがそれはまた後にしよう。

「はぐっ…!?おはようございます主〜どうかお考え直しを〜審神者を止めるなど仰らないでくださいませ〜!」

「原因それだね」

それ以外に何があるのか?それしかないだろう。大事なことはちゃんというように。報連相は社会人の基本だぞ。

「うそぉ!だって俺慕われてないし!なになにみんな俺が辞めるって言ってるから怒ってるの??やめさせてよこんなクソブラック企業!現世に帰ってあわよくばめちゃカワで若い女子と結婚したい」

審神者はもっと謙虚になってくれないか。きみは追い詰められているのか能天気なのかどっちなんだ。お花畑か?

「主?寝言は寝て言いなさい、君みたいなモッサリした男に若い子が引っかかるわけないでしょう。良いかい?君の仕事ぶりはわかっているが。期限に間に合わないと怒られるんだよ。わかるだろう?早く仕事をしないと。みんな手伝いしてくれるってほら、ね?」

石切丸が容赦なくド正論をぶち抜いてくる。やめろどうしてオーバーキル気味に罵るんだ。やめてやれ。逆効果だぞ。

「やだやだ!!、!辞める!!!!辞めるんだ!!ねぇ!監査官!俺ダメダメ審神者だからやめさせて!不可でしょ!」

子供の駄々に付き合いたくはないんだが。まぁ一応やめたいのを握りつぶすのは良くないことなので、形式だけでも執り行うか。

「……本丸番号は?」

「775115だよ!」

モニターの方に本丸番号を打ち込んで成績を表示する。他の審神者と比べても、申し分ない。同期よりは少し戦績が良いか…?刀も十分に集めているし、資材も蓄えがある。

「多少書類に雑さが見えるね、まぁ提出しているだけマシだが。他の成績は申し分無い。総合して中の上くらいかな」

「うそうそ!うそだ!!やーめーるー!」

褒めてもダメか。いやこれはもう人の話を聞ける精神的余裕を失っている。仕方ないな奥の手だ。悪く思うなよ。


「君、そう言うけれどそのあと刀がどうなるかわかっているのかな」

「え?えぇ?」

「政府預かりになるにせよ他の審神者が着任しようにも刀が拒絶すればだいたいはそれで破断する。そうなれば刀たちは何を望むかわからないか?」

「あ、いやでも、その、みんなが他の人選べば良いんだろ?そうするんじゃないか?」

「刀として政府の役人として。君のような審神者が辞めるのはとても惜しい事だ。どうしてもやめたいのなら全ての刀を納得させてからにしなさい。君が本気でそう望むなら刀も叶えてくれるだろうけど」

「けれど、君がそんな言い方をすればー必要ないのかと憤る者だっているよ。きみは刀をどう思う?誰かのものになったり、もう会えなくなっても良いのか?」

「そんなこと思ってないよ、みんなかっこよくて強くておれは、みんなのこと大好きだし、大切だ、あれ、なんでやめようなんて…いやいやでも!やめる!!!やめる!やめないと、」

慌てたような声がして少し流れが変わる。審神者殿はかなり気が動転しているらしいが。

「…君に出来ないことが刀にできるように、刀に出来ないことが君にはできる。刀と寄り添う心があるうちは俺たちは君の味方であり続けるさ、なぁ、少し落ち着いてもう一度考え直してみないか。きみあまり寝てないとかそういうことはない?」

「はい…そーですけどっ!もーほんと、なんかダメなんですって!」

「ストレスも溜まるだろうが、きちんと寝て休息をとって息抜きしなければね?きみは俺たちを治せるが、俺たちはきみを治せない、言いたいことわかってくれるか?」

「それは、そうだけど」

「責めたつもりはないよ。なに、よくある事だよ。きみが辛かったり苦しかったりするのは何もおかしいことじゃない。誰にだって起こりうることなのさ。」

「相手が強硬手段に出る前に電話してくれて助かったよ。間に合ったと言える。きみの状態はよくわかった。回復するまで休暇を取る必要があるが…原因は大体察しがつく。もう何も心配いらないから、少し眠ってきなさい」

「え?」

「さ、籠城はこれでおしまいにしようね、あるじ。近侍の言うことは聞いておくものだよ」

がたがたと戸を引く音がして声が聞こえてくる。石切丸だ。近侍だったから、ここまで暴れたのか。…まぁ俺が審神者の気を引いてる間に結界を壊すくらい造作無いだろうね。狼狽える審神者の声とはあるじは昼寝だと笑う三日月宗近たち、三条の刀の声が遠くからする。そりゃあ敵わんだろう。三条だぞ。理由はそれだけで済む。

「話は聞こえていたかな」

俺がそういうと答えたのは石切丸だった。端末を取って彼だけその場に残ったらしい。

「あぁ、すまないね、ここまで大ごとにするつもりはなくて。いつも締め切り前になると引きこもるんだ」

「その事だが…。少し審神者殿には政府職員との話をする機会を設けたい。思いつめた人間はなにをするかわからないというのもそうなのだが」

流石にあれはメンタルケアが必要な部類だ。本当に続けられないなら本丸から離れることも考えなければならないが。

「……今回は酷かったが…少し気が動転しているどころじゃなかったみたいだね。私もそれが良いとは思う…」

「あぁ、何かあるんじゃないか?……一応調べておいたほうがいいかもしれない、健康診断みたいなものだ。」

だからと言ってあそこまでの動揺の仕方はおかしい。彼は途中で、「どうしてやめようなんて」と言った。やめたいという気持ちに駆られているのは「外的要因」なのではないか。

「…こんなことは今までなかった。ただの疲れならばそれでいいのだけど…主のいない間に部屋を改めるのはあまり褒められたことじゃないか」

「背に腹は変えられない。見覚えのないものとかあとは君の感だね。神刀らしく何かわからないか?」

ガサガサと扉を開け閉めしたりする音がして、捜索し始めたらしい。管狐も付き合っているらしいが、部屋が汚いです〜!とか何とか言ってるだけのような気がする。気のせいか?

「石切丸さま!!これ!こんのすけこんなのみたことありません!趣味悪いですね!これ!」

「何かあったんだな?」

こんのすけがギャンギャン喚く。政府にも!と写真データを送りつけてきた。何だやればできるじゃないか。今度会ったら揚げをごちそうしよう。優判定だ。写真の方はまだ見たことがないタイプだが呪具の類だろう型は似ている。

「触らずに政府職員が来たら引き渡してくれ。すぐにその部屋を封鎖してくれるか。申し訳ないがサンプルが欲しいから破壊はしないでくれると有難いんだが」

「あぁ、良くない気が漂っているが。なるほどね…わかった。私も部屋を出るよ。…壊したら困るんだよね…今すぐ祓いたいんだけどなぁ?」

「すぐに!政府職員が向かう!もう少しだけ耐えてくれ、結構気が短いよね?まさか勢いに任せて破壊してないよな?」

管狐なんとかして抑えてくれ!お前だけが頼りなんだぞ!

「ははは〜なんのことかなぁ。知ってる?私のいる神社のあたりはね、河内なんだけどさ…」

「ヒェ」

管狐の悲鳴が聞こえた。嫌な汗が止まらなくなってくる。

「何故今その話を!?おい、知らないとでも思ったのか!?河内弁って言ったら関西の中でも怖いので有名じゃないか!石切丸に河内弁で罵られたら誰だろうが一生消えない心の傷が残るだろう!まだ本丸に配属もされていないうちにトラウマを作るつもりか君は!」

「みんなそう思うんだ…傷つくなぁ??」

「モウニドト、石切丸サマ分のいなり寿司食べません」

「管狐ェ!君はそれでも政府の使いか!?人のものを食べるから怒られるんだぞ!もしかしなくても河内弁でブチ切れられたな?」

「えぇ?そんなに嫌かい?はははっ」

「嫌に決まってる。管狐がトラウマになるようなものを聞きたいわけないだろ!」

「…そんなに怒ったつもりはなかったんだよ?でもほら、最初が肝心だからね?なにごとも。おっと、役人がついたようだね。きちんと引き渡すが…まぁ、多少のいたずらは見逃してくれるよね。政府の監査官殿?」

「俺は何も聞いていない、いいな管狐」


「こんのすけには後でとっておきをあげるから、ね?」

「は、はぐ〜〜」

コイツきっちり買収されてやがる。切る直前に聞こえたそんな言葉を俺は知らないフリをした。

御神刀のいたずらってそんなの天罰じゃないのか?流石に口に出せるほど愚かではなかったが。

_________________________________________

「乙158君、コレなのだけれどね」


いつも通り政府の役人がやってきてお菓子を手渡してくる。貢物を受け取ると他に用件があったらしかった。

「このあいだの石切丸さんの、ほら、覚えてる?」

「もちろん。それで?」

「前に話してたでしょう?ほら、呪具をうりつけてる奴らがいるってさ。いやぁ、ね、ほんと、怖かったよ。なんだかもうヤバイとしかいえない。詳細はとてもじゃないが言いたくないがとにかくアレはもう心配ないから」

「…天罰か?ははは。呪詛返しだろう」

「うん、あの本丸の子に呪具を送りつけた子はもうほんと大変なことになってねまぁ、死んではないけど、審神者業続けるにしても座るの辛いだろうな」

「え?」

座るのが辛いって何したんだよあの刀やっぱり怖いな。

「あっいやー何でもないよ!とにかく芋づる式に検挙できたよ!あとは流通した分を見つけて仕舞えば終わりさ!きみのおかげだ。本当に優秀だね!本丸配属される日も近いんじゃないかな」


「はは。どうかな。ほとんど石切丸さんのおかげだろ?俺はまだだと思うけど。あぁ、それとお菓子いつも悪いね。君が持ってくるものは美味しいから楽しみにしていてね、ふふ。」

「いやいいんだ。君たちのためにお菓子買ってるとこのお金有意義に使えた感じがしてハッピーだからね!まさにWIN-WINの関係さ!」

「変わった人だなぁきみも」


今日のおやつはマカロンだった。



____

先ほどもらったマカロンを口に入れる。驚くほどに甘い。何だろうこの味はよくわからない。他の山姥切長義も「これはうまいのか?」「ひたすらに甘い」「甘い」「嫌いじゃない」「正直かなり好き」などとざわざわ話している。わかる。よくわからないけど正直かなり好き。

ごくり、と飲み込むとまた電話が鳴る。とりあえず近くにあったコーヒーを飲み込んで電話にでた。


「こちらは、政府直属、審神者緊急連絡所だ。担当は乙158個体、山姥切長義。…それで、」

「あぁ、久しいな」

その返しですぐにわかった。前にもかけてきたやつだと。

「また君かへし切長谷部!いい加減にしろ!というかまさか俺を簀巻きにして見捨ててないだろうな!」

前にそんなことを話していたのを思い出した。

「あぁ?そんなことできるわけないだろう?」

「どうして俺がおかしいような言われ方を…解せない」

「まだ付き合ってないなら、何をすればいいんだ?もう俺は限界なんだ」

「そもそも本当に好きあっているのか?本当に?気のせいだろう?まあ確かにあの刀との付き合いは長いが…それだけ、だ。」

「いや、甘ったるい声をしている。本当に。自覚がないのか?」

うんうんと、なんども頷いたような声を出して彼はそういった。

「聞きたくない…聞きたくない…もう切ってもいいか?」

「いや、参考に聞かせてもらいたいのだが、本当にありえないのか?お前という刀のなかに、南泉一文字への想いは少しも?」


「…俺にあったとして、全ての「山姥切長義」にもあるとは限らないんだ、それくらいわかるだろう?感情とはひどく不安定なものだというのは、お前たちの方がよく知っているはずだ。」

少なくともこの場所で居場所を待っている俺たちよりは。


「あぁ、もちろんそうだろうが……な。…悪い、燭台切が呼んでいる。そろそろ夕餉だ。」

「それは良かった。くだらない要件でかけるのはやめてもらいたいのだが」

「いや、それがそうとも言えないんでな。うちの南泉一文字はわりと参っているものだから、俺も流石にどうにかしてやりたかったんだ。…まぁしかし、俺の気のせいだったのかもしれんな。…では、山姥切長義。またな」


「あぁ?」

「絶対両思いだろう?まぁ性格上素直になれないのは、俺もよくわかる。が、早く降参したほうがいい、じゃなきゃ揺り返しが、なぁ?あぁいう、まともぶった奴は特に危険だ、俺は知ってる…痛い目を見たからな。」

「そう思うのならお前の本丸の俺にそう言ってやれ」

それなら本人にそう伝えればいいのにとぼんやりそう思った。そちらにいる「山姥切長義」にだ。俺に言っても仕方ない。

電話を叩きつけて席を立った。だから俺はその後の言葉は聞こえていなかったし、知る由もなかった。





[いいや、俺の本丸には山姥切長義は居ないんだがな]





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ここに来てからどれくらい経ったかわからない。何せここは時間の感覚を掴みにくい。呼び出されるようなヘマはしていないはずだが、俺を呼び出すなんてよほどのことだろう。山姥切長義は基本的にそういう扱いだ。他の刀のとの交流はあまり持たない。それはまぁ、その、山姥切国広とのことがあるがあまり表立ってあの刀だけ会うなというと、だな。角が立つだろう。立つな?わかるだろう。

応接室までフードをかぶって出向く。扉をノックするとどうぞと声がした。聞き覚えのありすぎる声だった。

山姥切長義がそこには居た。

「呼び出してすまない。おれがそちらに行くべきところだったがダメだと言われてしまってな」

見覚えのある仕草にふっ、と息を吐く。少しの間だけ一緒に仕事をしていた。…彼は俺よりも前に顕現され、先に監査官として本丸へ出向き、そのまま配属されたはずだ。つまりは先輩とも言えるか?この様子では何も覚えてないらしい。

…主がそう望めば山姥切長義の記憶は顕現されて少しの間研修を受けすぐに監査官となった、と言うふうに書き換えられるというか、丸々抜け落ちる。

「……先日世話になったから、どうしても君と話がしたかった。」

山姥切長義はそう言うとおれに座るように言った。テーブルを挟んだ向かいのソファに座りフードを脱ぐ。

「あの子がどうしても話したいと言ってもダメだの一点張りでね、政府も頭が硬い。仕方ないから、こうして俺が来た。俺ならばギリギリ許可が取れたから。」

「…あの子」

俺がそう呼ぶとしたら。


「……君がいなければきっと折れていた。俺も山姥切国広も。…なんと言えば良いかわからないけれど、話もしないのは筋が通らないだろう?…だから。礼をね」

そう言われて直ぐに思い至るのは、役人を呼んで欲しいと電話をしてきた山姥切国広が初期刀の本丸だ。俺が折られると、そう言っていたあの子。

「律儀なことだ」

「…まぁ政府預かりで暇なうちにね」

「本丸はどうなった」

「…謹慎処分中だよ。主は、俺と話をしてくれた。…少しずつだがやっていけそうだよ。簡単な道ではないが、それでも主がそれを選んだんだ。」

刀への不当な扱い…それに対する処罰は決して甘くはない。…それも刀の嘆願があれば多少の情状酌量の余地はあった筈。しかしひと月も存在を隠され折られかけたのにどうしてそこまで、と口にしかける。簡単に聞いていいものではないとやめた。

「………気になるだろうな。そりゃあ自分の事だ。だから話したかった、君が本丸に配属になる前に、知りたいだろうことを」

そんな俺の思いをくんで、彼、「山姥切長義」は話を始める。俺の目を見て。目の前で。

「なにも主は悪人ではない。善良な、模範的な審神者だ。だからこそ本丸を支えた「彼」を、侮辱する俺が許せなかったと言うか、認めるわけにいかなかった。」

「俺を認めることが「自分の初期刀」を認めないことと同列だと思ったんだそうだ。俺はそんなこと思ってはいないのにね。ただ、俺はこの在り方を易々と手放せないだろう?だって俺は「山姥切」なのだから。」

同位体、同じ源流を持つ彼はそう告げる。その言葉は確かに俺と同じものがある。相反して矛盾して無茶苦茶でも、俺は山姥切国広という刀が認められるのが、あの刀が強く「山姥切」であると言われているのを分かっているのと同じくらいの熱量で、俺が「山姥切」であるという矜持を持ってこの世界に落ちてきた。……ただ、それだけのことだ。

「……だから、迷わないで良い。俺の在り方を認められない審神者なら、「自分を政府に送り返せ」と言ってやれば良い。俺は出来なかったからあぁなった、自業自得だ」

「折れることしかできなくても、俺はあの人の元で、あの人を守りたいと本当に思った。あの本丸を守りたくて、あの本丸の在り方が俺は、特別好きなんだ。暖かい陽だまりみたいで、さ。上手くやれないものだね。」

そうやって困ったように笑う「山姥切長義」はどうしょうもないくらいに、「山姥切長義」らしい刀だと思った。

「……いや、元気ならそれで良い。あの本丸でやっていくのか…。何かあればまた電話をかけてくれば良い「俺」が出るとは限らないがな」

「あぁ。君だっていつか、どこかの本丸に行くことになるのだろうしね」

そういうと、彼はスッと立ち上がる。

「長話をしてしまったね。君の懸念材料になりたくなかったんだ。もう一度だけ礼を言わせて欲しい。ありがとう君のおかげでここにいる。俺たちは君を、同位体として、山姥切長義として誇りに思うよ」

「……そう、か。役に立てたならよかった。」

「じゃあね」

横切る彼のマントがひらひら揺れる。腰に帯びた刀がやけに目に付いた。

「…なぁ、最後に1ついいか」

「なにかな」

「今度は、君とも話したいな。無事でよかった」  

そう立ち上がって彼の刀に触れて言うと「山姥切長義」は何でもないように返した。

「ふふっ、なんのことやら。ここには山姥切しかいないだろう?」

「あぁ、そうだね」


その刀は確かに、山姥切だ。それ以上の追求はあまりにも無粋だった。


「君達が、より良い明日をすごせるよう祈っている」

部屋を出ていく彼らは目を細めて彼は笑っていた。あぁ本当に俺という刀は無茶なことをしてみせる。

_________________________

いつものように目が覚めて、顔を洗い身なりを整える。昔はこの部屋も資料室にして眠る時は刀の姿になって「スペースもとらないしいいな」などという生活をしていた時期もあったらしいが、役人がそれを見て気絶しかけて辞めさせられたらしい。そういう経緯があったこで、人並みの生活を送るように言いつけられている。俺が来る前のことにしても…まぁ、俺らしいから仕方ないのだが。

「君たちは人の身を得たのだから…そんな生活させてるなんて他所にバレてみろここのトップのクビが飛ぶ、つまり俺!君たちどうせ君たちの体が心配だなんだ言っても聞かないんだろ!頼むから俺を無職にさせないでくれ!」

そういう嘆願があったとかどうとか。いつも隣に座っている甲159が言っていた。あいつも俺より長くここにいるな、なんて考えている間に準備を終えて仕事場へ向かうとは言っても扉をあけてすぐ隣だ。

「乙158くん良かったですね!ほらこれ!」

役人が俺の席で待ち構えていて封筒を渡される。

[監査招集]

その紙にはそう書かれていた。

____________

山姥切長義には二つの道がある。監査官として本丸を調べ、基準を満たすことができた場合に、その本丸の刀となる道。そしてもう1つは監査官にはならず、そのまま政府に所属し続ける道。

迷いはなかった。

「……行くんだな」


隣の席の山姥切長義(甲159)は感慨深そうに俺を見た。

「…君は、」

「俺はもう暫くここにいるさ。ま、もし君が本丸配属なったら俺にかけて来ればいいさ。愚痴くらいは聞いてやる」

「君も酔狂だな。でも俺が覚えているとは限らない。俺は審神者殿…主になる人に望まれればきっとここの記憶を手放すよ」

「…君には忘れたく無いものがあるんじゃ無いのか?」

「どうだったかな」

忘れたく無いもの。会ったこともないくせに、なんて言われても確かに俺は電話越しにあの、南泉一文字と話す時間が確かに心地よかった。だけどそれも…、もう終わる。

俺は長く過ごしたその部屋を出て、集合場所に向かう。フードをかぶり歩く廊下はやけに静かだった。まだ朝一番だし当たり前かもしれない。部屋の前についてノックすると山姥切長義ですね、入ってくださいと中から声がする。

殺風景な部屋に転送するための狛狐と役人が立っている。いつものヘラヘラとした彼がぴっちりスーツを着込んで丁寧に俺に語りかけた。隣に護衛なのか物吉貞宗がにこりと微笑んでいる。

「いつも彼がお世話になっています。護衛担当の物吉貞宗です。」

「あぁ。よろしく。はじめてくれるかな」

「では、まずこれは政府から君に最後に送られる端末だ。監査する本丸の戦績を調べ評価を下すのに必要な機能が入っている。半年もすれば勝手に電源が落ちるがそれまでは緊急通報と強制的に政府施設への帰還が可能なものだ。この存在は君以外に通知しないように。」

「それは」

「…保険だよ。君がこれを使わないで済むよう願う。では、いってらっしゃい。あの部屋に行って君に会えなくなるのは寂しいけれど。君の門出を祝福するよ」

役人はそういうと転送機を起動し淡い桜色の光が部屋を包んだ。

「貴方に幸運が訪れますように」

柔らかい物吉の声が浮遊感とともに聴こえて目を瞑った。

_


たどり着いた場所に間違いはなく現時点でなんの不具合もない。本丸へと足を踏み入れると足元を何かが横切った。

「わーっ!?監査官殿ォ!鳴狐ェ!!!鳴狐!!監査官殿が!!」

門から広がる広い庭園の池を覗き込んでいた鳴狐(本体)はスタスタこちらに向かって歩いてくると「いらっしゃいませ?」と首をかしげる。静かにパニックを起こすなわかりにくい。

お供の声を聞いたのか騒がしいなとかなんとか刀たちがこちらに向かってきて、監査官だーとかなんとか言いはじめた。後ろの方からバタバタと足音がして審神者がやってくるのが見える。

「えっ!うそでしょう今!!?私寝起きなんですよ、ちょ、っと着替えて来ていいですか!?」

その男は跳ねた前髪を気にしながら寝間着のようなジャージを着ていた。審神者としては確かに少しだらけ気味の服装だが、着替え前なのだろうし気にしても仕方ない。

「いや必要ない。伝達事項だけ先に告げさせてもらう」

一通り伝達事項だけ伝えると、審神者はどうしていまなんだ〜、とかなんとかと嘆いていた。

「あと1時間あれば……あぁ!監査官殿お茶飲みます??あとは甘いものとか!」

「…悪いが遊びに来たわけではないのでね」

「すみません!」

「とにかく、伝達事項は以上だ。現地で待つ」

俺がそう言うと刀たちの隙間からふわふわとしたピンクの髪の毛が揺れて俺の目の前に現れた。

「あの!」

「…?」

秋田藤四郎は俺の手を取るとぎゅっと、何かを握らせた。

「待っててください。必ず行きますから!」

「あ、あぁ」

政府に渡された端末を起動し転送をはじめる。何を渡されたのかと手を開くと見慣れたミルキィの飴玉があった。

「遠足の酔い止めか…?お人好しだな」

役人がよく乗り物酔いには飴を食べていたとか言っていたのを思い出した。確かに転送の浮遊感は酔いやすいし、慣れるまで時間がかかりそうだった。

__________

「来たか」

「お待たせしました!」


現地での戦績は上々。編成は隊長秋田藤四郎極以下、加州清光極、燭台切光忠、へし切長谷部極、五虎退極、鳴狐極だった。本丸を初期から支えている刀という印象を受ける。

「…早く攻略するぞ。来れなかった奴が文句を言いはじめる前にな」

長谷部がそう言うと加州がむすっとした顔をした。

「急ぎすぎても仕方ないでしょ。撃ち漏らしないようにね。」

「あぁ?」

「ほらほら喧嘩しないで行こう」

「仲良く、」

燭台切と鳴狐が2人を諌めると隊は進軍を始めた。俺は別の位置から隊を観察する。連携も良く取れているし、この分であれば敵も倒しきれるだろう。

端末のカウンターが次々と増えていくのを眺めながら彼らの様子を伺った。彼らはすぐに洛外を攻略し終える勢いだった。


少し落ち着けそうな室内で彼らは話し合いをしていた。話を近くで俺が聞いているとは気がついていない。悪いけどこれも仕事だ。どう思われようが知ったことではない。

「今日の進軍はここまで、だって。なんだか慎重だねいつもよりも」

加州と長谷部が話しているようだった。

「普段とは違う様相だから、監査に利用してる戦場とはいえあまり一気に進むのは敵を煽り、一挙に攻められかねないと言うところか?…かったるくて性に合わないな。」

「長谷部ほんと短気だよね」

「あわてすぎはいけません!きっちりと敵を倒して早く監査官さんに本丸に来てもらいたいです!」

秋田藤四郎がそう言うとそうだね、と燭台切と鳴狐が同意して声を出した。これ以上は監査対象ではないかと街を見渡してみる。次の朝までは動きはなさそうだと判断し多少の休息をとることも考えたが寝る必要もないしそのままぼんやりと星空を見ていた。

なんとなしに秋田から渡されたミルキィの飴玉を口に含む。

「甘い、なぁ」

覚悟はもうとっくにできている。俺はそのために顕現したのに。どうしてもう一度話しておけばよかったかなんて、そんなことを思うのだろうか。あの南泉一文字は、俺を探すだろうか。

「馬鹿らしいな」

日が昇り始め、隊が再び動き始める、今度こそ洛外を攻略した彼らは次の洛内へと進むようだった。本丸には戻らずにこの隊でやり遂げるのかもしれなかった。

________________________________________________

監査はつつがなく行われ、彼らは無事に本丸を攻略し、撃破数も申し分ない戦績を収めた。

「期待以上の成果だ」


「ッ」

やりました!と嬉しそうに笑いあっているのをみてどこか穏やかな気持ちになった。

「では帰還するといい。」

桜色に包まれて浮遊する彼らを見守る。

「本丸で皆さんと待っていますから!」

秋田藤四郎はどうしてか俺に懐いているような気がした。いや、単にああ言う刀か。

端末に結果を入力し政府に提出するとそのまま本丸に着任するようにとの通達があった。そしてその文言の下にも文章は続いていた。

「審神者殿は今のままの君を望んでおられる…だって?珍しい人だな政府の記憶持ちがいいとはね」

端末が最後の仕事だと告げている。監査官として、政府の刀として。この記憶を持っていけることがささやかな支えだった。もう電話に出ることはない。あの南泉一文字と話すこともない。あるとしてもそれはもう別の「南泉一文字」なのだろう。それも、当たり前のことだ。きっとあたらしい世界が広がってゆくのだろう。そのことに少しの寂しさを覚えた。

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本丸に送られた「山姥切長義」は一度刀の姿に戻り審神者が顕現させることにより確かな縁を結ぶことになった。本丸中でも近侍がいる部屋に顕現された俺を見るなり秋田藤四郎が声を上げる。

「やっとですね!」

「うん。そうだね。山姥切長義さん。広間で君を待っているから行ってあげてほしい」

主にそう言われてよくわからないままに、秋田が俺の背中を押して、進むように促した。

「?え?あぁ」

バタバタと廊下を走って今度は俺の手を引いていくものだからついていくしかない。長い廊下には連絡のための黒板があった。虎くんのご飯は足りてます、とかよくわからない文言が見えた。それの上から献立を貼っている歌仙が今日はご馳走だよ?と声をかけて来るのに「あ、あぁ」とマトモに返事をする暇もなかった。

「早く行きましょう!」

廊下の端で座り込んでいた刀につまづきかけて「すまない」と謝ると堀川が黒板近くの黒電話で電話をしているようだった。本当にここで暮らしているんだと、どこか夢見心地のままに、俺は引っ張られていく。

「慌てすぎだろう」

「ずっと待ってたんですから少しくらい慌てるぐらいでちょうどいいんです!」

そんなに待ちわびられるほどのことをした覚えはないのだが。やっと着いたと、秋田がいってここで待ってますから!どうぞと促されるままに広間の扉に手をかけた。一気に開けるとぶわりと花が舞う。青い花と、桜色の花。

「よう、久しぶりだ、にゃあ。山姥切」

柄にもなさげに綺麗な青の花束を持った南泉一文字がそこにはいた。

「待ってたぜ」

押し付けられた花を見る。青い薔薇の花束。初めて見たな、とそれを受け取った。

「君が?はは…そんなに俺を待ちわびていたのか?」

じわり、と胸を締めつけるような痛みともいえない感情が広がっていく。頭はいつまでだって答えを探して演算をしている。

「…やっぱり思った通りだ、お前に青い薔薇はよく似合う…にゃ。」

俺にそう言った刀は、一振り。あの電話越しの南泉一文字は目の前にいるこの、「南泉一文字」だって言うのか?ほんとうに?そんなことが?

「ずっと待ってたんだ。俺にとってのお前と言う刀は奇跡に他ならない。俺とお前は縁があったってことだろう、にゃあ。どう思う?教えてくれ。俺の勘違いじゃないよな?」

そこまで熱烈に言われて何も思わないほど馬鹿じゃない。あぁ、コイツは俺がもう会えないと思っていたあの南泉一文字だ。もうわかった。わかったから。

「…もう十分だろう、他の刀にも挨拶に行かないと…ッ」

振り向いて広間から逃げ出そうとすると後ろから抱きしめられる腰のあたりに手が回って肩に顔を乗せるような体制になって話しかけられる。拒もうとは思わなかった。

「ずっと、会って話がしたかった。もう少しくらい俺が独り占めしたって誰も文句言わねー、にゃ」

「君なぁ!」

「こんだけ好きなんだからそれくらい許してほしいもんだがにゃあ」

「あ〜クソっ、なんなんだよもう」

そう言うことをさらっと言ってのける。電話では何も告げずにだらだら世間話だけしていたくせして。そんなこと言われてこっちはもうキャパオーバーだと言うのに。

「嫌いなのか?にゃ?」

ボソリと不安そうな声が落ちて、それを放っておけるほどに俺は冷静でも冷酷でもなかった。よくよく考えたらこの刀がそれくらいの計算高さがあるのことなんてわかりきっていたのだが。

「ッ〜あぁ!!!嫌いならとっくにぶん殴ってるに決まってるだろ!」

「もっと可愛く言えねーのかにゃあお前は」

「生憎とな!」

「まぁそう言うところが可愛いってことかにゃ」

満足げな南泉一文字の声を聞いて、顔に熱が集まってしまっている気がした。あぁほんとうにどうしてこんなことになったんだ。

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山姥切長義は本丸着任初日南泉一文字と付き合い始めるという本丸新記録を樹立したと秋田の秘密ノートに書き込まれていたと言うことを2人はまだ知らない。

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黒電話を回して電話をかけることにしました。個人指定の掛け方はこっそりと彼から聞き出していたので知っていました。328110♯158。黒電話の掛け方はいつまでたっても慣れないけれど、それでもどこか楽しくて。

数回の呼び出し音の後にプツリと切れました。それは当然のことです。「この番号は現在使われておりません」と聞こえて驚いて振り向いたら貴方がいるのだから驚きもしますよ。

夜に目が覚めて少し遊びたくなってしまっただけなんですよ?本当ですって。

だってみんな貴方に電話をかけていたのに。私だってかけたかったんです。

そんなこと言われてもって、それはそうですけれど。じゃあ何を話しましょうか。…だって聞き上手なんでしょう?私の話も聞いてください。ちょうどいいですし、この本丸の話をしましょうか。



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この本丸が出来てすぐの頃のことです。

私は霊力を使いすぎて、不安定になり刀を顕現できませんでした。それを誰にも言えずどうすればいいかもわかりませんでした。刀との関わり方も、情が湧けば作戦に支障を来すと考えてして来ませんでしたから、余計にそうでした。

そんな折突然と政府の役人がやってきて健康診断をすると言われたのです。なんのことかと思ってしかし私はそれに従うしかありません。その結果私は本丸での活動を停止せざるを得ませんでした。

顕現できなかった刀も一度政府に預けられ、検査を受けることになりました。どのような状態になろうと、うちの刀だから、回復したら顕現させますと言うと、役人は困ったように

「念のための検査ですから、そんなに怖い顔しなくても取り上げたりしません。必ずお返ししますよ」

と言ってくれて、私はひどくそのことに安心してまた眠りに落ちました。とにかくそのことで刀には迷惑をかけ、皆に「無理をするな」と言われて休まないということも非効率だと理解しました。

初期刀の加州清光さんは泣いて「もうそんなことしないでほしい」と言いました。初鍛刀の秋田藤四郎さんは「主君。」と私の手を取って縁側で一緒に日向ぼっこをしようと笑いました。

私は霊力を回復するまで休業する中で、どうしてあんなにも急に政府の役人がこの本丸にやってきたのかと考えましたが、私にはわかりませんでした。こんのすけに聞いてみると「さあ」と口をもごもごさせるばかりで何も聞けずじまいでした。どうしてもと頼み込むと「虎が太ったからだと聞きましたが」とだけ教えてくれましたが、私もそう思って虎さんにご飯をあげないようにしていたし、結局わからないままでした。

体調も戻った頃、一週間ほどした時に件の刀は本丸に帰ってきました。自分の体調を確認する意味も込めて顕現させるとその刀はきちんと私に言葉を述べて主と呼んでくれました。

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多くの本丸の節目を迎える時期に、私たちはまだそこまでの長さはともに歩んでいないものの、それでもちょっとした区切りだということで、私は初期刀の加州清光さんと政府施設へと研修へ向かいました。

それも無事につつがなく終えて、本当ならば何かしてやりたかったのですが私は何も思いつきませんでしたから、いつもありがとうと、彼に告げて本丸に帰還しました。彼はとても喜んでくれたので今後はもう少し言葉にするべきかとも反省はしましたがなかなか実行できそうにもありません。

本丸に帰ると風呂場のあたりからお供の狐さんの叫び声がして加州清光さんが慌てて走って行きました。私ではとても追いつかなくて、やっと着いた頃には加州清光さんが「そうじだぁ!」と叫んでいました。

泡まみれの鳴狐が「ごめん、ね」と首を傾げてしょんぼりと落ち込んでいたので「構いませんよ失敗誰でもしますからみんなで綺麗にしましょう」と言うとこくこくと頷いてくれました。そこからは1日洗濯機から出てくる泡と戦いましたが、狐を連れているから普段洗濯当番には当たらない彼がどうやって洗濯機を止めたのか聞きそびれてしまいました。
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最近「彼」がよくいなくなるのだとへし切長谷部さんが愚痴をこぼしていました。私はたまにふらりと台所に行っては燭台切光忠さんや歌仙兼定さんにお礼をこっそりと言うのですが(やはり感謝の言葉くらいは必要かと思って)2人とも私がそう言うと動きを止めて顔を抑えてしまうので、もしかしたら言い方が悪いのかもしれません。ともあれ珍しく台所にいたへし切長谷部さんが「彼」の事を話していたので2人と一緒になって聞いていました。

「主はご存知でしょう?黒電話の上の番号にかけると山姥切長義が話を聞いてくれると言うのをー」

あれは緊急の連絡先というか現世でいう軽めの110番だと聞いていたのでまさか刀剣男士が出るとはよく知らなかったので、そう伝えると、3人とも驚いていました。それならば彼が電話したくなると言うのも分かる気がして、そっとしておいてあげましょうと言う話になりました。彼には私の不出来なあまりに苦労をかけましたから、それくらいの息抜きは必要でしょう。

「君も何かあったらかけて見たらどうでしょうか。私にはわからないこともあるでしょうから」

そう言うとへし切長谷部さんは、よほど気が滅入ってきたら使うかもしれませんがと答えました。

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彼が私の部屋の前でへし切長谷部さんと燭台切光忠さんと3人で話をしていたので、こっそりと部屋の中から話を聞きました。彼は、真剣に悩んでいました。

刀姿ではあったが初めて会った時、話しかけてくれたこと。電話番をしていると五虎退に聞いて、かけてみたら彼が出たから驚いたこと。ミルキィの飴玉などの甘いものを好んでいること。一目惚れなのだと、そう優しく彼は笑って話していました。燭台切光忠さんが「この本丸に来るのなら「彼」がいいね」と言うと来るかなぁ、と、優しい声で、焦がれるような声でそう言いました。へし切長谷部さんは「さっさと告げて仕舞えばあっちから来るんじゃないのか」なんて、せっかちな事を言って、彼はそれを聞くと「そんな簡単な刀じゃない」と答えていました。

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平穏な日々を過ごしていたある日、燭台切光忠さんとへし切長谷部さんが私の部屋に来ました。折り入って話があると言われてゴクリと生唾を飲み込みました。彼らは初期から本丸を支えていましたから、もしかしたら初期刀や、初鍛刀の彼らでは言いにくいような事があってそれを告げにきたのだろうかと私は姿勢を正して彼らの言葉を待ちました。

「僕たちお付き合いしようと思うんだけれど」

思っていたものではなかったもののその衝撃はそれなりにありました。ですが、正座して太ももの上で震えているへし切長谷部さんの手を燭台切光忠さんがそっと包んだのを見た時に、どれだけ覚悟して私に告げたのだろうかと、そう思いました。

「君たちのことを私が全て管理する必要はないでしょう。……君たちがお互いに話し合って決めたことならば私は祝福します。」

「あ、あるじ」

「お互い愛し合って幸せならばそれでいいじゃないですか。誰が責められますか?…私は何か間違った事を言っていますか…?」

泣きそうな顔をされてそう言うと2人は何も間違ってないと答えました。なぜか感謝までされてどうすればいいかわからなくなりました。もうご飯の準備を始める時間でしょう?と言うと慌てて部屋を出て行燭台切光忠さんに
「今日はお赤飯でおねがいしますね」

と言うとへし切長谷部さんが真っ赤になって黙り込んでしまいました。やはり私は刀とうまくやっていけていないのでしょうか?少し不安になりました。

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本丸のみんなに2人の仲を告げてから少しして、少し落ち込んでいる彼を見かけました。部屋にお茶を持ってきてくれたへし切長谷部さんに少し話を聞いてみるとどうも意中の刀の電話番号を手に入れたが忙しいらしくなかなか繋がらないと言う事でした。

「そんなに落ち込んでいるのですか?一層の事付き合えば元気になるかもしれませんが」

それも難しいのでしょうかと言うとへし切長谷部さんは目をキラキラさせてお任せをと言って出て行ってしまわれました。なんだかとても元気そうだったので恋とは刀も振り回すものなのかもしれないなと1人、お茶をすすりながら考えていました。

その数日後彼の部屋に山姥切国広さんを簀巻きにして転がしたとの話が耳に入ってきたのには驚きましたが、全く理由もわからないし、へし切長谷部さんは燭台切光忠さんと彼にみっちりとお説教されたようなので、私からは「あまり無茶はしないでくださいね」とだけ告げて山姥切国広さんに大丈夫か尋ねました。「俺が写しだからか…」と嘆いてらっしゃったのでちょうど食べようと思っていた秘蔵の羊羹を分けてさしあげると「役得だったな…」と上機嫌にお茶を飲みながらケロリとしてらっしゃいました。一体どう言う意図だったのかいまだに図りかねますが、へし切長谷部さんなりに何か考えがあったのでしょう。多分。

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本丸が適正に運営されていたことにより見習いが来ると言う話が来て私はそれを断りました。当然のことながらここはまだ日が浅くそのような段階にないと言いました。しかしながらここ短期間で好成績を収めていると言う話になり、極の刀も多くいました。だからなのか暗に断るのなら何かやましいことでもあるのかと言われて引き受けざるを得ませんでした。それも仕方のないことと受け入れました。

彼女は聡明で若く人当たりの良い私とは真逆の人種でした。刀とのふれあいはかくあるべきなのだろうと感じていましたが、私はそうできない性格でした。

刀たちも何処か、私に向ける目が変わったように思います。私以外を見れば私の至らなさがさらに目につく事でしょう。それでも秋田藤四郎さんは時折私の部屋に来てたくさん話をして彼らが変わらない日常を過ごしていると教えてくれて、私はそれだけが日々の支えでした。

そもそも、私が彼らと語らう時間を作らなかったのがすべての発端です。一月も過ぎた頃には皆彼女を慕っていました。刀のためを思えば彼女こそふさわしいのかも知れないそう思って、それを部屋に来た秋田藤四郎さんに告げようとしたときのことでした。

政府からの電話がかかって来たのは。

電話の間秋田藤四郎さんは私の手を小さな手で握ってくれました。私はこんな私でも、君たちの主で居て良いのかと、迷いを口にしそうになりました。…その後に彼らが私を守ろうとしてくれていた事を知り、貴方は不正をただすと宣言してくれました。

「必ず守り抜いてみせますから」

私は情けなくなって同時に怒りすら感じました。不甲斐ない自分がまた刀の負担になったのかと。ここまで思ってくれる刀に想いを返さないのは私の主義に反します。情に流されていると言われても構いません。

時間を稼ぐのに何よりも刀のことを知っていなければならないものを考えました。秋田藤四郎さんを見て思い出したのがかくれんぼです。私は君を間違えたりしないし、私はこれでも私の刀をほかの誰よりも見つける自信がありましたから。
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騒動が落ち着いて貴方にお礼をしたいと政府に言いましたが彼は基本的に接近禁止対象だと言われました。よくわかりませんが何か難しい事情があるようですね。当本丸は本丸番号を変更し諸般の手続きのためにひと月の休暇が与えられました。謹慎かと思い落ち込んでいましたがそうでは無いと役人さんがおっしゃっていました。

このひとつきは思い切り刀たちと過ごそうと思い有意義に過ごしました。その中で彼と話す機会があったのです。

「君は山姥切長義さんが好きだと聞きました。素敵なことですよね恋というのは」

彼は照れたようにコクリと頷いてたくさん貴方の話をしてくれました。一番はじめにこの本丸の異常に気がついてくれたのは五虎退さんの虎さんの話を聞いてくれた彼だったし、私が電話をしていた山姥切長義さんもきっと同じなのだと。確かに個体番号が同じでそんなことがあるのかと息を飲みました。

「なんだかまるで運命みたいですね」

私がそう言うと彼は顔を真っ赤にして、もし出来るのならいつか花を贈りたい彼には青い薔薇が似合うと思うと私に言いました。

「青い薔薇の花言葉は君が送るのにぴったりですし、いいと思いますよ」

彼は知らなかったようで花言葉を告げるとちょっとキザすぎるかなと、へにゃりと眉を下げて笑いました。とても、とても幸福そうに見えました。


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本丸が出来てから随分と経った頃でしたか、極の刀も増えてきて、そんな朝のことでした。監査官さんがやってきたのは。声を聞いてすぐにあの山姥切長義さんだとわかりました。私は少し気の抜けた格好で恥ずかしかったんですけれどね。それよりも彼がちょうど遠征に出かけていて、後1時間あれば戻ってきたんです。間に合いませんでしたね。編成する頃に帰ってきて…けれど彼は疲労してしまっていましたし、休日の予定でしたから。

編成に入れて欲しいともちろん言われましたよ。迎えに行きたいからと。けれどそれよりも帰りを待つ方がいいのでは無いかと話しました。監査は本丸を初期から支えてる刀に任せておきましょうと。ほら、あの日貴方が食べていた甘いもの、彼が作ったんですよ?

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「そういうことですので、お二人が仲良く過ごしてくだされば私も嬉しく思います。」

私がそうやって彼に告げると彼は少しはにかんで頷いてくれました。

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2024/10/13 01:33:55

にゃんちょSS詰め


#にゃんちょぎSS #刀剣乱舞SS  
ざっくりとした目次
世紀末の刀たち
刀剣男士がマイクで戦うタイプの話です。モヒカンが苦手な方はすみません。心で感じるタイプのリリックです。

バーチャルアイドル(現パロ)
バーチャルアイドルに傾倒する山姥切長義くんの話です。

俺たち結婚しました
ほのぼの仲良しなにゃんちょぎです。ノリで入籍してみたらええやん。

移りゆく時代と変わらぬもの
きのこたけのこ論争と現代遠征でおかしつくる山姥切長義くん、南海先生、肥前くんの話です。

拡大率は三種類
正気を失って書いたるーぺの話です。もう捏造とかそういう問題ではないです。

その輝きはプライスレス
書き下ろしです。南泉一文字とへし切長谷部が乳首を連呼するので苦手な方はすみません。

※山姥切長義くんの乳首が光っているのかいないのかという話です。

※長谷部くんは単に自分の幻覚ではないと証明したいだけです。

★世紀末の刀たち

「きみも刀剣男士なら、ラップできるだろ?」

南泉一文字は審神者の言葉に固まってしまう。え?なんて??何言った?理解が追いつかない俺をスルーして隣にいたこんのすけが話し出す。

「25xx年世界は炎に包まれました。戦争によってほとんどが荒野と化し、一切の暴力を放棄することで一時的な平和を得たのと引き換えに時間遡行軍がはびこる世界です。皆さんにはこちらの世界で遡行軍に唯一有効な攻撃方法としてラップで対決することになります」

「おい待つにゃ」

転送装置の起動音が聞こえて慌てる。待て!おい!!

「頼んだよ南泉一文字、きみは先行派遣部隊だ。その世界では刀剣男士の力は抑えられることになるが。君ならラップできるだろ。」

「話を聞け!日本刀の付喪神に何を求めてんだよ!?」



一振り荒野に落とされた。え?マジかにゃ?マジで荒野!?街は荒れ果て住人はモヒカン、その肩にはクラゲが(いやクラゲではないが)

「おうおうおーーう!!てめえこんなとこを堂々と歩いていい度胸だなぁ!」

「なんだおまえ」

「ここが誰のディビジョンがわかっているのか!?」

「いやしらねぇにゃ」

「舐めた口ききやがって!俺がここでのしてやるぜ!マイクを起動しな!!」

そうするとモヒカン(A)はどこからか(いやその肩破けた服のどこから?)マイクを取り出して起動しリリックを繰り出す!!

[ここにすごいリリックがあるので心の目で見てください]

「ぐ!、」

どうやら審神者とこんのすけのわけのわからない説明は本当だったらしい。しかし俺はマイクなんて持ってないし、正直こんなにダメージを食らうなんて想定外だった。反射的に刀に手をかけるとそれは形を変えて行く。

「そ、それはあの人と同じ!?!?」

とにかくやってみるしかないか、その刀(マイク)を持った。

[ここにめちゃくちゃアツい南泉のリリックがあるので心の目で見てください]

「お前っ!!クソあの人に報告するぞ!撤退!!撤退!!」

モヒカン(A)はモヒカン(B)(C)に連れられて無駄にハンドルが高いバイクで去っていった。

「今のは一体、にゃ」


「あんた見ない顔だ。それに身なりも整ってる。どこから来たんだい?偉いさんかね?」

喧騒につられて出てきた老人が話しかけてくる。情報収集したいと思っていたところだったので話を聞く。
「いやいい、聞かずともわかる。こんなところに来るんだお前も強さを追い求めるものなのだろう」

「そう言うわけじゃ」

「隠す必要はない。見たところこの辺りの地理には詳しくないようだな。ではここから北を目指すといい。そこに廃病院がある。やつはそこに舎弟を連れて占拠していると聞く。止めやしないさ、男ならば最強の座を求めるのは自然なことだ」

「いや、全然求めてねぇにゃ。」

「私のバイクを貸そう。風になれるぞ」

「話聞いてくれ。じーさん」



じーさんは結局行くのじゃしか言わなくなった。仕方ないのでバイクで廃病院にやってきた。どう見てもさっきよりもモヒカンが増えた。さっきまで5モヒカンくらいだったとすれば50モヒカンくらいになっている。

「おいてめえ!何呑気なツラしてここにきてやがる!髪の毛かってから出直して来いや!」

「うるさい!!にゃあ!!」

モヒカンたちがざわつく。マイクの起動音が辺りに響いていた。

[ここに雑魚なリリックが転がっています。あなたには見えませんか?]

応戦するために刀(マイク)を手に取る。この力は不思議だなぁ。正直意味がわからないが倒せるならそれで構わない、すっと息を吸う。

[ここにすごいリリックがあります。あなたにも見えてきましたね?]

「くそ!こいつ!語尾がにゃ!の癖に!なんかすごいリリックだ!」

「彼の方を呼べ!!」

モヒカンたちが走り去っていった廃病院の奥からそいつは現れた。白い外套を翻し腰には刀を差している。

「ねぇ、いい加減返してくれないか?俺には為すべきことが、あるのだが」

「お前何してんだ」

「……誰だ君は知らないな」

「いや、おまえ山姥切だろ」

「いや知らないね。無礼なやつだなマイクで気絶させて記憶を奪うよ」

「おまえやっぱり山姥切だろ!?なにモヒカンの王に君臨してんだおまえ!遡行軍との闘いは!?」

据わった目でマイクを起動する山姥切に絶句する。こいつマジでやりやがった!!

[貴方はここにめちゃくちゃすごい山姥切長義のリリックが見えます]

「貴方はここにめちゃくちゃすごい南泉一文字のリリックが見えます]

「なっ!あの人と互角に渡りあうだと!?」
「なんなんだあいつは!?」

そう彼らは刀剣男士!ラップに生き、マイクを片手にリリックを刻むもの!!!戦う日本刀の付喪神である!!!!

ありがとう刀剣男士!ありがとう刀(マイク)!!日本の未来は明るいぞ!!!!!

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★バーチャルアイドル!!

すう、と息を吐く。いつも通り目覚ましが鳴る十五分前に目が覚めた。ベッドから起き上がってカーテンを開けた。さっさと洗面所へと向かって顔を洗う。鏡で身だしなみを確認するとリビングへと移った。冷蔵庫からコーヒーを出して一口飲む。少し意識が覚醒してきて、ふぅっと一息ついた。リビングになる目覚まし時計が鳴るまでさん、に、いち。

「おっはよ!朝だにゃおきて!」

「おはよう」

そうとてもいい朝である。

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毎日毎日、同じことの繰り返し。いくらエリートとは言え流石に日々ささくれだっていた。そんな日々を劇的に変えたのがそう、バーチャルアイドルである。語尾には気まぐれににゃあとつく。可愛くて仕方ないのだ。この目覚まし時計も限定品で今はプレミアが付いている代物である。

なんでこんなに傾倒しているかなんてとっくの昔にわからなくなってしまったが。なんだが胸の奥に刺さる感じがする。多分これが萌えなのだと思う。そうディスイズ萌え。

「今日はライブか」

そう、初ライブだ。今まで動画メインだったのが少し大きめの箱でライブを行えるまでに成長した涙ぐましいがあったに違いない。

「よし、行こうかな」

準備を整えて家を出た。



跳ねた金髪。揺れるアホ毛。細められた瞳。瞳の奥まで深く深く、まるで記憶に響くように。忘れられないように。

バーチャルアイドル、にゃんせんちゃんは、こちらをみて微笑んだ。

なんという可愛さだろうか。


ライブを終えてなんとか物販で買ったTシャツから普段着に着替えるためにトイレへと向かう。少し時間が遅かったのか人が少ない。個室でさっさと着替えて出る。大きな鏡を見て髪を整える。

「な、」

「どうかしました?」

俺を見て固まっている男がいたので声をかける。目部下に帽子をかぶったジャージの男。ドンキにいそうだなこいつ。

「なっ、ド初期の限定品」

固まったそいつは俺の腕を掴んでバンドを見た。そう限定品だ。これがわかるとはなかなかコアなファンらしい。

「君わかるのか?なかなかこの時期から応援してた人は少ないから嬉しいな。」

「あっ、いや俺は」

じい、とそいつの目を見つめる。金色。どこかで見たような。

「きみは」

「あ、あ〜〜嬉しいなぁ!!!!妹も喜ぶにゃ」

そっと帽子を取るとにゃんせんちゃんによく似た男がそこにはいた。

「まさかにゃんせんちゃんの!?お兄さんお兄さんがいたのか?」

にゃんせんちゃんのアバターは自分とよく似てると言ってたから間違いなさそうではある。

「ぐっ、ぅう、あぁ!そうだ、俺は兄だにゃ。兄そう。間違いなく兄。どう考えても兄だにゃあ?」

語尾までうつるほど仲がいいのか!これは間違いないな。

「ラジオじゃ一人っ子だと言っていたが色々事情があるよね、すまない詮索するつもりは毛頭ないんだよ」

「あ〜〜うゔ、はぁ〜〜お前ラジオまで聞いてんのかガチファンじゃねえか…ぐっゔ」

「何か気に触るようなことでも……?」

不定期開催のラジオも逃すことなく聞いているファンの嗜みだ。

「ねぇよまったくねぇ、あぁぁ〜〜その妹のこともなかなか心配でにゃ、ファンの人と仲良くなりてえと思ってたんだ、俺」

「なんだ同士か。安心してほしい彼女のことは純粋に応援しているし迷惑かけるような行動もするつもりはないよマナーがいい人が多いよね」

「そ、そうか。よければ連絡先を交換しねぇか?ほら、やっぱり俺を中継して妹に連絡とりたいファンが多くて、お前はそんなことなさそうだしにゃ」

「あぁ!もちろん。俺も語れる人間が少なくて困っていたところなんだ」

「ありがとにゃ、あぁ〜これアドレスだ。またにゃ、山姥切」

なぜかぐったり疲れた様子の彼はフラフラとトイレから去っていった。

「あれ?ハンドルネーム名乗ったかな」



本当にただの悪ふざけから始まった。探しても探しても見つからない昔馴染み。燻って仕方ない胸の奥。

どうしても消えない生々しい土煙と血の匂い手に馴染む長めの棒。そう。だから、手元が寂しい。振り回さなきゃいけない。何か、なんだ振り回すもの。動き回るもの。


「アイドルだ」

そう考えた己を殴りたい。

一文字南泉。職業バーチャルアイドル。ネカマである。ボイスチェンジャーを使いあらゆる手を尽くした夢の結晶。みんなの偶像、俺の虚無、もしくは誰かの無残な恋心の残骸、要するににゃんせんちゃんだ。

曖昧な記憶が取り戻された瞬間俺は吐くかと思った。ライブを終えてトイレに向かうと鏡で呑気に髪の毛を整える昔馴染み。しかも初期のガチファン。

考えてみろ現在進行形引き際を失った黒歴史俺の散った恋心と虚無の擬人化のファンが俺のかつての恋した刀。いいや男か?なんなんだ。

ふざけてるのか?こんなことあっていいのか?泣きたい。待ってほしい考え直せお前アイドルとか興味ないだろ普通。解釈違いも良いとこだ。

「はぁ」

けれどやはり、殺しきれていないのか。こんな恋心を。あぁ〜、どうしようか。今度会って俺の黒歴史ラジオの感想とか言われたら。吐く。間違いなく吐く。

「なんでこうなったんだにゃあ」

ぱちり、電源が落ちた。バーチャルアイドルは電子の中で束の間の眠りにつけるだろうが。俺はそうはいかなかないのだろう。今更になって出逢えたことの喜びがじわじわと湧き上がってきた。


しかし、この後SNSにわけのわからないポエムを投稿して次の朝に確認し死ぬことになる。



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★俺たち結婚しました。

ここは政府の中でも特に審神者が利用する施設である。審神者は特殊な職業であるし、そう簡単に現世にも行けない。なのでここである程度の手続きの仲介をしているというわけだ。審神者だって職業だから、色々と役所に提出するものもあるし。

今日は暇だったので受付に座ってぼんやりとフロアを見回した。書類を取りに来るのは審神者や、刀剣男士だが。役人と結婚する審神者などは、同僚に顔バレしたくないからと刀剣男士に婚姻届を出してもらうと言うものが一定数いる。こちらはそこまで気にしていないのだが。

今日も今日とて、そういった刀が居るようで。フロアの端でぎゃあぎゃあと騒いでいるのが見えた。あそこは確か、なんの書類を置いていただろうか。いやまさかな?南泉一文字と、あれは山姥切長義だろうか?

「あ、これだね。……ここと、あとはここと」

「おいお前本当に書くのかよ…たく」

「なんだ、嫌気がさしたのか?まぁ君が嫌だというのなら俺は構わないんだけれどね」

「…んなこと言って、断ったらお前拗ねるんだろ」

「そんなわけないだろう。俺はそこまで子供じゃないよ」

あしを小突きながら小さな机とも呼べないようなスペースで、備え付けられたボールペンがスラスラと動いていた。

「ほら、あとは君のところだけだよ。」

「……言っとくが、しぶしぶ書くわけじゃねぇ。お前はどうかしらねぇけど、こんなもんなくても、俺はお前のこと、逃がすつもりはねぇ、にゃ」

「ふふっ」

「おい、笑ってんじゃねぇ!」

「だって君の語尾が」

目元をこするのが見えて、それが笑いすぎているからなのかそうでないのかまではわからなかった。

「あぁ、職員さん。これ、提出したいんだけれどね」

ニコニコとご満悦な山姥切長義と、そっぽを向いて後頭部をかいている南泉一文字を見上げながら、細かい手続きとかは全てどうでもよくなってしまった。

「ご結婚、おめでとうございます!」

婚姻届、受理します!

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★移りゆく時代と変わらぬもの

時間遡行軍が歴史改変をしたらしい。差し当たっては先行部隊として調査員を派遣する。向かうのは西暦2019年4月30日。改元の瞬間までに歴史修正を行うためそれよりも前の時間軸へ。

「というわけで派遣されたのが肥前忠広。そして3ヶ月ほどして追加で派遣されたのか南海太郎朝尊だ。しかし自体は依然として好転しない。君にも行ってもらいたいんだよわかるね?」

政府の役人の話を聞いて少し考える。なぜそんなに少数にこだわるのか。

「それでこれは大事な質問なのだけれど」

「あぁ。聞こうか」

「君はきのこ派?それともたけのこ派?」

「はぁ?特に好き嫌いはないが」

「うん。そうだろうとも。まだ何も染まってない君たちでなければならないんだ」
 
役人はそう言うとこちらの話も聞かずに転送の準備を始めた。

「おい待て、何が起きた??何を変えられたんだ!!」


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きのことたけのこのおかしが一つのおかしにされました。がんばってもとにもどしてください。

「こう言うことだよ」

南海が見せてきた紙くず(紙くず)にそう書き記されているのを見せられて事態は思ったよりも酷いことを理解する。

「時間遡行軍がきのことたけのこのおかしを一つにしたらしいよ」

「はぁ?」

「これはこれで不味くはないがな。」

そう言いながら肥前が死んだ目で食べているお菓子は確かに見たことのない形をしていた。(そもそもそんなに菓子類に興味がないのでわからない)

そう言うわけでここは日本某所のマンションのワンルーム。先に派遣されていた二人はここに暮らして日々なんとかこのお菓子を分離させて歴史を修正するべく某菓子会社に勤務している。政府がうまくやったらしい。

「え?これ?歴史改変でこれを?おい!政府。改元までにどうとかって言ってたのはなんだったんだよ」

「それはほら、日本の夜明け見たいでしょうおかしも。」

「だな」

「とりあえず上に取り入ってそれなりの地位は手に入れたんだけどね」

「な、るほどね?」

さらっと怖いことを言うな。取り入るって何をしたんだよ。聞きたくないな。聞かないでおこう。

「ちょっとした罠をね。けれど問題が発生してね」

「あぁ。そうだよそこまでできたならもう問題はないんじゃないか?」

肥前が首を振って話し始める。と言うかお菓子を食べる手を止めなさい。

「いいか。俺は食べる専門。先生は罠をかけるのが得意。つまり」

「お菓子作りね、確かに興味深かったんだけれど。うん。人には向き不向きがあるとは思わないかな?僕には向いていなかったようだ」

「まさか君たち」

嫌な予感しかしない。おい、こんな現代遠征までしてまさか。

「という事で、頑張ろうね山姥切長義くん」

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やけにキッチンが本格的だと思ったらここで作れというらしい。なんなんだそれ。

「くそくそくそ〜〜!!!!!?一体どうしてこんなことになったというのか!!あっ!!つまみ食いをするな肥前お前も作るんだよ!」

黙々と焼けたクッキーを食べる肥前にストップをかける。なんなんだ。食いしん坊が。

「材料が無駄になるだけだ」

「じゃあそのチョコを刻め!!!」

「……面倒ごとを押し付けるな」

そう言いつつ刻み始める。めんどくせぇとかぶつぶつ言ってるがそれは聞こえないふりをした。

「ふたりともエプロンと三角巾が似合うね。」

椅子に座ってニコニコしている南海をよそに作業を続ける。もう突っ込むのも面倒くさい。

「あぁ〜〜〜〜!!!改元までに作り出すぞ。帰ったら政府の役人を詰めるからな。」

「そうだな」

「それに関しては賛成しておこうかな」

ばき、とチョコを握りつぶす音がした。

______

なんやかんやで出来た。相当な苦労はあったが無事にお菓子を作ることに成功し任務を達成して帰還した。

隣にいる南泉に思わず愚痴をこぼす。

「改元に乗じた歴史改変がこれってもっとあったんじゃないのか?元号を変えるとかさ。いや確かに苦労したけど。」

「なんか大変だったらしいな。無事に戻ってきて何よりだにゃ……」

流石に現代遠征までしてお菓子作ってたとは言いたくないので黙っておこう。そう考えていると少し目を離したうちに南泉が端末を見て固まっていた。

「南泉どうかしたのか?」

「なんもねぇにゃ」

「嘘だね、っと」

端末をひったくって開いていたものを見ようとする。ロック?無駄だね。君の暗証番号を知らないとでも思ったか。

「あっおい、やめとけ」

「あ〝!?!?」

ばっちりエプロンと三角巾をつけてお菓子を作る俺の写真だった。

【コレは貸しだよ。南泉くん】

「あの刀…いつのまに……。君、今すぐに記憶を消してくれないか。消せないか?それなら無理やり消すまでだ」

「やめ!!やめろ!!にゃぁ〜〜!!!データを消すにゃァァァァァァ!!!!」

悲痛な叫びをあげる南泉一文字そして破壊される端末。後日南海太郎朝尊は山姥切長義にめちゃくちゃ怒られたが南泉一文字くんの秘蔵ショットを送る事で事なきを得た。刀剣博士ってすごいんだねと、山姥切長義は語る。

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✴︎★☆拡大率は三種類☆★✴︎

ハ◯キルーペとは何か。ハ◯キルーペはメガネ・コンタクトの上からも掛けられ両手を自由に、様々なシーンで使えるメガネ型拡大鏡です。(原文ママ)

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私!ハ◯キルーペ!!!!!!やっと店頭から買ってもらえたの!嬉しいね。どんな人の元にいけるのかな?私役に立てるかな???


ここはどこなんだろうね。なんだかきらきらしてる。普通のおうちじゃないのかな。(はずきるーぺはどこでも使えて便利な商品です)

「は?ちょっと待ってくれ。配属先は本当にここなのか?正気か?」

「おう。なんだよ。今更怖気ついたか?山姥切。」

上の方から声がします。袋を持ってるのは誰でしょう。持ってない方の人が山姥切?さんですか?よくわかりません。

「ここって…まるでホストクラブだな?」

山姥切さんが苦笑いしているのが聞こえました。ざわざわと周りが騒がしくなるのが聞こえます。店の中に入ったのか元気な声でいらっしゃいませー!にゃ!と聞こえる。(にゃ?とは)

「ホストクラブだ。」

「はぁっ!?」

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春。配置換えの時期だ。それはいいそれは仕方ない。だがしかしこれは。これはどう言うことなのか。客もまばら(というか客は「山姥切長義」しかいないしホストは「南泉一文字」しかいないのだが)なので店の隅の席に通される。

「ホストクラブでの業務だが、ここ南泉一文字のホストクラブだからな。お前何すればいいんだろうな?」

すっとぼけた声を出すこいつはここの責任者だと聞いた。ここに勤務している南泉一文字はみな、チョーカーに宝石をつけていてそれが源氏名らしい。「俺は翡翠ってやつだ。」と適当に言っていた。

「いい加減にしてくれないか?なんでそうなんのプランもないんだよ」

「まぁ、あれだな。適当にフロアにいる南泉一文字のテンションを上げるために頑張ってくれ、にゃ」

「なんなんだその抽象的かつ意味不明な業務内容。」

「まぁ、そう言うなよ。俺にも考えがあるにゃ。」

そういうと彼はあった時から持っていた、紙袋を漁った。

「そう、これを踏むだけでいい、にゃ」


「……?はぁ?????」

「お前もうちょっと感情豊かになんねーのか?にゃ」

「いや君が意味のわからないことばかりしてくるから」

「まぁ、アレだな。そういうもんなんだよ。様式美?」

「投げやり過ぎないか?眼鏡はな、踏むためにあるわけじゃないんだぞ?わかっているのか???」

「おう?まぁそうだな。俺もそう思う。」

そのくせ全く引く気がないのはなんなんだ??なんで?!?メガネ踏んでどうするんだよ???

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眩しい世界に出てきました。あかりがチカチカしています。みんなこっちを向いていて、なんでか私はまあるい椅子の上でした。ここは、ステージ?

南泉と呼ばれた人が山姥切さんに囁いているのが聞こえます。

「何を隠そう今日は「お前」が少ない。正直言って暇だ。モチベが上がんない、にゃ〜」

「そんな理不尽な理由で俺はこんな対人空間でメガネを踏む様を見せつけなければならないというのか??というかそれでモチベーションが上がるとしたら君は相当変態ということになるぞ?」

「仕事だ。にゃ」

そういうと、南泉さんは山姥切さんの肩に手をかけました。

「ぐ、」

「それとも恥ずかしいのか…にゃ?それもそうか、だってみんなお前のこと見てるもんな、ははっ。」

「君は、そういう事を…!!」

ぎり、と、歯をくいしばる音が聞こえて、山姥切さんが南泉さんの方に向き直って胸ぐらをつかむのが見えました。南泉さんはと言うと両手を上げて笑っています。

「おっと、いたずらはこれくらいにしておくかぁ?」

「踏めばいいんだろ。」

どうしてなのでしょう。メガネってなんのためにあるんでしょうか。踏むためですか?かけるためだと思います。どうしてこんなことになっているのでしょう。どうして彼は唇をかみしめて耳を赤く染めているのでしょう。

影が濃くなって、キラキラした世界から遠ざかりました。そして感じる柔らかなもちもちとした弾力。そして圧力。瑞々しさ。スペキャ顔待った無しの感触がー!!!!!!!


「なぁ????南泉ン!!!これ何の意味があるんだ!!!!!!!!!」


「だから言ってるだろ?恥じらう山姥切をみて俺のモチベが上がる、にゃ。お前よくメガネ踏むだけであんだけ羞恥に染まった顔できるにゃ。ごちそうさまでした」

「クソがぁ!!!!!!!!!」

は◯きるーぺは絶命したし、このあとめちゃくちゃ山姥切長義くんには◯きるーぺをお尻で踏ませる南泉一文字くんが増えたらしい。


その輝きプライスレス


山姥切長義は悩んでいた。最近やたらと視線を感じる。誰かに見られている気がする。これはまさか何かあらぬ疑いをかけられているのではないか?皿洗いをしているだけなのになんなんだろうか。このなんとなく不穏な視線は。

監査官として本丸に派遣され不和を起こす個体も少なくはないと聞く、しかし、そんな刀はこの本丸にいるのだろうか。わからない。

ハッとして振り向くとへし切長谷部がくあ、とあくびをしている。

「あぁ、すまない。食べ損ねて適当に済ませようと思ったんだがな。見つかったか」

「君またその携帯食か。確かに便利だが…」

「燭台切には言うなよ。見つかるとうるさいからな」

「……いや。もう遅いな」

「は?」

「長谷部くん。ご飯作るから動かないで」

「なぜ的確に背後から首をっ!」

がっつりと腕でチョークスリーパーを決めているあたり相当ご立腹のようだ。洗い物が終わり濡れた手をふいて長谷部の手元の携帯食を奪う。悪いが俺もこの前南泉と燭台切さんにこってり絞られたところだからね。

「もう少し見つからない工夫が必要なようだね長谷部」

「そんな工夫しなくても僕に言ってくれればご飯くらいつくるよ??」

パッと手を離すと長谷部がもう少し穏便にやれとキレている(しかしこうでもしないと君、悪びれもなく携帯食を食べるだろ)

「長義くんも一緒に食べる?」

「あぁいや、失礼するよ」

そこまでお腹は空いていないので厨を後にした。

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「質問がある」

へし切長谷部は悩んでいた。真剣に悩んでいた。もうそれはかなり悩んでいた。5徹明けのチョークスリーパーのせいで意識が朦朧としたせいではない。腹も満たされた今聞いておかねばなるまい。

「どうかした?」

深刻な顔をしているのが伝わってしまったのか燭台切りは真剣にこちらに向き直る。

「ちく……いや胸って発光すると思うか?」

「なんだって??」

へし切長谷部は悩んでいた。同僚の胸が発光していることに気がついてしまったからである。(念のため言っておくが燭台切のことではない)

「ど、どういうこと?胸?光る??あぁ、あれ豊胸手術したらブラックライト当てて光るとかテレビでやってたって、鶴さんがはしゃいでたね…?」

「それは刀剣男士も手術すれば発光すると?」

「刀剣男士が豊胸手術?一概には言えないけどほとんどありえないと思うよ……?」

「そう、か」

「長谷部くん疲れてるの?ねぇ?徹夜明け?」

「5徹明けだ」

「寝て?今すぐに寝て。怒るよ」

「疲れて幻覚を見たというのか俺は!!」

「わかったから!寝て??」

そのまま担がれて布団にぶち込まれて見張られてしまったので大人しく眠ることにした。けれども今までの経緯が頭を巡って離れない。

そう、あれは夜戦の時のことだった。室内戦においていつもよりほんのり明るい気がして、振り向くと彼がいた。彼は何食わぬ顔で戦況を訪ねてきたのできっと俺の見間違いだと思ったのだ。

いや、けれど確かに彼胸元(さらに具体的に示すのであれば乳首)のあたりからほんのりと明かりが漏れていた。

はぁ?と声をあげかけて必死に飲み込んだ。他の刀は気がついていなかったようだが。再び見たときにはもう室外で目を凝らさなくてもそれなりに明るかったし、真偽のほどはわからない。

いやでも光っていたと思う。山姥切長義の、乳首。

しかし流石に「なんだ貴様その乳首は光らせるんじゃない、びっくりするだろ」とは言えないだろう?俺をなんだと思っているんだそれくらいの配慮はできる。

この異常事態において俺はとりあえず眠ることに成功した。これでもう一度発光しているのを確認できれば徹夜明けの幻覚という説を消せるわけだが。

朝になり割と早く目が覚めたので厨に足を向ける。とりあえず山姥切長義に「服を脱げ」と暗闇で迫るのを燭台切に提案した。

「長谷部くん、ダメだよ。絶対ダメだからね。それは。」

肩を強めに掴まれた。なんだ。そんな「正気?」みたいな顔でこっちを見るな。俺も傷つくんだぞ。

「仕方ない。それは諦めよう。」

「なんでそんなに君が乗り気なのかの方が僕は気になるんだけどな」

「俺が幻覚を見てないってところを証明したい。」

「そういう?!?」

「そういうことだ。」

主にチクられて三日間休暇にされた。心苦しいことだが仕方ない。

「悪いな燭台切。これで心置きなく調べられる」

「いや、休んで??そもそも長谷部君はもともとここ三日休みのはずなのになんで5徹で働いていたの?」

「手持ち無沙汰だからな」

「休んでッ!!!!!」

ブチ切れられた。



南泉一文字は悩んでいた。苦悩していた。このことを他人にいっていいのかわからなかった。誰に言えるものか。

「……南泉?どうかしたのか」

「…いや、おまえ」

「何か言いたいのかな」

「…………いや、そんなわけねぇ」
 
じいっと、彼の顔を見る。意味がわからない。顔がいい。そんなことはどうでもいいんだ。どうでも。

「寝不足か?同室のよしみだ話を聞いてあげよう」

「いや、いい……もうちょっと考えさせてくれ……」

「なんでそんなにぐったりしているんだ。」

「おまえにはわからねぇ……わからねぇよ……」

お前にオレの気持ちなんてわからねぇよ。

山姥切と別れて自室に戻る。奴はそのまま出陣だ。あぁ。なんなんだよあれは。



それは先日の夜中のこと。なんとなく眩しくて目が覚めた。

「は?」

淡く光る布団になんだ暗闇で本を読むなら談話室に行けよと声をかけようと布団をめくる。

するとなんということでしょう。それはまるでかぐや姫の再来のごとく、(何をいってるかわからない)光り輝く山姥切長義(乳首が局地的に)奇跡的にはだけた浴衣の前とその隙間から見えるチラリズムのエロさを破壊する輝き(虹色に変わる光)がそのにはあった。

理解できない。

「は、ぁ?」

何が理解できないって普通にそれを見てなるほど?と新しい扉を開いてしまった一文字くんの一文字だ。
ふざけるな。こんなんで自覚してたまるか。誤作動もいいとこだろ。わかってるのか?昔馴染みの乳首がレインボーに光っているんだぞ常識で物を言え。

「夢にゃ。寝よう」

そのあとめちゃくちゃふて寝して今に至る。あの記憶を消したいが脳裏に乳首が焼き付いて離れないのが問題だ。気がつくとそっちに目がいく。これではなんだか良くないような気がする。



かぽーん。

へし切長谷部は固い意志をもってその場所へと赴いていた。(理由は死ぬほどくだらない)

戦場帰りの刀剣男士は往往にしてその血を流すために湯浴みをする。つまり山姥切長義が戻ってくる今こそチャンスなのだ。

「珍しいなこんな時間に湯浴みとは。」

流石にいつまでも湯船で待っていられないので主の趣味で追加されたサウナに入ると南泉がいた。

「うるせぇにゃ」

そういえばこいつは知らないのか?と聞こうと思うとざわざわと声が聞こえてくる。この位置からならドアについたのぞき窓から風呂の一部が見える。

「……お前もか同室なんだから気づくよなそれは」

「…なんのことかにゃ」

「とぼけるな。どう見てもお前あの刀の方見てただろう局地的に」

「さっぱりわからないにゃ」

「一応はっきりさせておこうか。光ってたよな?いや今は明るいからわからないだけだろう。俺は断じてトチ狂った幻覚など見ていない。」

「長谷部は定期的に強制睡眠とらされてるからにゃ。幻覚と言われてもまぁにゃ」

「何が休めだ。休んでられるか?山姥切長義の乳首が光っているんだぞ。それどころじゃないだろ」

「興味津々かよ」

「お前もだろうが!大体意味がわからないどういう原理であいつは光っているんだ!?ホタルイカか何か!!気になって仕方ないだろ!」

「……お前はなんとも思わないのか」

南泉少し声のトーンを落とす。なんだその確認は愚問だ。

「光る乳首に興奮する奴がどこにいると言うんだ!!大体あんなもん好きでなくても気になるだろうが!!」

「……」

「え?お前まさか」

「違う違う違う!!いや!ちがうにゃ」

「いや別に他人の趣味嗜好に口出しするつもりは一切ないが、いや興奮するか?全くしないんだが!?」

「いやわかんねぇだろ!!いるかもしれないだろ!!」

「お前とか?」

ガラッと扉が開いて顔を真っ赤にした山姥切長義がサウナに入ってくる。


「全部聞こえてるんだよ!!光るわけないだろ!!!」


バシャ!と石に水をぶっかけてサウナの室温を上げて去って行く。

「嫌われたな、あれは。」

「なんでこんな目にあうんだにゃあーーー!!」

南泉の叫び声が風呂にこだました。このあと歌仙にめちゃくちゃ怒られた。
________________________________________________________

飯を食っても一切目を合わせてもらえず自室に戻ると態度悪く布団に座った山姥切が迎えた。

「いや、悪い。直接聞くべきだったにゃ」

「直接聞かれても困るけどね」

「お前の胸が虹色に光ってたんだよ」

観念してそういうと心底意味がわからないという顔でこちらを見る。

「どんな夢を見てるんだ君は」

「いや夢じゃねぇよあれ光ってた」

「君は俺にどうなって欲しいんだ!?!」

「いやもう光らないのかもしれない電池切れ……かにゃ?」

「君はよほど死にたいらしいな。いいだろう表に出ろ」

「怒るなよ……」

「光るわけないだろ。常識で物を言え」

「あーもうわかった!!もう言わねーから!!にゃ!」

ギャアギャアと散々喚いてキレ散らかした後もういい!寝る!と言って山姥切は布団をかぶる仕方ねぇなと電気を消した。


なんということでしょう。淡く光る布団(再放送)部屋中を包む暖かな光。朝焼けのようなそんな雰囲気が広がっている。今なら風を感じれる気すらした。

いやそうじゃねぇ!


「おま!お前!!!やっぱり乳首光るんじゃねぇーーーか!!!!!!どうなってんだそれ!!!」

この後審神者にめちゃくちゃ見てもらったが「分からん。不便ちゃうしええやろ」と言われて治らなかったし、南泉と山姥切は光る乳首がきっかけで付き合った。
2024/10/13 01:28:29

女装チャレンジ南泉くん


#にゃんちょぎSS #刀剣乱舞SS

現パロ 燭へし描写あり
南泉くんが他人からみて受けだと思われているみたいな描写がありますが全然攻めです。





山姥切長義には幼馴染がいる。
目の前でぴよぴよ跳ねた金髪を揺らして、呑気にあくびをしている男がそうだ。
家が隣、と言うわけではないのだが、ざっくり言えば商売敵である家に俺たちは生まれた。親たちはまぁ仲良しとはいかないし、こう言う秘密の逢瀬だって見つかれば咎められるだろう。
「なぁ、山姥切、ポテト食っても良い?」
「構わないけど。まだ食べるのか」
「食べ盛りだ。にゃ」
ファミレスの喧騒の隙間で、ロマンチックのかけらもないのに、これでも好きなデートプランなんだよな、なんて考えてしまう。
「……次何処出かける?海とか?」
「夏も終わるけどにゃ」
「……まぁ確かに。だったら山?」
「行きてえの?」
「別に」
「じゃあもっと興味あるところにしろよにゃ」
「……君の家とか」
「そりゃあ、その、まずいんじゃねえの、か、にゃ」
南泉は一文字一家の末弟だった。要するにヤクザだ。そして俺は長船組の遠縁で、現在世話になっている家は長船一家の中心部にいる人たちの住む場所。要するにヤクザに世話になっている。敵対はしてないにしろお互い行き来するのは避けるべきではある。
「だよね。冗談だ」
「んー。なぁんでそんなことを?」
「たいした理由はないよ」
「なんにゃ」
「だから、たいしたことじゃ」
「はけ、吐くにゃ〜っ」
がぉとふざけて威嚇してくるのでため息をつく。
「……君が話してたんだろ?家でのんびりするのが好きって」
「ん、つまりおうちデート、したいってことか、にゃ」
「はぁ、まぁ?そうなるか?そうなるかもな」
「んにゃ……けどなぁ、ウチは、ウチはにゃ〜うーん」
「だから冗談だって」
「待て、山姥切。おウチデートなんだよにゃ、それならお前の家でも要件は満たす、よにゃ?」
「まぁ、そうだね?」
「わかった。お前の家でおうちデートにゃ」
「けどさ、実際君はご隠居に連れまわされて裏でも顔知れてるから、家に来たらすぐバレちゃうんじゃないかな」
「ぐ、……それは、帽子とか?」
「誤魔化せるかなぁ」
「最悪バレてもなんとか誤魔化してくれにゃ」
「……あ、そうだ良いこと思いついた」
「お前がそう言って良いことだったのは一度もないにゃ」
「女装してよ」
「嫌にゃ」
「なんで即答?」
「なんでもにゃ」
「良いじゃないか俺が服だって買って、コーディネートもするよ」
「いや、いや。ありえねぇ、似合わねえにゃ。ばれるにゃ」
「どうしても?」
「どうしてもにゃ」
「じゃあ君が女装するなら言うこと聞くよ。君だって俺に好きな格好させて良い」
「お前。お前ッお前にゃ〜」
「さて、何がお好みかな?メイド服?ミニスカポリス?」
「お前ぇ〜ふざけてるにゃ」
「本気さ」
「…………。く」
「え?」
「バニー服にゃあ!」
「すけべ」
「初めから無理な提案はするんじゃねえよ、にゃ」
「いいよ」
「そりゃ無理にゃ、にゃ!?」
「男性用サイズあるのかな」
「嘘にゃ冗談、やめとけにゃ。思ったより過激にゃ」
俺がスマホでさっさと買おうとすると嘘嘘やめろと泣きそうになっている。と言うか俺は前々から君に女装させる機会窺ってたからな。こんなチャンス逃さないけどね。
「じゃ、今週末ね」
「今週末!?」
「服買って君の家に郵送するから」
「郵送!?!?」
「家から着て来てね」
「おまえ、おまえ、あくまにゃ」
「でも、したいだろ?おうちデート」
「にゃ、にゃっ」
断末魔を聞きながらポテトをつまむ。南泉にアーンしたら呻きながらもぐもぐと食べた。


南泉のその日のスケジュールは過酷を極めた。家に来る全ての配達物を爆速で受け取り自分宛であれば部屋に引き上げなければならない。何故ってそこに女装グッズが入っているからだ。

「南泉、荷物のようだが。珍しいな。」
居間で丸まっていると上から声がした。義兄の日光が相変わらずの無表情でダンボールを抱えている
「にゃっ!?なんで」
「玄関前で配達員と出くわしたので、ついでにサインしておいたが、何か不都合が?」
「ないにゃ。どうもにゃ兄貴!流石兄貴!俺は早急にこの中身確かめるにゃ!!」
ひったくるようにダンボールを奪い俺は部屋に引き上げた。
「にゃぁ!!なんでにゃ!なんでにゃ!!」
部屋に入るなりとりあえずダンボールを開ける。
新品のデカめの服と、靴。そしてメッセージ。
「入ると思うけど無理だったらすまない笑」
舐めてるだろアイツ。
正座して、とりあえず床に並べる。
黒のインナー、白地の豹柄カーディガン、デニムの短いスカート、ロングブーツ。
「いけ、いけるか?これ……むりにゃ」
一旦室内で着てみるがしかし、この部屋には姿見がない。と言うかここからどうやって家から出るんだ?さっき日光の兄貴が帰ってきたところなのに?
「庭から?」
平家で純和風のクソデカ家屋に住まうわけで、窓から出ようなんてことはできない。縁側に出て(高確率で御前がいる)庭を通りすぎ(中確率で小鳥の世話をするお頭がいる)
無理だろうが。
俺はとりあえず部屋から顔を出した。縁側が見える。誰もいない。俺は意を決して部屋を出た。
「はぁ、はぁふざけやがって、にゃ」
庭を覗き見る、誰もいない。
俺はダッシュで家を出た。もう嫌だった。走り出してから、これ、帰りも同じことしなきゃならねえんじゃ?と、気がついて、泣きそうだった。


南泉はなかなか来ない。カフェで待ち合わせするわけにもいかないので人気のない公演にしたのだが、そうなると暇だった。
なのでぼんやりありを眺めていた。
「はぁ、はぁおまえ、おまえ、おまえにゃ!ミニスカはねぇだろ!」
「似合うよ」
「嬉しくねぇ」
ベンチの上の砂を払ってやると「良いんだよそんなことは」とむすっと言われる。
「なんにゃ。顔見過ぎにゃ」
「やっぱり化粧しよう」
「そこまで!?」
「当たり前だ。そのために持ってきている。」
「なんなんだよぉもう。おまえできるのかぁ、そんなの、にゃ」
「このためにメイク動画を何周もしたからね」
「まぁできるんだろうけどよぉ」
南泉はもう疲れて抵抗しなかった。とりあえず汗を拭いてやって、前髪をクリップで止める。
「……」
「眉間に皺を寄せるなよ。そんなに濃くしない。せいぜいチークとアイシャドウだ。君元から可愛いしね」
「はぁ〜すきかってしてくれるよにゃ」
「だって俺のものだからね。君は」
「はいはい」
「なぁ、バレなかったか?」
「バレてねぇよ、多分。あぁ、やなこと思い出した、帰りもあんなの耐えらんねぇにゃ」
「俺の服貸してあげるよ。お下がりの大きめのやつ。」
「はぁ。たのむ、にゃ」
「疲れすぎだぞ、デートはこれからなのに」
「これ以上が疲れることあるのかにゃ」
「無いかもな、ふふ」
「お前楽しんでるだろ?」
「そうだよ。俺が楽しんでいて君も嬉しいだろう」
「はぁ、はいはい」
南泉の顔に化粧を施すとさらに煌びやかに可愛い顔になる。俺は大満足だった。
「よし行こう。あ、ツーショット撮ろう」
「ここでかぁ?」
「いいだろ。ほら、カメラ見て。」
「しかたねえにゃ」
「ふふ、いいね。」
「おい、誰にも見せるなよ、にゃ」
「わかってるわかってる、ほら行こう。俺の家まですぐだから」
「はぁ、このロングブーツ歩きにくいんだよにゃ。エスコートしてくれ、彼氏様」
「仕方ない腕でも組む?」
「組む組む。超組むにゃ。」
「ヤケクソかな」
「ヤケクソにゃ。」
「まぁ今この瞬間もこの空間でベストカップルみたいなところあるし見せびらかしていこうかな君を」
「悪趣味なやつ」

「うわぁ」
長船の家はタワマンであり、そのワンフロア全てを貸し切っていた。お隣さんなんていたら何人惚れられるかわからないから、らしい。何故そうなったとかは聞かなかったけど、過去に何かあったに違いない。
「フロア貸切って感じだね」
「おい、なら、ここまでする必要あるのか!?」
南泉が気がついてしまったようだ。うん、まぁないと言えばないか?
「晩御飯とかお裾分けしにきてくれるんだよ?危険度はそう変わらないさ」
「そんなでも無いじゃねえか、にゃ」
「というか、監視カメラで誰が出入りしたかは逐一チェックされるし俺が誰か呼んだのは確実に把握されるよ。まあ女の子なら見逃してくれるかもなぁと思ってね」
「えぇ?そうなのかぁ?」
家に入ると南泉は「デカすぎるだろ?一人暮らしでこれかぁ?」と少し引いている。こんなもんじゃないのか……?けれど、どうあれ自分のテリトリーに恋人がいるのは存外気分が良かった。
「ふふ。」
「ご機嫌だにゃ」
「何する?映画見る?」
「ウキウキだにゃあ、もう、靴脱げないにゃこれ、うぉ」
「ちょっと小さかった?」
「ちょっとにゃ」
「わぁ、足が出るとやっぱりゴツいね」
「わぁじゃないにゃ。お前が着せたんだよにゃぁ?」
「でも、可愛いよ」
「お前、いい加減に、」
「ねぇ、南泉。おうちデート、何したい?映画?それとも」
にっこり、と微笑んで、南泉を見る。もちろん決まってるだろう?
「もう負けでいいにゃ。お前のお望みは?」
ぎゅっと抱きしめられて、まぁそうだな、と少し考える。
「とりあえず、可愛い恋人からのキスが欲しいね」
ちゅ、と可愛い音がして唇が触れる。まだ廊下で部屋にすらついていないが、それも気にしていない。
口内を荒らす南泉の舌に、水音。可愛い格好をして化粧をした、きみ。全てが興奮材料になる。
「んっ、なんせん」
「言っとくけど、初めてを女装でなんてしねえからにゃ」
「ふ、ふふ、そう?」
またキスを再開して、南泉の首に手を回したところで南泉の動きが止まる。
「、ちょ、ちょうぎくん」
聞き覚えのありすぎる声だ。南泉以外の。
長船のボスたる光忠が、玄関の扉を開けて、タッパーを手から滑り落とした。めちゃくちゃに震えた声で「お邪魔しちゃった、か、な⭐︎」と言ってドタバタ去っていく。
「な?危険だろ」
俺の言葉に南泉は赤くなったり青くなったりしながら答えた。
「危険だろ、じゃ、ねぇ!!!」


後日、南泉は何故か日光の筋の親戚、長谷部に呼び出されていた。
時折日光に用事があるらしく、家に来ることはあれど、俺を呼び出すことはなかったのに。
たまたま家に来たその男は、微妙な顔をして、客間に来い、と言う。
「長谷部の叔父貴なにか?」
「お前の叔父ではない。」
「長谷部さん?」
「それでいい。」
「あの?」
「お前、長船の末弟に抱かれてるのか」
「にゃっ!?!?!?!?」
とんでもないことになっている。なんでそんなことをこの人の口から聞くことになるんだ?わけがわからない。
「どうなんだ」
「ちが、ちがうにゃ」
「隠すな。」
「いや本当に違うにゃ」
「……長船の、光忠がお前らのその、なんだ。情事を」
「あれはキスしてただけにゃ!!」
と言うか何故この男がそんなことを知っているのか、とか、光忠さんからきいたのかとか言うべきことは色々とあるはずだけれど、うまくまとまらない。
「抱かれてるんじゃないか」
「抱かれてないにゃ!!」
「でも女装してたんだろう」
「おしまいにゃ……兄貴には、兄貴には内緒で」
「日光にか?別に言ったところであれが変わることもないだろう」
「そう言うことじゃないにゃ」
「そも、俺は咎めに来たわけではない。知識はなければ大変だろうと言うアイツの差金だ」
「その、それは。必要ないにゃ」
「するつもりがないと」
「だから、俺じゃなくて、あっちに」
そもそも、随分と前に抱きたいと言う話はしていて山姥切も一応了承したのだ。かなり揉めたけど。
「…………。女装して抱くのか?それは色々拗らせてないか?」
「そんなセイヘキないにゃ!!もうしないにゃ!!そもそも女装だって、あいつが」
「…………?ふむ、なんだ。色々と思い違いがあるようだ。早とちりして悪かったな、南泉」
「はぁ」
「……まぁ、その。お前、とんでもない男に捕まっているようだな。お気の毒だ。」
「長谷部さんほどじゃないにゃ」
「…………。まぁ、あれに付き合えるのは俺くらいなものだからな。はぁ。とりあえず、俺は今から光忠のところに行く。お前も来い」
「なんでにゃ?」
「今頃光忠が末弟にセックス指南してるから止めてやれ」
「にゃ〜っ!?」
幸い光忠さんはムード作りの話までしかしていなかったため、ギリギリことなきを得た。
2024/10/13 01:25:31

医療現場は戦場だ。


#譲テツ  #K2SS  #R-18
18歳以上ですか(Y/N)

2024/10/13 00:45:35

一度きりでも許さない


#譲テツ #K2SS  #R-18
18歳以上ですか(Y/N)

2024/10/13 00:42:15

祠壊したネムちゃん


「あ、あ、ごめんなさい嘘そんなつもりなくて」
泣いたってもう遅いし、こんなの呪われちゃうって目の前真っ暗になってるところに
「あー。また壊れたのかよ。ボロいんだよここは」
ぴゃっと直して
「帰った方がいいぜ、この辺、出るから」
って適当言うウルフくんみたいんだよね
#ウルネム #ウィッチウォッチ  
2024/10/12 02:03:07

pixiv


ウィッチウォッチ垢 pixivリンク
とうらぶ垢 (にゃんちょぎ)pixivリンク
2024/10/12 01:37:33

こちらはケンカップル大好き個人サイトです。


二次創作などを扱っています。
版権元様・関係会社様とは一切関係ございません。
ご了承いただける方18歳以上の方のみサイトをご覧ください。
2024/10/11 23:11:19

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